第5話 トラウマ

クラスメイトたちはそれぞれ個性的な人物像をあらわにした。


黒姫龍の冷静さ、飯綱大和の力強さ、戸隠忍のクールさ、志賀光のチャラさ、浅間カレンの華やかさ、白馬雪のギャルっぽさ、木曽壮馬の無骨さ、清内路薫の鋭さ、天竜彩香ののんびりとした雰囲気など、多様なキャラクターが揃っていた。


一方、肇は、訓練の時に模擬悪獣に攻撃されかけた事で、死の恐怖を味わっていた。


その後、周りのクラスメイト達は順調に訓練成果が出る中で、肇だけは模擬悪獣を前にすると、体が震え、体が動かなくなってしまっていた。


肇は、このトラウマを克服するために、早起きしてランニングや筋トレ、学校が終わってからもランニングと筋トレを行い、クラスメイト達の数倍努力したが、一向に改善しなかった。


「なんで俺だけ・・・」


肇は、基本真面目だった。


模擬悪獣の前に立って動けない自分が情けなく、存在価値が無いと考え、オーバーワークを繰り返した。


クラスでの肇の口数は極端に減った。


周りのクラスメイト達の何気ない会話が、自分をけなしているようでイライラした。


「こんな努力してるのに何で・・・」


そんなある日


13教場で志賀光が突拍子な提案をする。


「悪獣の群生地に、こっそり行こうぜ!」


この提案に、男たちは血気盛んになり、女たちも次第に巻き込まれていく。


黒姫 「リスクとリターンを天秤にかければ、メリットは少ない。が、興味はあるな。」


飯綱: 「面白そうだな!俺も行くぞ!」


戸隠 「…別に構わない。」


志賀 「ほらみんな!行こうぜ!冒険だ!」


浅間 「わぁ!楽しそう!私も行く!」


白馬「えへへ、ちょっと怖いけど、みんなと一緒なら大丈夫だよね!」


木曽 「…別にいいけど、お前ら怪我すんなよ。」


清内 「…面白そうだな。私も行こう。」


天竜「えー、怖いよー。でも、みんなと一緒なら大丈夫かな?」


志賀「肇も行こう!お前、悩んでるだろ?息抜きしようぜ!」


肇は、内心、「お前に何が分かるんだよ!でも、気遣ってくれているのは分かる。興味がない訳じゃないし、行くか。」と思い、乗り気ではなかったものの、流れに身を任せるように、この危険な計画に参加することにした。


その夜。


居住区と悪獣がいる森の間には、大きな壁がそびえ立ち、人間と悪獣を分断していた。


悪獣の群生地に到着した13教場のメンバーたちは、目の前に広がる光景に息をのんだ。薄暗い森の中に、特徴的な鳴き声が響き渡る。


「うわ、本物のゴブリンだ!」


志賀が興奮気味に叫ぶ。他の男子たちも血気盛んになり、ハンドガンやショートブレイドを構える。


「よし、訓練の成果を見せる時だ!」


飯綱が力強く声を上げ、率先して茂みへと飛び込んでいく。


「ちょっと待ってよ!まだ準備が…」


浅間が慌てて追いかける。


戸隠は冷静に周囲を見渡し、状況を把握する。


「みんな、注意して。一匹だけでなく、複数いるかもしれない。」


戸隠の言葉に、他のメンバーも気を引き締める。


一方、肇は一歩引いた状態で様子を見ている。過去のトラウマがよみがえり、体が震える。


「大丈夫か、肇?」


志賀が心配そうに声をかけたが、肇は何も答えられなかった。


最初の接触は、志賀が仕掛けてきた。


彼は軽快な身のこなしでゴブリンに近づき、ショートブレイドを振り下ろす。


ゴブリンは素早い動きでそれをかわし、鋭い爪で志賀の腕をかき傷つけた。


「くそっ!」


志賀は痛みを堪え、再び攻撃を仕掛ける。


他のメンバーも続々と戦闘に加わり、ゴブリンたちとの激しい攻防が始まる。


飯綱は、彼の得意とする体術でゴブリンを投げ飛ばし、木曽は長距離からのハンドガンでゴブリンを射抜く。戸隠は冷静に状況を判断し、隙をついてゴブリンを仕留めていく。


しかし、肇は過去のトラウマからか、体が思うように動かず、ただ見ているだけしかできなかった。


ゴブリンを何とか撃退したメンバーたち。


「やった!全滅だ!さて、これ以上は危ないから帰ろう。」


志賀が興奮気味に叫ぶ。


他のメンバーも安堵の息をつく。


しかし、その瞬間、森の奥からけたたましい咆哮が響き渡る。


「なんだ、あれは…?」


戸隠が警戒しながら周囲を見渡す。


森の中から現れたのは、巨大なミノタウロスだった。その巨体と鋭い角、そして圧倒的なオーラは、メンバーたちを震え上がらせる。


「こ、これは…!ヤバいぞ!」


飯綱が言葉に詰まる。


ミノタウロスはゆっくりとメンバーたちに向かって近づいてくる。


そのたびに地面が震え、メンバーたちの足がすくむ。


「これは…勝てない…」


黒姫が冷静さを保ちながらも、厳しい現実を突きつける。


「まさか、ゴブリンのボスみたいなやつか?」


志賀が恐る恐る尋ねる。


「おそらくな。逃げるにしても、逃げようとした時には一気に攻撃されてお陀仏だな。」


戸隠が冷静に分析しつつも、焦りが隠せない。


メンバーたちは、絶望し、体を震わせる。


肇は、他のメンバー以上に恐怖を感じていた。


過去のトラウマが蘇り、体が震え、足が動かなくなる。


「肇、大丈夫か?」


志賀が心配そうに声をかける。


志賀は内心、焦っているだろうが、気遣ってくれている。


優しいやつだ。


でも、恐怖からで体が震えているのが分かった。


皆、同じなんだ。


肇の中で何かが変わった。


優しいこいつらを死なせてたまるか。


肇の体は軽くなった。


それが勇気なのか、何なのかは分からない。


しかし、こいつらを死なせたくないという気持ちは本物だ。


肇も必死に心を落ち着かせ、ミノタウロスの前に立ち塞がる。


「この牛やろう?こっちだ!」


そして、クラスメイトたちを庇い、ミノタウロスを挑発し始めた。


肇は、ミノタウロスを誘導し、クラスメイトたちから遠ざけることに成功する。


肇は、必死にミノタウロスから逃げていた。


クラスメイトたちを危険から遠ざけるため、必死の思いで誘導した。


なんとか視界から消え、自分だけになったことを確認する。


しかし、安堵も束の間、体力が限界に近づいていた。


「もう…駄目だ…」



肇は、膝をつき息をつく。心臓がバクバクと鳴り、視界がぼやけてくる。



「こんなところで…終わってしまうのか…」


彼は、これまでのことを悔やみ、そしてクラスメイトたちに申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。


ミノタウロスは、ゆっくりと肇に近づいてくる。


その巨大な影が、肇を飲み込みそうだった。



「畜生!」


肇は最後の力を振り絞り、立ち上がる。


そして、ミノタウロスに向かって叫んだ。


「この牛モドキが!」


ミノタウロスは、肇の挑発に怒り狂い、さらに勢いを増して襲いかかってきた。


肇は、クラスメイト達が逃げる時間を稼ぐために必死にミノタウロスの攻撃をかわす。


しかし、体力の限界は近い。


「グハッ!」


ミノタウロスの一撃が、肇の腹に突き刺さる。激しい痛みを感じ、肇は地面に倒れ込んだ。


「もう…駄目か…皆、逃げれたかな?」


意識が遠のいていく中、肇は笑顔で空を見上げる。


ミノタウロスは、倒れた肇に近づき、大きな角でとどめを刺そうとする。その鋭い角が、肇の顔に向かって迫ってくる。


「…皆、ありがとう…」


肇は、心の底からそう呟いた。


ミノタウロスの巨大な角が、肇の顔に迫る。


絶体絶命の瞬間、突風が吹き荒れ、森全体が揺り動かされた。


次の瞬間、ミノタウロスの体は見事に真っ二つに。


その光景に、肇は目を疑った。

森の奥から現れたのは、彼らの担任である如月教官だった。


彼女は、普段着ている黒色のアーマーとは異なる、鮮やかな緑色のアーマーを身につけ、手には緑色の光を放つ剣を握っていた。


「何やってるんだ!死ぬところだったぞ」


如月教官は、冷ややかな目で肇を見つめる。


「勝手に悪獣の群生地に来るなんて、規律違反だぞ。」


如月教官は、肇に歩み寄り、怒る。


「教官、ありがとう…ございます…」


肇は、苦笑いを浮かべながら意識を失い、地面に倒れ込んでいた。


「肇!救護班!急げ!」


如月教官が救護班を呼び、無事に肇は救助されたのだった。


「大丈夫か、肇!」


この出来事をきっかけに、13教場は一体感が生まれ、彼らは困難を乗り越え、成長していくことになる。

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