世界創造物語1-② 地球の神VS火星の神

彼女の眼差しに強い光が灯った。その眼差しが意味するのは何かの決意を表すのかそれとも、過去との決別か。マルスはアースの決意の一端を受けとり軽くうつむき腰に掛けていた剣に自身の理力を込め決別しようとする女神に襲い掛かる。

理力。それは、宇宙に住まう者が持つ異能。その異能は引力いんりょく斥力せきりょくを操り、それにより生じた引力はあらゆる物を引き付けようとし、斥力はあらゆる物をはじく。剣に込められた理力は斥力。斥力が込められた剣で他者を切ろうとすると傷口が接触点から拡張され、折り畳み定規のように体が折れ曲がる。

しかし、実際にはそうはならなかった。アースは少し反応が遅れたものの、剣が腹部に接触した瞬間に接触点から斥力を展開。結果、少し傷を負ったもの、剣を弾く事に成功する。

「話の不意にとは、躾がなってない剣ですわね」

ようやく彼女の瞳から涙が晴れた。火星の神は何かに折り合いをつける為か、過去をあきらめる為か剣を乱暴に振り続けた。何度も襲い掛かってくる剣に対し手のひらに斥力の理力を込め剣を弾く。傍からはアースは押されており、地球の苦戦を強いられているように見える。しかし、彼女の表情には余裕があった。

「戦いに情けは無用!」

その叫びは悲痛にもとれるような叫びだった。剣を振るい続けた神は、一瞬その剣を止め構え直す。剣を片手で持ちもう一方の手でなぞるかのように剣を引く。その剣には彼女の異能ごと斬り開く為の斥力が込められていった。

 充填された剣を今度は両手で剣先が上を向くように構えさらに理力を流し込む。

斥力リパルジョン

発声と同時に縁が腰の位置になるように引き付ける。異能が螺旋状に宇宙そのものが持つ力とともにまとわりつく。

剣突きブレードストライク

その剣先が、彼女の異能ごと突き割こう襲い掛かる。並みの異能者では剣先が近づく前にその異能にのまれ死に絶えるだろう。アースも宇宙に住まう者が操る異能だけでは負傷を免れる事が出来ない程の威力だ。しかし彼女の異能はもう一つあった。彼女はその異能で斥力の異能を強化。強化された斥力の異能は緑色の輝きを放ちマルスの剣を弾く。その反動でアースはやや後退するがそのまますかさず、その異能を手に集中させ放つ。今度は水色の光が手中に現れた。

スイ・スパウト」

それは、マルスにとって未知の異能だった。彼女の技名の発声と同時に手掌から高圧力で大量水が噴き出す。その水の威力はそこらの岩石なら0.1秒もかからずに粉砕するほどのものだったが剣技の達人は咄嗟に剣で両断した。

彼女の 操るもう一つの異能それは魔法だ。惑星の自然から生まれ、又自然を生み出し、生み出したそれを育むための能力。地球人は多くても三属性の魔法しか操れない、しかし地球の神であるアースは五属性すべての魔法を操る。

「ちゃちな異能だな。」

 マルスは初見にもかかわらず何の成果もだせなかった異能に対しやや落胆する。そんな彼をあざ笑うかのように地球の神は、教鞭をとるかのように言葉を発する。

「そうかしら。人は一人だとただのか弱い存在だけれども集まれば大きな力を発揮する。」

地球と、そこに住まう人たちと育ってきた女神は、何かを思いながら言葉を紡ぐ。

「何が言いたい?」

惑星の自然を狙ってきた神は、それと魔法との関係性に気付いていた。だがまだそれと、アースの言葉との関係性には気づいていない。

「まだわからないのですか。魔法も同じです。一属性ではあなたや、私たちの使う異能には遠く及びません。ですが、それらを全て合わせると・・・」

「まさか・・・」

アースは、人差し指をたてる。その指先に黒い輝きがともる。マルスの頭に信じられない仮定が思い浮かぶ。

「無・ディスアブル」

止まっていた・・いや、止めていた時間が動き出す。仮定が、現実となった瞬間である。マルスは神術と理力この二つの異能を操れる事により神と呼ばれていた。しかし、地球の神はそれに魔法を加えた三つの異能を操っていた。しかし三つ目の異能は戦力に乏しい惑星から発生した言うなれば下位の異能な筈。そんな異能に上位の異能である神術が打ち消されたのであるマルスにとってそれは到底信じられない光景だった。僅かな時間マルスは戦意を失い立ち尽くした。

「これで、幕引きです。安心してください。あなた達は、宇宙空間でも生きていられるでしょうから、死者は出ません。先の一撃も貴方の正面に誰もいない事が分かってから放ちましたので。」

彼女はマルスより遥か上に浮上し腕を開く。彼女の青いべールは彼女の放つ異能にのまれ白く輝く。艦隊の乗組員は只その場に立ち尽くす事しか出来なかった。ただ一人火星の神だけが地球の神に斬りかかろうと凄まじいスピードで接近する。そして、アースの上に辿り着き剣を勢いよく振り下ろそうとする。

「喰らえ、斥力・剣割き《リパルジョン・ディバイド》」

ためらう間もなく振り下ろした剣は彼女に触れることはなくマルスを始めとする軍艦隊全てとともに彼女の光に飲み込まれていった。

「光・スペース・リパルジョン」

神々しく気高い声が宇宙全体に広がるようだった。

無属性魔法の種類は三つある。発散を表す光、収集を意味する闇、そして上二つが交じり合い打ち消す無。彼女は、自然、宇宙、神の能力を併せて駆使しその光を放ったのだった。


これにて二人の神々による戦いは決した。

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