第6話 戦闘開始
現在の社会情勢は魔獣の出現でどの国も被害に遭い、頭を悩ませている。
そのため、他国との戦争より、魔獣の討伐に重きがおかれていた。
その中でもヴィクトール帝国の帝国軍は、魔獣討伐において世界随一の強さを誇る。
時には他国からの要請で討伐に赴くこともあり、世界の守護者とも呼ばれていた。
「目標確認、ワイバーンの群れだ! 数は十体。距離百二十」
戦空艇の司令室で、副官の席に着いているエドワードが報告する。
第三師団は帝国軍の通信部隊からの出動要請に従って、第三師団が戦空艇で出撃した。
戦空艇は高速回転させたプロペラで推進力を得て、スピードを上げて雲間を切り裂く。
ぐんぐんと高度も上がり、気がつけば広大な広さを誇る帝国軍本部が小さくなっていた。
戦空艇はそのままのスピードを維持し、討伐目標に向かって航行していた。
(ワイバーンの群れだなんて、珍しいわね)
司令室の前面に張られた大きなガラスの向こうを、訝し気にクリスティーナは見つめた。
彼女の見つめる先には、キングスコート国内でも討伐した魔獣ワイバーンがいる。
硬い皮膚に、大きな体躯を持ち上げられる翼を持っている魔獣だが、それが今回は十体もいる。珍しく数が多い。十体以上を「群れ」と呼んでいた。
「クリス閣下、指示をくれ」
真剣な眼差しでエドワードは指示を待つ。少し思案した後、クリスティーナは口を開いた。
「まずは魔導弾を撃ち込みましょう。できうる限りダメージを与えたところで、戦闘部隊を出撃させる」
「了解! 総員に告ぐ。魔導弾装填の準備、および戦闘部隊はカヴァルリーでの出撃準備を開始せよ。みんな、魔力なしでも戦えるってことを証明してこい!」
エドワードのアナウンスに、おう、と力強く応えた団員たちが靴音を響かせて、すぐに行動を開始した。
戦空艇団・第三師団は、帝国軍において少し特殊な師団だ。
魔力保有量の有無、その強弱が問われる軍において、「魔力なし」と揶揄されるほど、団員たちの魔力保有量は最低である。
実はクリスティーナも例外ではない。
皇族はもっとも魔力保有量を有していると言われているが、クリスティーナは皇族過去最低と言われているほどしか計測されなかった。
当時、魔力保有量が少ないものは兵になれないか、なれたとしても給金の少ない下級兵士になるしかなかった。
しかし、保有量が少なくとも能力のある者はいる。知恵者はいる。
そう考えたクリスティーナは第三師団を編制した時、保有量の少ない者を団員にしたのだ。
「クリス閣下、魔導弾は何発撃ち込みますか?」
司令室の席で、魔導弾での砲撃を担当しているモニカが、クリスティーナの方へ振り向いた。
戦空艇には空で戦えるように、大砲が搭載されている。魔獣を討伐するには魔力が必要で、地上で扱うような鉛の弾ではなく、魔力で作られている魔導弾を使用する。そして、中長距離での攻撃は魔導弾が力を発揮するのだ。
「全てのワイバーンに、できうる限りダメージを与えたい。その上で、できれば半数を撃ち落としたいわ」
ワイバーンを注視していたクリスティーナが、ちらりと視線を投げかけるとモニカは考え込んだ。
「半数ですね……了解。では、第五撃まで設定します。攻撃目標設定。第五撃まで弾道を設定……」
モニカの回答に、クリスティーナは口元に笑みを乗せた。
第三師団の戦空艇に搭載されている大砲は全部で六基だ。第五撃まで設定するということは、五基の大砲を使用するとことになる。万一を考えて、一基を残す選択ができたモニカに成長を感じる。
「閣下、オレたちは甲板で待機する。閣下もカルヴァリーで出撃するつもりか?」
モニカが設定を進めている時、戦闘部隊の部隊長を任せているマルスが、クリスティーナに問うた。
戦闘部隊は騎馬兵が馬に跨って戦うように、小型迎撃艇カヴァルリーに跨り、接近戦で戦う。
「もちろんよ。マルス、魔導弾の後に戦闘部隊は出撃よ」
「了解。閣下のカヴァルリーも準備しておく」
「よろしくね。エドワード、わたくしが出撃したら戦空艇は任せるわ」
「了解!」
互いに頷き合うと、マルスが司令室を飛び出した。
すぐにモニカの鋭い声がかかる。
「閣下! 距離百を切りました!」
「距離八十で撃って。モニカ、あなたはできると信じているわ」
「お任せください、閣下!」
クリスティーナが言葉に信頼を乗せると、モニカの表情がぱあっと輝いた。
「距離八十にて射出。カウントを開始します。距離九十三、二、一、九十……」
モニカがカウントを始めると同時に、戦空艇全体がビリビリと空気を震わす。
戦空艇に搭載されている大砲がぐるりと動き、ワイバーンの群れに照準を合わせた。
やがてモニカが操作する計測機器は、魔導弾の魔力エネルギーがフルチャージになったことを指し示した。
「八十五、四、三、二、一、八十!」
「撃て!!」
「魔導弾、射出!」
戦空艇の大砲から射出された魔導弾は、閃光を走らせ、猛烈な勢いでワイバーンの群れを貫いた。
ゴウンッ、ゴウンッ、と何度も爆発音が響き渡り、爆煙が空を覆いつくす。
「全弾、命中! 魔導探知機の反応から五体殲滅、残り五体です!」
報告を聞いて、クリスティーナは軽く拳を突き上げた。
この瞬間が、胸がスカッとして清々しい。彼女はきゅっと口角を上げた。
「よくやったわ、モニカ!」
労いを込めてモニカの頭をぽんと撫でた後、クリスティーナは駆け出した。
うひゃああっ、とモニカの奇声が上がったが、いつものことなので気にせず司令室を出て、甲板を目指す。
「後はお願いね! ……こちら、クリス。戦闘部隊、出撃よ!」
『こちら、マルス。了解! 閣下、空で待ってるぜ』
「ええ、今行くわ!」
クリスティーナは耳のイヤーカフの通信機で、マルスに司令を出した後、全速力で甲板へ向かう。
これからひと暴れできるかと思うと、全身の血が湧きたつ。
甲板に到着すると、クリスティーナのカヴァルリーが一機用意されていた。
乗りなれた愛機にひらりと跨ったクリスティーナは、操縦桿を操作して上空に向かって飛び出した。
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