自画像 2夜明け

決定されちまった夜明け。

おそろしい?

足音が。足音を呼んでいて。澱んだ。

大気の底から。褐色な。牛乳屋など。

現われ。きのこのように。現れては。

とけ。現れては溶け。

それら。

静かな爆発の。

夜明けの彫刻?

ぼくも。溶かされてしまう。

ぼくだけの溶け方?

走ってみる?

叫んでみる?

それより。黙りこんで。

黙りこんで裂かれちまったほうがいい?

たしかに。

よろけ歩いて。

夜明けが。

あ。

溶けてしまう。

おそろしい。

おそろしい夜明けだ。

逃げて来たんだから。

もう。

俺の体には、

青空なんてない。

あ。

ハエが。

俺の頭にたかって。

奴らの足音さえひびき。

怒ってるかって?

俺。

カタログなんかいらねえ。

凍り付いた索引(コンコーダンス)。


一九六八年型の革命。

それとも。

カタログが愛情なの?

と声もふるえ。

もう。もどることはできない。

もし。

歴史というものがあるのなら。

そのために。

暗い夜?

ほら。

足音がきこえ。

誰かが。ぢだんだを踏み。

くちびるをくらくまくりあげて。

自分だけの死をもちたいと。

ひとたちは歩き。

もう。

もどるなんて。


どうすればいい?

生きて。生きのびて。すべて。

は。

死んでいて。

白い。

にごって魚たちの目のように。

すっかり死んじまって。

選ぶなんて。探すなんて。慄えるなんて。


できやしない。

逃げなくたって。

追われてる。

追いかけられていて。

ははは。

怒っても。怒ってみたって。


場所がない。逃げても。

せめて。

日でり雨でもあれば。

逃走を記録し。

青い水をくんで。

空腹に耐えてみても。

こんな怒りは。

むだなのだけれど。

もう。

もどってなんかやらない。

あは。

ゆびさきから溶けて。

俺の憎しみは。

蒼く凝固していくのだな。

たぶん。

*寒い夏のおわりころ

あるいは。

椎の実が。

はぜかえるころ。


だけど。

決して美しくはない。

誤謬?

だから。


あおい血の流れる。俺の両腕にかけて。

それとも。

夜明けには。

美しく溶けることを疑わぬ人々にかけて。

俺だけの溶けかたを保証する。

誰かを。

あ。

むだでもいいから。

はやく。

はやく。


おそらくは。

おふくろの体の中か。

 産道で。

むずがったときの歪み?

くらい予感に支えられ。

危うい。

均衡?

夜明けがじりじりと前進して。

あんまりゆっくり。

溶けていってしまうものだから。

もう。

もどっていくことはできない。

俺の。

蒼い血くだをさかのぼっていく。

ウジムシたちのさざめきさえ。

きこえて。

もう。

もどっていくことは。

できない。

ふ。

うすわらいをうかべ。

おどりくるう彼ら。

真珠の色に光りながら。

増殖する彼ら。

残された。

ただひとつの証。

ふふ。

誤謬と。

転落と。

ただひとつの証。




*原文ママ

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