第一章 終わりの予兆

終わりの予兆① シュウの家族

ピピピッピピピ。机の上の目覚まし時計が鳴り響いていた。少年は体を起こし時計のスイッチを押す。ハァーと、伸びをした後ベッドから立ち上がるようにしながらベッドをでる。そのまままだ眠気が残っているのかゆらゆらと頼りない足つきで、机の後ろを通りカーテンを開け、窓を開ける。空は、相変わらずの曇り空だった。網戸越しに伝わる風を浴びながら、再び伸びをして腕をおろす。そのまま左に方向を変え、先ほどよりは確かな足つきで少し歩きドアノブを掴み開き部屋を出る。

斜め右手の部屋から、フワッーとあくびをしながら扉を開く青一色のパジャマを身に纏う青髪の少女の姿が見えた。

「あっお兄ちゃんおはよう。(ねっむい〉

「おはよう、ヨウ」

シュウは、眠そうな少女の表情をみてほほ笑んだ。少年・シュウとヨウは同じ高校に通う兄妹である。シュウの部屋から左に進み突き当りを曲がり階段を降り居間に向かう。ヨウはまだあまり、眠気が取れていない様子だ。目が開いてるか分からない程しか開ききってない目を左手で擦りながら、階段をおり廊下に出て左に進み右手側に位置するの居間の暖簾をひらく。

「おはよう、シュウ。ヨウはなんだか眠そうね。顔洗ってきなさい。」

薄っすらとしわのある七三分けの茶髪の女性が居間の奥にあるコンロから振りかえった。IHコンロの上のフライパンには本日の朝食である、目玉焼きとウインナーがいい具合に焼かれていた。

「はぁーい。」

青髪少女は、一度廊下に戻り隣の脱衣所の洗面台にゆらゆらとした足つきで向かう。廊下のフローリングは暗いせいか、やや冷たく感じた。

 居間の床はフローリング。今はつけてないが、床暖房つきだ。入って左手には埋め込み式の大型テレビ、その正面にはこたつを取り付けられる机に、五人掛けのレザーソファがL字に配置されている。そして奥のスペースにはダイニングテーブルと四人掛けの椅子も周囲に囲うように配置されている。

「母さん。ごはんよそおうか?」

「じゃあお願いしようかしら?」

IHコンロから延びるシンク隣に設置されている冷蔵庫の手前、四人がけのテーブル窓側にこし掛けていた男が、新聞を置き立ち上がる。男の服装は、黄色と茶色のダッボとしたポロシャツに中年太りした腹に茶色のベルトと、グレーの長ズボン女の服装は薄いピンクのトップスに黒のパンツ、大人らしさと若さを兼ねそろえたファッション。大人二人は、もう既に身支度を終えていた。シュウは手前の席に腰かけあくびする。そして、親が気晴らしに付けたであろうテレビを眺める。

 朝食の準備が進む中、脱衣所の洗面台。ヨウは顔を洗い終え、後方に掛けられているタオルで顔と手を拭き、居間に戻ろうとしていた。

『今日の天気は曇りのち雨、又夜には落雷の可能性がありますので、十分気を付けてください。』

テレビの天気予報を聞きながら、居間に辿りつく。そして、テレビの前を横切り窓に向かいカーテンを開く。陽の光は無い。あるのは黒に近い灰色の雲だけだった。雲は無限に続き、まるで何かを覆いかぶせてるようだ。妹が雲を切な気に眺めている様子をシュウは、ただボーっと見ていた。目が開ききった彼女の瞳は大きく青色で輝いている。肩にかかりそうな長さの青髪の毛先はウェーブがかかっている。顔立ちは幼さもあるが美人ともいえる少し大人びたような可愛気のある少女だ。

「あーあ。せっかくの誕生日なのに、空はどんより曇り空。おまけに雨かぁ。」

その声は、無理をしてわざと明るく振る舞っているようだった。

「仕様がないでしょ、記録上はこの世界に晴れた事なんて一度もないんだから。まぁ雨なのは確かに残念でしょうけど。そんな事ばっかり気にしててもしょうがないでしょ。とっととせきについてご飯食べちゃいなさい。遅刻するわよ。」

テーブルの上を見ると既に朝食が出揃っておりかすかに料理の匂いが漂っていた。

「はぁーい。」

気のない返事をしながら、青い瞳の少女は自分の席へちゃぶ台の後ろを通りながら向かう。

 ケンとナン、ヨウとシュウがそれぞれ席に着き向かい合い、手を合わせる。

「いただきます。」

今日の朝食は、目玉焼きとウインナーにサラダが添えてある大皿と、みそ汁と白米だ。そこにあるのは、普段通りの何気ない日常。テレビのニュース番組をラジオ感覚で聞きながら、黙々と食べていた。会話をせず、微かに聞こえるのは食器と箸が接触する高い音と、漏れ出る租借音だけだった。

「ご馳走様」

気品ある女の声が沈黙を破る。女は、ナプキンで口元を軽くふきとり立ち上がる。ナンは、片づけを行うためにいつも早くにたべおわる。とは言ってもほかの三人は食事中なので、できることは限られている。

「そういえば、母さん。例の店予約したんだろ?何時だったっけ?」

「えーと、確か。待ってくださいね。」

ナンは近くのカウンター置いていたスマホを手に取り、メールボックスを確認する。

「21時ですね。少し遅い時間ですが、就寝時間には間に合うでしょう。」

「そうだな、父さんは、打ち合わせがあるから先に向かっててくれないか?」

「わかりました。遅れないでくださいね。」

そういと、母は再び家事へと取り掛かる。父も続いて食べ終わり、シンク内の桶に食器を入れる。ケンが食べ終わるころには既にナンは自身お皿を洗い終えておりカウンターに重ねておかれていた。洗い終わった食器には水滴が残っていた。毎日の容量でケンはタオルで水分をふき取り食器棚へと閉まった。

「あなた?今日は大事な打ち合わせがあるのでしょ。準備は済ませてるのかしら?」

「まぁ、これくらいはしておかないと、二人の父としてのメンツがな。」

「別に、誰も気にしてないと思いますけどね。」

「まぁ、いいんだよ。ただの自己満足みたいなものだから。」

「そうですか。でも助かりますわ。ありがとうございます。」

父は仕事柄家でいることが多いが、家事は基本的には母に任せている。ナンの方が家事が得意で率先して行っている形だ。しかし、二人の子を持つ母も仕事に出ている。母はそんな父に対しては何とも思っておらず、むしろ得意な人が率先してやるべきと思っている。しかしその反面、ケンは「家にいて家事もしない父親」というのは子供達にはいいように思われていないのではないかとついつい気にしてしまう。

そんな父親の気持ちを知る由もない子供二人は食事を黙々と続けていた。

「そういえば、ヨウ。今年もクラスメイトとも誕生日会するのか?」

「うん、そのつもり。お兄ちゃんも来る?」

「ああ、行くよ少し遅れるかもだけど。」

そんな会話をくりひろげ、二人は食事を終えた。食べ終わった食器はそのまま机に残されていた。ため息をつきながら、母が食器を片付け洗う。洗い終わった、食器を父が受け取り先ほど同じ手順を繰り返す。

「いつもありがとうな。」

「いいえ、こちらこそ。」

そこには、不器用な父親と母の姿があった。

その頃シュウは自室で身支度を進めていた。シュウの学習机の上には学校から配布された卓上カレンダーが置いてあった。今日は、7月22日高校の終業式である。天板下の収納から筆記用具を取り出す。立ち上がろうとする中、ふと机に置いたバットとグローブが目に入りたちつくす。

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