終わりの予兆⑦ 初心な彼女

 シュウとカナは、特に会話もなく学校への道を歩き進めていた。付き合い始めたのが昨日。その前からも一緒に居る時間は、長くあった。しかし殆ど部活の事ばかり考えていた為、今更恋人らしい会話が思い浮かばなかった。シュウは空を見上げエネメルバックを指掛けるように持ち、頭の上で手を組む。

〈うーん。これは、まずくね?えっ付き合い始めて二日目、早くもピンチ?何にも話浮かばないんですけど?いやーまてて、これでも作家の息子考えれば何か浮かぶはず。このまま学校についてそのまま席に着くとか気まずすぎるだろ。何か、何か無いか?〉

「今日、夜中雨降るらしいぞ。傘持ってきたか?」

白と黒髪の少年は顔から冷や汗が止まらないような感覚を覚えた。自分から吹っ掛けた話題なのに何も話しを広げられなない。

「ねぇ、シュウ?」

何故かその言葉に少年はビクッと後ろにのけぞるような反応を示し足を止める。少年の挙動不審な態度に、彼女は振り返り訝し気になる。

「どうしたの?」

「べっ別に?で、なんだ?なにか言おうとしてなかったか?」

 少年は何かに焦って居るような、或いは何かを誤魔化しているかのような態度を見せる。少女は増々、そんな少年の態度に訝し気な視線を強める。

「まぁ、うん。けど、何その表情。何か聞かれちゃまずいことでもあるわけ?」

「いや、そんな事は無いよ。むしろ色々聞いて欲しいというか何というか。」

「ウン?」

 少年の返答は、実に的の得ない返答だった。そんな彼のはっきりとしない態度が気に食わない少女は、段々と距離を詰め顔を近づける。

「まぁ。ホント落ち着けって、何もやましいことはないからさ。」

「そう。」

少女は詰め寄っていた姿勢を解き、元の体制へと戻る。少年は、ホット息をつき額の汗を拭う。少女の疑いは完全には晴れていないのにも気づかず、少年は不要なことを考えじっと少女を見つめる。

〈うーん。カナって、こういうとこあるよな。何か気に食わないところあれば、すぐムッとする。でも、あれ?よくよく考えてみれば・・・〉

「なに?」

少女にとっては、少年がため息をついたこともそのままじっと黙ってこちらを見つめてい居ることも気に食わなかったらしい。少年は、その一言に怒りや呆れ等の様々な感情が入り混じっているのを感じた。少年はこれ以上弁明をしても埒が明かないのを悟り、純粋に頭に浮かんだ疑問を投げかける。

「いや、カナってさ。あんまり他の人に問い詰めたり、威圧したり、そういうことしないよな?他の人には我関せずみたいな感じで・・・なんで俺だけ詰め寄ってくるんだ?」

少年はそう言いながら、よくよく過去を思い返してみる。少年の思い返したカナは自分には問い詰めたりすることはよくあったが、他の人が突飛な態度をとってもそれに対し怪訝な表情を浮かべるだけで問い詰めるなんて事はあまりしている様子もない。なんて言うか、ドライだ。

そんな少年の何気ない問いに、少女は図星をつかれたような表情を見せる。この少女、今はこんな風だが、学校では冷たい女、人に期待せず固執しない女としてやや噂になっていた。

「は、べっ別に、そんなことないわよ。ほら、ゴウさんとか、他にもいろいろと・・・」

そんな彼女の苦しい言い訳に、少年は確かに練習中とか他の部員にあたっていたなぁ…となぜか納得する。

「俺がなんだって?」

カナの背後にシュウより背の高い屈強な男が現れた。ちょうど街灯直下に現れたため、顔があまりよく見えず、シュウとカナは思わず怯えてしまっていた。男は段々と近寄ってきてきた。よく見ると、男はシュウが着ているのと同じ制服を身に纏っていた。近づいてきた男の顔が露わになり、シュウとカナは思わずホッとため息をつく。

「んだよ、ゴウかよ脅かしやがって。」

「だれがいつ脅かしたんだよ。」

「うっせぇ、ゴリラ。」

「あ゛」

彼の名前は、賢守ゴウ。シュウの親友で相棒(バッテリー)である。そして、一応カナとは同じクラスでシュウとは別クラスである。

「で、何の話をしてたんだ、俺がなんとかかんとかとって。」

ゴウは話題を元に戻そうとする。だが黒い長髪の少女は視線を暗くそっぽを向き、口を開こうとはしない。代わりに、白と黒髪の少年が口を開く。

「え、いや、カナは執拗に俺に詰め寄ってくるけど、他のヤツには無関心みたいな感じに思ってたけど、お前とか他の部員とかにも俺の時みたいな態度してるし、俺の思い過ごしだったかなぁみたいな。」

「んっだよ。そんな話かよ。」

シュウの言葉にはまとまりがなかったが、なんとか誤解は解けたようだ。少年はほっとしながら、煽るように投げかける。

「逆にどんな話だと思ったんだよ。」

「別に、なにかとか特にねぇよ。」

ゴウは、カナと同じく学校であまりよくない噂が広まっていた。カナの場合その態度から冷酷無慈悲な人物と評され、ゴウはその体格と強面な顔から反社会勢力或いはそれに関連する人物と評されていたのだ。

「そっか。」

シュウ自身も右で違う髪色と瞳を持つこと、他人から好奇な視線で見られる経験をしている為、あえて深く追及することはしなかった。

 三人は再び学校へと向かうべく歩みを進める。相変わらず少女の視線は暗いままだが二人ともそれに気づくことはない。

「さっきの話だけどよ。」

少年の相棒は、暫く歩みを進めていくうち何か思い立ったかのように会話を切り出す。少年は、歩きながら横目で相棒の方を見る。

「さっきの話?」

「ほら、カナがシュウに攻寄るって話。」

「あぁ。」

 少年は、すっかり忘れていたという様子で言葉を返す。少年の頭の中では単なる思い過ごしだったと結論をつけていたのだ。

「たぶん、お前の思い過ごしじゃないと思うぞ?」

「えっ?それって、どういうことだよ?」

 予想外な相棒の指摘に、少年は語威を強めて言い返した。そんな少年の態度に相棒は、やや面倒くさそうに言葉を返す。

「んなもん俺が知るかよ。確かに俺たちも多少小言われるけど、そんな頻繁には無いぞ。あっいや、お前に関係する事ならあるか。気になるなら、本人に直接聞けよ。そこに居るんだしさ。」

ゴウに言われてシュウはカナの方を見る。彼女からは何だか黒いオーラのようなものがあふれ出ていていた。

 〈折角早起きして、付き合い始めて初めての朝、二人でルンルン気分で学校に行けると思ってたのに!なんでこんな強面野郎と一緒に登校しなくちゃいけないわけ?あーもう最悪。〉

どうやら彼女はその経緯はどうであれ、無言でも彼氏と二人で登校するだけで満足感を得られるタイプだったらしい。しかしそれを、ゴウに邪魔された。

 彼女の心中を察する事の出来ない、愚かな彼氏は黒いオーラを放つ少女に少しおびえたような口調で問いかける。

「カ、カナ?」

「なに?」

「べっべつに。」

少女の表情は怒り見満ち満ちていた。少年はその表情にやられ問い続ける事をやめた。三人はそのまま、特に会話を交わすことなく、学校に辿りついた。

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