終わりの予兆① シュウの家族

ピピピッピピピ。机の上の目覚まし時計が鳴り響いていた。白と黒髪少年は、寝ていた体を起こし時計のスイッチを押す。ハァーと、伸びをした後ベッドから立ち上がり床へと降り立つ。そのまま眠気がら解放されないまま、ゆらゆらと頼りなく歩みを進める。机の後ろを通りカーテンと窓を開ける。空は、相変わらずの曇り空だった。網戸越しに伝わる風を浴びながら、再び伸びをして腕をおろす。そのまま左に方向を変え、先ほどよりは確かな足つきで扉の方へと歩みを進めドアノブを掴み開き部屋を出る。

「あ、お兄ちゃんおはよう。(ねっむい)」

 扉を開いた先に、斜め右に位置する部屋から出てきたであろう少女が目をこすりながら現れた。

「おはよう。ヨウ。」

少年は、眠そうな少女の表情をみてほほ笑んだ。少女の身を包む青一色のパジャマは少し着崩れていたのだが気にする様子は伺えない。

二人は、階段の方へと歩みを進める。シュウとヨウは同じ高校に通う兄妹である。横並びで階段を下った少年少女は、廊下を左に進み右手側に位置する居間の暖簾をひらく。

「おはよう、シュウ。ヨウはなんだか眠そうね。顔洗ってきなさい。」

 居間の奥には、気品のある女性の姿があった。女は朝食の準備をしながら、暖簾の方へ向き子供二人へ声をかける。

「はぁーい。」

調理場に立つ女性に眠気冷め止まぬ様子を看破されたヨウは、少し不貞腐れながらも素直に廊下を出て右隣の部屋へと向かう。

「うーねむい。」

目をこすりながら歩く廊下のフローリングは、暗いせいかやや冷たく感じる。脱衣所へと辿り着いた少女は、洗面器で顔を洗う。

女はIHコンロへと向き直り朝食の準備を続ける。今朝の献立は、目玉焼きとウインナーそして味噌汁だ。

四人がけのダイニングテーブルの一端に腰を掛けて新聞を読んでいた男が、読んでいたそれを畳み立ち上がる。

「母さんごはんよそおうか?」

「じゃあ、お願いするわ。」

男は女に了承を経た後、女の後ろを通り炊飯器の方へと向かう。シュウは二人の様子を傍目で見ながら、自席へと腰をかけ両親が気晴らしの為付けたであろうテレビを眺める。

 テレビが天気予報を伝える中、顔を洗ったヨウが居間へと戻ってきた。青髪の少女は居間の奥に位置するダイニングテーブルには向かわず、テレビとセンターテーブルの間を横切り窓の方へと向かう。

『今日の、高森の天気は曇りのち雨、又夜には落雷の可能性がありますので、十分気を付けてください。』

ヨウはカーテンを開き、空を眺める。空には灰色で分厚い雲が区切りもなく浮かんでいた。

「あーあ。せっかくの誕生日なのに、空はどんより曇り空。おまけに雨かぁ。」

 今日は、少女の誕生日である。せっかくの祝いの日にも関わらず、無慈悲な雲に少女尾は落胆する。

「仕方がないでしょ、記録上はこの世界に晴れたという記録なんて一度もないのですから。確かに雨なのは残念でしょうけど。そんな事ばかり気にしても何も進まないわ。早く席について、食事済ませちゃいなさい。遅刻するわよ。」

 炊事をしながらそう提言した気品のある女性は、母である。少女は母の提言を受けふとダイニングテーブルの方へ眼をやる。既にその上には朝食の配膳が済まされていた。

「はーい。」

 少女はやや不貞腐れながらも食卓へと足を運ぶ。少年はそんな少女の様子をぼんやりと眺めていた。

「「「「いただきます。」」」」

 四人はそれぞれ手を合わせ、声を合わせた。四人は特に会話することなく各々のペースで食事を勧めていた。そこにあるのは、普段通りの何気ない日常だった。聞こえてくるのは、食器と箸が接触する高い音と、口から漏れ出る租借音、そして流しっぱなしになっているテレビのニュースである。

「ご馳走様。」

 いち早く食事を終えたのは、母であった。食事を終えた母はナプキンで口元を軽く拭い、ふわりとり立ち上がる。

母は、パジャマ姿の子供二人とは違い気品のある佇まいをしていた。その髪は編み込まれながらも首元で纏められ、上半身にはノースリーブの淡い紺のトップスの上に透け感のある紫のカーディガンを纏っている。

いつもいち早く食べ終わる母は、食器類の片づけへと移行した。そこに男が続く。

「手伝うよ。」

 立ち上がった男の服は、ふくよかな腹に引っ張られていた。彼は二人の子の父である。

「あら、あなた。いつもありがとうございます。」

 父と母の関係は実に良好で、互いの特技に合わせ役割を分担している。しかし父は腑に落ちていないらしい。

「そういえば、お母さん。今日の夕食、なに?」

そう切り出したのは、食事中のシュウだった。ヨウもそれにつられ、母の方へと視線をやる。

「今日は、ヨウの意向でディナーを予約しているわ。」

「何時?」

 少女は時間が気になった様子で、母に質問を投げる。質問を受けたナンはおもむろに、スカートにしまっていた携帯端末を取り出しメールを確認する。

「21時ですわね。少し遅い時間ではありますが、就寝時間には間に合うでしょう。」

「なら、父さんは打ち合わせもあるし、直接向かうことにするよ。」

「わかりました。遅れないでくださいね」

 そんなやり取りを交わし、食べ終わった二人は食器を机の上に残したまま、居間を後にした。

「やれやれ、食べっぱなしとは、困った子供達ですね。」

「本当にな。」

 二人の子を持つ両親hs親は溜息と愚痴をこぼしながら、シンクの中へと食器を片付ける。

家事を得意とする母は、率先してそれを執り行っていた。しかし、父はそれが腑に落ちていなかった。否、腑に落ちなくなったというべきか。そう、当初は互いの意向でそれぞれの得意に合わせた役割を行うことに不満は無かった。しかし、子供が産まれ育てていく内に罪悪感のような感情が芽生えていった。それは、父で有りながら普段家で割と自由に仕事を行っている事も起因している。父はその感情が芽生えて以来、積極的に母を手伝うようにしている。

「あなた?今日は大事な打ち合わせがあるのでしょ。準備は済ませているのかしら?」

「まぁ、これくらいはしておかないと、二人の子の父としてのメンツがな。」

「別に、誰も気にしてないと思いますけどね。」

「まぁ、いいんだよ。ただの自己満足みたいなものだから。」

「そうですか。でも助かりますわ。ありがとうございます。」

 両親の気も知らずに、居間を後にしていた二人は歩きながら、言葉を交わしていた。

「そういえば、ヨウ。今年もクラスメイトとも誕生日会するのか?」

「うん、そのつもり。お兄ちゃんも来る?」

「ああ、行くよ少し遅れるかもだけど。」

「わかった。」

 部屋の配置上、先に部屋へと辿り着いた少年は妹に別れを告げ自室へと戻った。自室へと戻った少年は、学校へと向かうための身支度を整える。

 途中ふと、机の上に置いてあるカレンダーが目に留まる。今日は、7月22日シュウたちの通う高森高校の終業式である。そして、左右に分かれた白と黒髪の少年は一度は捨ててしまったそれに目をやる。

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