世界創造物語1-② 地球の神VS火星の神

 男神は剣を構え、理力を剣に流しこむ。理力。それは、宇宙に住まう者が持つ異能。その異能は引力と斥力を操り、それにより生じた引力はあらゆる物を引き付けようとし、斥力はあらゆる物をはじく。

 その剣に流しこまれたのは斥力だった。男神は水平にその刀を振り、女神の脇腹を斬り割こうとする。本来、斥力が込められた剣で他者を切ろうとすると傷口が接触点から拡張され、相手の体は反側面へと折曲がり分断される。

 その剣技は、剣神と評される程に鋭く速い。アースの反応は少しばかり遅れたが、剣が腹部に接触した瞬間に接触点から斥力を展開。結果、少し傷を負ったもの、剣を弾く事に成功する。

「いきなり腹部を狙ってくるとは、躾のなってない剣ですね。」

 女はそう言葉を放ち反撃に移ろうとするが、中々移れない。女にとって防戦一方な状態が続き少しずつ後退していった。

「戦いに情けは無用!」

 男の心情は未だ晴れたモノでは無かった。彼はまだ、彼女との幸せな生活を諦めきれてなかったのだ。

〈強くなりましたわねマルス。〉

 押されながらも、地球へと派遣された神はエデンに居た頃の未熟な彼の剣技を思い返す。

火星の神は傲慢とも呼べるその心情を晴らすかのように一心不乱に剣を振り続けた。

「斥力・断螺旋(たちらせん)」

  水平一振りで無数の飛刃を放ち、その一つ一つが相手を輪斬りにししょうと襲い掛かる。

 女神はその剣技に対し身を守ろうと、斥力を鎧の様に展開をし攻撃を凌ぐ。だが、剣神の攻撃はそれで終わらない。

〈どうした、アース。僕の恋焦がれた君は、この程度で押されるような者ではなかった筈だ。〉

「斥力・」

 マルスは彼女の異能ごと斬り割こうと、どこか悔しげな表情を浮かべ一際強く剣に異能を込める。その一瞬の隙を見逃さなかった女神は体勢を立て直す。

「剣割き」

 女神が反撃に転ずる間もなく、振り下ろされた剣は袈裟斬りの要領で女の肩を捉える。しかし、その接点は彼女が前方に重心を移動したことによりずれた。

 女神の狙いは、一度距離を取る事。その為に彼女は、剣の方へと重心と自身の斥力を流し、男の異能へとぶつけた。

 結果、距離を取ることに成功した女神はマルスにとって未知の異能を掌に込め、青い輝きを放つ。

「水・スパウト」

 彼女の技名の発声と同時にその輝きから高圧力で大量に水が噴き出す。その水の威力は周辺の矮星なら0.1秒もかからずに粉砕するほどのものだった。

 しかしそれは、剣神に傷一つもつける事なく両断され霧散した。男は、初見にもかかわらず何の成果もだせなかった異能に対しやや落胆する。

「ちゃちな異能だな。」

「そうかしら。」

 自らの異能を斬り伏せられたのにも関わらず、その女神は余裕を漂わせる。そして、無知な男を嘲笑い教鞭をとるかのように言葉を紡げる。

「人は一人だと唯のか弱い存在だけれども、集まれば大きな力を発揮する。」

 その言葉には、彼女の無事な帰還を願う子や臣下そして信者等地球に生きる人達への思いが込められていた。

「何を言いたい?」

 一見この戦いに無関係な彼女の言葉に、男は無自覚にも関心を抱く。女は微笑み人差し指を立てる。

「分からないのですか?魔法も同じなのです。」

 魔法。それは、惑星の自然から生まれ、自然を生み出し、生み出したそれを育むための異能力(ちから)。彼女の指先を囲う様に五つの光が出現する。

「一属性だけなら、私やあなた達の扱う異能には遠く及びません。」

 青、赤、緑、黄、空色の輝きが、彼女の指先へと一点に交じり合う。火星の神は、その輝きが侵攻の目的である自然資源と関係していることに気が付く。

 そして、交じり合ったそれは男神に不可思議な仮説を思い起こさせる。女神は、何もしてこない男神から視点を外し指先へと集中する。

「しかし、水、火、木、土、風属性全てを均一に合わせると、それらを陵駕する┃異能力ちからとなります。」

 マルスの頭によぎった仮説。それは、宇宙に住まう者が扱う理力、神が扱う神術を一つの惑星に生まれた力が陵駕するというもの。

「ま、まさか。」

 マルスは一度は、否定しようとしたその仮定を、彼女の言葉を受け否定しきれずにいた。

「無・ディスアブル」

 目に見えないその光が止まっていた、否、止めていていた時間を再起させる。仮定が、現実へと昇華した瞬間である。

「あっありえない…」

 神の扱う異能力。その名も神術。それは時と空間を支配する。その力が異能力や戦闘力の低いこの惑星の異能に無効化されたのだ。

 驚き、呆気にとらわれている男神。再び動いた時の中で状況に追いつけない、乗組員達。それらに対し、地球の神は冷酷にも勝利を宣言する。

「これで、幕引きです。」

 女は高らかに手を掲げる。その掌に白い光が灯る。マルスは、呆気から立ち直りその光めがけて剣に最大級の理力を込める。

「理力・剣割き」

その剣は、その光を捕らえたところで動きを止めた。否、止めさせられた。

〈安心して下さい、マルス。死者は出ませんから。どうかお元気で。〉

 彼女の眼に再び涙が宿る。その涙は、まるで別れを惜しんでいるようだった。そんな彼女の表情が補足したマルスは、一瞬剣に込めた力を弱める。

「光・スペース・リポーション」

 五属性を均一に合わせることで生み出される属性。無属性。それには、発散を表す光、凝集を表す闇、それらを打ち消す無が包含されている。

 神々しく響き渡る悲痛な神の声と共に、自然・宇宙・神の力を合わせたその技は全艦隊を包み込み弾き飛ばした。

―二人の神の戦いはこれにて決着した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る