終わりの予兆⑤ カナの疑問
シュウとカナは、学校へと向かう。道中、所狭しと一軒家やアパートが並んでおり、その間に木々が植え込まれている。町全体の人口は然程(さほど)多い訳ではないが、道路も舗装され、街灯も整備され街を明るく照らしている。陽の光が届かないこの世界は、謎の光によって昼夜の区別はあるものの、それだけでは心許ない為毎時間街灯の電気はつきっぱなしである。
「そういえば、カナ。手に持っているのって。」
「あっこれ?あなたのお父さんが書いた本よ。」
少年は、彼女の持っているものに興味を示していた。少女は、持っていた本を表紙が見えるよう持ち変える。
「ふーん。父さんのね。」
「余り興味ないわよね、親の仕事なんて。」
少 女は、笑顔だが内心は彼氏のそっけない反応に傷ついていた。
「別に、興味ないわけじゃないんだよなぁ。父さんはすごいと思うよ、多くの人々に思いを伝え評価されている。誰にもできる事じゃない。そこは素直に尊敬している。」
少女は、やや彼氏の言葉に驚いていた。普段親の事については話さず、この本に関しても読む必要は無いと言われていたからだ。少女は、彼氏の顔を見上げる。少年はその視線に気が付かないまま続ける。
「でもなぁ、その本ちょっとなぁ。」
「ちょっと?」
少年は少しばつの悪い表情を見せる。少女は何故少年はそんな表情をするのかと不審に思う。
「いやさ、普通のファンタジー作品として評価されるのは分かんだよ。神とか魔法とかね、でも、この本に書いてあることが過去に起こったんだ。ていうのはちょっと違うんじゃないかなぁと思うんだよな。」
シュウの意見はもっともだとも思いつつ、カナは彼の妹の発言を思い返していた。
「まぁ、確かに真実とは…言い難いわよね」
歯切れの悪い返事に彼は少し気になりはしたが、あえて追及はしなかった。この世界の詳細なんて誰も分からない、真実なんてあってないようなもの。ここで追及しても答えは出ないものだ。
「この本について、あなたの妹さんはどう思ってるのかしら。」
シュウの考えとは裏腹に、カナは追及を進める。やはり黒い長髪の少女にとっては、青髪の少女の言い分にはやや無理があるように思えたからだ。
「ん?ヨウも大体同じ考えだと思うぞ。あんまり詳しい話はしたことないが、少なくとも全部が真実だとは思っていないんじゃないか。」
「そう。」
またしても、歯切れのない返事だ。心無しかカナの視線はやや俯いているように見えた。シュウはカナの様子が気になった
「なんでそんな事を聞くんだ?」
黒い長髪の少女は、何かを誤魔化すように強い口調で言い返した。
「別に?彼女として、あなた達がどういう気持ちでいるのか知りたかっただけよ。」
「ふーん。彼女としてね。」
シュウはどこか上の空のような感じで返した。彼女はそれが面白くなかった様だ。
「何よその、気のない返事は。」
「別に?色々考えてくれてるのは有難いんだけどさ、あまり気負わないで欲しいんだよ。カナにはやっぱり自由でいて欲しいからさ。その為に俺は、君と付き合う事をきめたから。」
シュウはいつ自分がカナのことが好きになったのかは覚えていない。たた家族と同じ位、長い時間を一緒に過ごし、彼女の献身的な姿に惹かれていったのは間違えない。だが、同時に彼女を自由にしてあげたい、一度奪ってしまったカナの夢はもう叶わないかもしれないけれど、せめて他の夢が見つかった時、全力でサポートしていきたいという気持ちはあの時以来ずっと思っている。その前からも。
「そう、ありがとう。」
シュウが抱いている自分に対しての気持ちは以前聞いている、なので、何となく分かっているつもりだ。シュウは何かと背負いすぎている。でもそんな事より、ヨウの件でカナの頭はいっぱいだった。
〈シュウは、この本が真実じゃないと思っている。ヨウさんも同じ意見だと。ではなぜ、ヨウさんはこの本に書かれていることが真実だって言ったのかしら。謎だわ。〉
シュウはカナがまだ何か悩んでる様子なのを感じ取ったが、今度は放っておくことにした。
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