Film Intersect~終わりの始まり~

水戸純

序章 世界創造物語 第一部 地球の神・アース

世界創造物語1ー① 火星の神・マルス襲来

宇宙うちゅう。後に宙の界と呼ばれるこの場所。ここには無数の自ら輝きを放ったり照らされている星や岩石等が浮遊している。そんな中数多の軍艦が青く照らされている一際大きな星を覆おうと迫ってくる。各軍艦の大きさは、全長1000mを優に超えており、無数の砲台が設置されていた。それを迎え撃とうとするのはたった一人の女性だった。女はあおいベールに包まれており、天女のような羽衣を身にまとっていた。その姿は凛々しくも慈悲深さを感じられる女神のような佇まい・・・・いや実際に女神である。

 「またまた、大層な軍艦隊だこと。そんなにこの惑星が欲しいのかしら、力だけを求めるあちらさんにとっては、何の価値のない惑星ほしだと思うのですがね。」

 青いベールを身に纏う神は、余裕の佇まいで地球を覆い隠そうとする多くの軍艦の群れをかわいい赤子を見るかのように眺めている。

「マルス様、ご報告致します。正面に青いベールをかぶっている女性、アース様だと思しきお姿が艦隊先端部にて確認されております。」

軍艦隊の中でもひときわ大きく銀色に輝く司令艦。そこには一人の神とその側近の乗組員がいた。火星の神は剣技を得意としている、故に火星の神の側近は剣聖と呼ばれており現代に通ずる騎士のような佇まいをしている。そんな剣聖の一人が前方の艦体から送られてきた情報を受け取り主に報告する。

「一人か?」

その口調は静かで低い。だが深く響く。その男の風格は椅子に腰を掛け手を顎に当てているだけでも艦内は緊張感に包まれる程だ。更には彼自身の無自覚な威圧感が艦内を支配していた。この艦に居るものは一人で一国を支配できる強者にも拘わらず神の言葉に委縮してしまう。

「そのようです」

艦内には剣聖以外にも乗組員が当然いる。この艦隊の主一惑星の神の前だとしてもここで萎縮している姿が露見しては、その神の期待に応えられないばかりか、ほかの乗組員になめられてしまう可能性がある。そんな事は神に認められ剣聖の名を授かる者としてはあってはならない事だ。男は萎縮してる態度を隠すかのように言葉を引き絞る。

〈やはり、立ち塞がるか。〉

神はそんな剣聖の態度には気にもせず思考を巡らせ対応を考える。アース、彼女一人だからと言って数を武器にしたところでなにも意味をなさない。火星の神はそう結論付けた。それは神と呼ばれる者が操る力神術が関係する。神術それは時と空間を支配する力である。

「全艦進行停止、外につなげろ。」

深く低い声が司令塔乗組員に伝わる。艦内の緊張感がより重く熱いものへと変わっていく。

「全艦停止。」

司令艦の緊張感が地球に向かう艦隊全体に通じるかのように指示が伝播され、全艦の進行が停止する。

「アース、我々の目的は、その惑星(ほし)にある資源だ素直に引き渡せば悪い様にはしない。一旦その場から立ち去れ!」

火星の神。その風格と覇気が艦隊の枠を超え響き渡るかのように艦外スピーカーからその声がマイクを伝い発信される。

 その声と覇気を受けても、相対する女神は物怖じしなかった。女神は組んでいた手を解き挑発し返すかのように笑顔で彼女の視線の先さらにその奥の司令艦をめがけて笑顔で言い放つ

「マイク越しに挨拶とは、大層な御身分です事。恥ずかしがってないで、とっとと表にできなさいな!」

挑発の言葉と同時にぶらさげていた片方の手を縦に素早く振り上げた。刹那、正面の艦隊が振り上げた腕から生じた風に沿うかのように真っ二つに斬れた。その風は目の前の艦体を切る事に留まらず数艦体先の司令艦体まで届いた。しかし、司令艦は斬れる事は無かった。火星の神自らが表にでてその風を剣で切り伏せたからである。

―ツ

切り伏せた風に違和感を覚えたが、剣技の達人は相手に悟られないように瞬時に切り替え地球の神に向き合う。

「そっちこそ、大層な挨拶じゃないか」

「あら、ごめんなさいね。あまりにも脆い艦体でしたから、振りかぶっただけで、裂けてしまったようですわ。」

深紅の瞳と鬣をもつ火星の神と呼ばれる男は、水色のドレスを身にまとい豊満な胸をもつ地球の女神と呼ばれる女に近づく。火星の神の剣の間合いに地球の神が入ったところで進行を止め世界の時間の進みを止める。

「「フフフッハハハハ」」

ふたりは、同時に吹き出し懐かしき過去を思い返す。時が停止した世界でまるで神々の同窓会の様な雰囲気が広がる。

「いやぁ、久しぶりだなアース。」

「こちらこそ、お久しぶりですわねマルス。5000年ぶりかしら。」

「そうだな、エデンにいた時以来だから、それくらいかな。」

エデン、神々の地。彼らを始めとする現惑星の神の生まれ故郷。マルスとアースはその頃からの幼馴染で幼いながらもとても仲睦まじい関係性だった。

「今日は、一体どういったご用件で?」

言葉遣いは丁寧で一見距離感は感じられるが、その口調はまるで久々にあったがすぐに意気投合したかのような軽い口調で会話が繰り広がれようとしていた。

「うん?ちょっと、資源調達ってとこかな?」

親しげな空気感が漂いながらもアースの表情は徐々に怪訝な表情に変わっていった。

「資源調達?それは、どんな?あなた方が、求めるような者が、この惑星に居るとは思いませんが?」

惑星間では時々争いが起きていた。また武力は何かを支配する時に何かと役に立つ。中でもマルスの君臨する火星ではその傾向が著しかった。

「君がいるじゃないか!」

マルスは、少し迫力のある声で明るく言い放つ。直後一瞬だけ少し頬を赤らめ俯く。アースは唐突な告白に目を見開く。彼女は一瞬驚きはしたものその思考は徐々に納得の方向へとすすんでいた。何故ならお互い異能を持ち合わせていない頃素手での勝負では彼女に勝るものはおらず、彼女自身今も力を身に着けていた。兵力として考えれば外せない存在にはなるだろうと。そして、火星の神は開き直ったような明るい口調でつづけた。

「っていうのは、冗談で。今少し資源難でさ、この惑星の自然に興味があるんだよ。そして、それを育てる人々にもね」

―へっ

アースはマルスの話に少し戸惑った。あ、私が目当てじゃないのね。少しばかりか落胆の表情が目に見えた気がした。

「なるほど、それで?」

「アース。その惑星をよこしてくれないか?そして、豊かな自然の中で、昔みたいにまた一緒に過ごそうじゃないか。」

アースは俯く。あれ、やっぱり私が目当て?なんて思考が一瞬脳内にちらつく。それなりに、幼いころマルスとは親密な関係を築いていたのだろう。しかし、彼女の視界に映った彼女自身の左手が我に返るきっかけを与えた。その左手の薬指には指輪が嵌められていた。

「それは、できません。なぜなら私は既婚者ですので。」

アースは左手甲をマルスに見えるように突き出す。マルスの視界にダイヤの輝きを放つ指輪が留まる。彼女は決してマルスと結ばれて昔のように無邪気に幸せに包まれる世界を少しも期待して居なかった訳では無いだろう。現に彼女の瞼には涙が滲み出ていた。その涙の真意はアースにしか分からない。彼女は無理にその涙を拭おうとはせずアースはその左手をお腹に当てる。

「それに、私には愛すべきこの惑星を守る義務がありますので」

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