わぐわぐのしっぽ


人間にもしっぽがあればいいのに。


僕は普段からそう思っています。やっぱり素直な感情表現は強いんですよ。レゴシは何を考えているかわからないし、大きな体躯から怖がられて来たんですが、しっぽだけは雄弁に感情を表現しているんですよね。「しずまれ、俺のしっぽ!」をやってるんです。あの巨体が。かわいい。


犬飼ったことある人なら分かると思うんですけど、やっぱ自分が家に帰って来たときにしっぽをわぐわぐしながら迎えられると疲れなんか吹っ飛ぶんですよね。かわいい。僕の愛犬が息を引き取る前日、夜遅くに僕が家に帰ったとき、もう起き上がりもできないゴールデンレトリバーはいつもの布団で横たわっていました。でも、声をかけて抱きしめると、尻尾だけは数回振ったんです。最後の力を振り絞って伝えてくれた彼女の感情だったと思います。


だから、僕にとってwag(尻尾をふる)することはもう愛情表現の極地だと思っていて、重要な表現器官なんですね。イヌは顔の表情も豊かで、悪いことをしたときの顔はおもしろいくらいわかりやすい。だから、表現の幅って思ったより広いんですよね。


それと比べると人間って意外と表現するのが下手で、表情と声と態度くらいなんですよ。そりゃ笑顔は強いですけど、しっぽブンブンと比べると弱い。だから、人間にもしっぽがあればいいのにって思います。特に僕みたいに言語表現が苦手な人には非常に重要なお助けアイテムになります。


考えてみてください。何考えてるかわからない人のしっぽがわぐわぐしているのを。ごりごりのエリートで、血も涙もない冷徹な判断力と瞳の奥に光る鋭い洞察力をもったポーカーフェイス。でも、人と会うときいつもわぐわぐするしっぽ。めっちゃぐっと来ません?


ちょっと変わってるけど一生懸命考えたんだろなってプレゼントを渡して、てれてれするエリートも良いんですけど、しっぽがあればすれ違いも解決します。ネコ科のしっぽはだめ。ふわふわのモッフモフのイヌ科のしっぽがいい。


僕にもしっぽがあったなら、モテモテのわぐわぐのブリブリのてれてれだったと思います。まあ、勝手に感情が表現される場合、仕事や恋愛中のしっぽは感情読み取れすぎて大変なことになる気がしますが、そこはそれを前提とした社会になっているはずで大丈夫でしょう!!!!!!!(やけくそ)


そのアドバンテージがあるのに童貞なレゴシはどうなんだ、という指摘は、幸福な空想に浸る僕を死に至らしめる刃なので口にすることを禁じます。簡単に想像できるんだよな。しっぽをブンブン振ってるのに、相手にされてない世界線。い、いやいや。僕は違う世界線ならモテモテで、上司じゃなく好きな女性にしっぽを振っているはずなんだ。きっと、そうなんだ……。

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