Film Intersect~終わりの始まり~

水戸純

序章 世界創造物語 第一部 地球の神・アース

世界創造物語1ー① 火星の神・マルス襲来

 今より、2000以上前。地球は、ある一人の女神によって治められていた。

 これは、地球を欲した男神とそれを迎え撃つ女神の戦い。その後この惑星に何が起きたのか、何故この惑星に陽の光が差さないのか、どのようにして創造されたのかを長年の探索を経て書き表した物語である。

 この物語を見た時、人はどう生き、世界とどう向き合うべきなのかをぜひ考えて欲しい。

            2008年8月8日ー 『世界創造物語』著・進道 ケン

◇◆◇◆

 無数の星々が輝く場所、宇宙。後に宙の界と呼ばれる場所で無数の軍艦が地球へと侵攻していた。

 それを迎え討とうとするのはたった一人の女性であった。そのあおいベールと天女の羽衣に身を包まれた女性は、凛々しくその艦隊待ち構えている。

「またまた、大層な軍艦隊だこと。そんなにこの惑星が欲しいのかしら、力だけを求めるあちらさんにとっては、全く価値のない惑星ほしだと思うのですがね。」

 各軍艦の大きさは全長1000mを優に超えており、数多の砲台が設置されている。無数の艦隊の数多の砲口を向けられていても尚、その女は落ち着いていた。

「マルス様、ご報告致します。正面に青いベールをかぶっている女性、アース様だと思しきお姿が艦隊先端部にて確認されております。」

 軍艦隊の中でもひときわ大きく銀色に輝く司令艦、そこには一人の神がいた。神とその側近は前方艦乗組員からの報告を受ける。

「一人で、か?」

「そのようです。」

 神から発せられる無自覚な威圧感に、乗組員は皆萎縮していた。数多の惑星の中でも随一の武力を誇る火星。その内の精鋭達であっても、この神の前では気を抜くことは許されない。

〈やはり、立ち塞がるか。〉

 赤い鬣と深紅の瞳を持つその神は、同じ神であるその女性の気配を感じ取り立ち上がり全艦に指示を出す。

「全艦侵攻停止。」

 火星の神・マルスは知っていた。神との対戦に置いて艦隊は何も意味をなさないということを。

「全艦停止。」

 神の号令を受けた乗組員が瞬時にその指示を伝播し、その巨大艦体の全てが侵攻を止める。

 侵攻が止まった事を神は、全艦に設置されている外部拡声器へとつなげられた集音器を強く握る。

「アース。聞こえているか。」

―無反応

 その深い重圧とも呼べる声と覇気が艦隊周辺を支配する。中には、気を失ってしまう乗組員もいた。しかし、その矛先を向けられている地球の神は凛々しい立ち姿のまま、正気を保っていた。

「アース、我々の目的はその┃惑星ほしにある資源だ、素直に引き渡せば悪い様にはしない。一旦その場から立ち去れ!」

 立ち塞がるその女の余裕のある態度を崩そうとするかのように、言葉の威力が増す。それはまるで拡声器がその者の覇気を伝播させたかの様だった。艦隊周辺の星やガス等が揺らめきその場から離れていく。

 「まったく、うるさい鞘鳴りです事。耳がキーンとしましたわ。」

 青いベールに包まれた女は口を開き、飄々とした態度で片目をつぶり耳の穴をほじる。剣神の二つ名を持つ男は背に携えた剣を握る。

「前談は、もういいでしょ。恥ずかしがってないで、さっさと表に出てきなさいな。」

 女は飄々とした態度で身体を揺らし、片手を鋭く振り上げる。それは、まるで風で作られた刃の様だった。手を振り上げられたことにより生じたその刃は刹那のうちに、正面の艦隊を幾つも斬り割いた。

 風刃は、艦隊の中でも一際目立つ戦艦の前で留まり霧散した。否、霧散させられたというのが正しい。銀色に輝く戦艦の前に、火星の神自らが出陣しその刃を斬り伏せたのだ。

 赤いオーラを身に纏い剣神と評される火星の神と、あおいベールを身に纏い凛々しく慈悲深さを感じさせる地球の神が相対する。

二人が向き合い、独特な緊張が周囲を支配する。周囲を席捲する濃密な時間は二人の神のもと支配され、その歩みを止めた。

「「フフフッハハハハ」」

時が止まり、静寂した空間の中で突如として二人の神が噴き出す。緊張感に包まれた雰囲気は見る影もなく一変し、和やかな雰囲気へと移る。

「いやぁ、久しぶりだなアース。」

「こちらこそ、お久しぶりですわねマルス。5000年ぶりかしら。」

「そうだな、エデンにいた時以来だから、それくらいだな。」

エデン、それは神々の出身地。その頃は、今とは違い平穏で明るい時間を過ごしていた。

「いや、ほんと久しぶりだな。元気してたか?」

 マルスはまるで少年に戻ったかのような口ぶりでアースに話しかける。彼女も満更でも無い表情で微笑みかける。

「ええ、おかげさまで。」

「それはよかった。色々と健やかに成長したみたいで。」

そう言いながら、男神は豊満な女神の身体をまじまじと見渡す。その視線に気づいた女は、わざとらしく腕で抱えるようにして体を隠す。

「あんまり、じろじろと見ないでくださいな。」

「あ、すまん。ついつい、再会がうれしくて。」

 久しぶりに顔を合わせた心友に惹かれてしまった男神は、我に返り謝罪の意を露わにした。

「それで、今日はどういったご用件で?」

 その言葉にはこれ以上この和やかな雰囲気に惹き込まれまいとする、強い意志が垣間見える。

 場の雰囲気が一変する。マルスの態度は場の雰囲気と共に、まじめなものへと変わる。

「アース。一緒に来ないか。┃俺の惑星火星に。」

 男は、真剣な眼差しで女を見つめる。突然のかつての心友の申し出にアースは、戸惑いを隠すことが出来なかった。

「それは、どういう。」

「ここには、資源調達に来たんだ。君の惑星は豊かな自然が有って、すごく魅力的だからね。」

 マルスは、ここに来た目的を素直に打ち明けた。女神は自身で育て上げた惑星を褒められたことに多少の嬉しさを感じつつ、煮え切らない感情を胸に抱いていた。

「だから、アース。その惑星とそこに住まう人々と共に、豊かで和やかな時間を共に過ごさないか。」

 一見、魅力的なマルスの提案に地球の神は心奪われそうになる。決して今も尚、恋心を抱いていないとは言えないその男。かつて心を交わしたその人の提案に、女はあの時の様に二人で明るく平和に過ごせるならとついつい考えてしまう。

「なぁ、アース。君の本心は、何て言ってる?」

「はぁー。」

 女神はふと息を吐き、我に返る。その男は対峙している間、ひと時もその剣を鞘に納めていない。その上この軍艦の数が惑星を受け渡した、その後の光景を暗示している。

「魅力的な提案ですが、お断りさせて頂きます。」

「何故?」

 マルスは、本心から問いかけていた。アースは彼の態度に対してある程度の察しはついていた。剣収めていないのは完全なる無自覚。この軍艦の数にもそれなりの経緯があるのだろうと。そして本心から、かつての心友である自分と共に同じ時を過ごしたいと思っているのだろうと。

 女神は自身の腹部に手を当て胎動を感じながら、左手に嵌められている指輪を見せつける。

「なぜなら、私は既婚者で…」

 その声は、震えていた。涙をにじませたその眼は、未だに過去に区斬りをつけられていない事を意味していた。しかし、地球の神は言葉を告げた。自分と愛する者達と、かつての心友に向けて。

「それに私には愛すべきこの惑星を守る義務がありますので!」

 彼女の眼光に、鋭さと力強さが宿る。心友に決別を告げられた、男神は表情を翳らせる静かに深く言葉を漏らす。

「交渉決裂か。残念だ。」

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