第一章 夏の裏(3)

 8月16日(日)


 さて、「雅史」たち「サッカー部」一同次の行事は夕方に始まる夏祭りだ。相変わらずユニフォーム姿の「雅史」、私服の「杏璃」や「健太」、知人「ミュゼット」と保護者「ハンナ」。学校の夏服姿の風紀委員3人「清子」「和子」「仁雄(ときお)」。今回は風紀委員長を連れているので、彼の活躍に期待してもいいのかな?


「(雅史:)伯爵様の勧めで来ちゃった。まぁ、さすがに伯爵様は来ないけどね。...風紀委員の仕事が忙しいんじゃなかったの?ん?」

「(清子:)行事にお目付け役はつきものですの。それと今回はだらしない風紀委員長を連れてきましたわ。委員長、自己紹介を。」

「(増田:)...。」

「(ハンナ:)...ヨシオくん?」

「(雅史:)何て呼ぶんだっけ?ジンオ?ヨシオ?ヒトオ?いやー読めない。」

「(和子:)しっかりしてください風紀委員長!!」

「(増田:)...増田風紀委員長って呼んでいい。とっゆーわけでよろしく...。」

「(清子:)...だらしない。やる気ありますの?」

「(ハンナ:)相変わらずだらしないね。...私と付き合って。」

「(雅史:)デートかい姐さん!!...さて、誰と付き合おうかな?杏璃にしよ」

「(清子:)キャプテンさんはわたくしと付き合ってください。」

「(雅史:)えー!!そんなぁ。」

「(健太:)じゃあ杏璃ちゃんは僕が。」

「(杏璃:)雅史くん、ごめんなさいね。」

「(ミュゼット:)私って恋人いないじゃん。...とりあえず和子、私をエスコートしてよ。」

「(和子:)...そうですね。」


 ここにいる一同はそれぞれペアを組み、屋台を巡っていく。奇妙な組み合わせになっていた「雅史」と「清子」はいかに?


「(雅史:)どうしてこうなった、幼馴染じゃない風紀委員さんが僕と付き合うなんて。」

「(清子:)細かいことは気にしません。わたくしはただ、あなたがたが気になるだけです。」

「(雅史:)つまり、僕の事...好きだったり?」

「(清子:)そうじゃありません...あなたがたの動向が心配なだけですの。」

「(雅史:)それだけの理由...いや、それはないね。本当は好きでしょ?うん。僕で良ければ喜んで付き合ってあげよう。」

「(清子:)...。」

「(雅史:)まずはどこかや遊んでこっか?カタヌキ?それとも輪投げ?射的?」

「(清子:)...そうですね。金魚すくい...金魚すくいはいかがでしょうか?」

「(雅史:)金魚すくいか、いいな。そうだ、それがいい。...なんちゃってね。よし、いこっか。」

「(清子:)見廻りを兼ねて...です。」


 「佐藤姉弟」と浴衣姿の「レベッカ」が来るまで一度だけ金魚すくいに挑戦するも、2人とも一匹も獲れなかった。例の3人が近づくとすぐに次の屋台に移動し、ヨーヨー釣りでも紙糸がちぎれてしまい獲れずじまい。例の3人を見るたびに「清子」は邂逅させまいと移動を急かした。


「(雅史:)清子...どうして急かすの?」

「(清子:)...別に。わたくしはただ、知らない人に絡まれる面倒を避けたいだけですの。」

「(雅史:)あの金髪が気になるのね?姐さんから聞いてね、あの金髪はレベッカという昨年から活動しているスーパースターだよ。なのに面倒を避けるという名目で近づかせないとは...どういう了見なの?」

「(清子:)...あの金髪、相応の...何かしらの迷惑をかけているようで危なっかしいですの。得体のしれない金髪にあなたがたを巻き込まれたくありません。それもあなたがたを守るためです。」

「(雅史:)...僕を守りたい気持ちが何よりも大きいとは、恐れ入ったよ清子。」

「(清子:)...さて次はもっと遊び尽くしてやりますわ!!」


 風紀委員としての自覚を維持しつつ「レベッカ」より先に屋台を巡り、「レベッカ」がここに向かって来る前に射的、輪投げ、カタヌキを手早く済ませる。


「(雅史:)幸いレベッカが食事中なので、思う存分遊ぶことができてよかった。」

「(清子:)それは何よりです。見廻りするのがわたくしの使命ですの。」


 ところが、娘を連れた「オトナ」がこちらを見ている。


「(娘:)ダディ、あのカップル...。」

「(オトナ:)よきかな。マデリーン、いこうか。」


 「雅史」は思わず声を出す。


「(雅史:)あ、あの!!その...。」

「(オトナ:)君は立派な旦那になれる。そこの彼女の気持ち、大事にするといい。」

「(雅史:)それはそれとして、おじさんはいつかまた会えるの!?」

「(オトナ:)きっとさ。いつかまた会える、その時までは。」


 いつかまた会えると告げ、「オトナ」は娘とともに歩いていった。


「(清子:)不思議ですね、あのオトナ。」

「(雅史:)そうかな?...それにしてもあのちっさい子、姐さんの弟シモン(1999年11月生のね)くらい愛嬌がありそう。」

「(清子:)気になるところがありますが、調べようにもあの親子の情報が全然なくて知りようがありません。(わたくしの携帯電話ケータイ(P-03A White)のブラウザで調べながら)」

「(雅史:)調べてもしょうがないでしょ?個人情報だから公表してないのよ。」

「(清子:)それもそうですね...。彼のソーシャルメディアのアカウントは1個もありませんし...どうなっているのでしょうか。」


 当時のソーシャルメディアはTwitterやGREE、mixi、Mobageくらいしかないほど非常に少なめである。無理もないが...。


「(清子:)さて別行動していた皆さんが集まってきましたことだし、そろそろ合流しなきゃですの。」

「(雅史:)そうだね。じゃあいこっか。」


 2人は皆のいる場所に移動していく。


「(清子:)ただいま戻ってきました。」

「(雅史:)健太、そのありったけの食べ物って...。」

「(杏璃:)すごいでしょう。みんなの分まで奮発してくれたのです。雅史くんもいかがです?」

「(雅史:)じゃあ、たこ焼き。清子はどれにする?」

「(清子:)わたくしは、りんご飴にします。」

「(ミュゼット:)聞いてよ、和子はすごいんだよ。輪投げや射的の達人なんだってよ。」

「(和子:)そういうアナログゲームが得意ですから。」

「(清子:)...ま、和子さんはわたくしの親友ですの。これくらいの力量があって当たり前のことです。それに比べて風紀委員長は...。」

「(ハンナ:)だらけていて、デートがままならない。」

「(増田:)ままならないで悪かった...。」

「(雅史:)いやー愉快で楽しいね。ここに来てよかった。」

「(ミュゼット:)紹介してくれたドクターに感謝。」


 夏祭りのフィナーレといえる打ち上げ花火が始まる。


「(ミュゼット:)ほら、打ち上げ花火だよ。映えるだろ。」

「(雅史:)ここでみる花火は格別だね。」

「(清子:)綺麗...。なんて綺麗でしょうか...。」


 この場の「サッカー部」一同と「風紀委員」3人の他に「レベッカ」と愉快な仲間達、「オトナ」とその娘、見物が目的の「Dr.デカボット」と「側近」も打ち上げ続けている花火を眺めて...そして終わり、賑やかで楽しい夏祭りは幕を閉じる。帰っていく人々、イングランドに帰国する親子、一同は帰宅しようと「Dr.デカボット」のリムジンに向かうも...閉じた屋台に怪しい人影を目撃する。


「(清子:)怪しい人影...皆さん、待ってください!!出撃ですわ!!」

「(雅史:)まさかの事件!?」

「(増田:)帰してくれ...。」

「(清子:)屋台に怪しい人影を確認。犯人の退路を断つ役目は、風紀委員長よろしくて?」

「(増田:)好きにするがいい...。」

「(ハンナ:)ヨシオくんを帰さないよう見張り役は私が。雅史くん、ごめんなさい。」

「(和子:)人影の目的は、泥棒でしょうか?...それとも遊び足りなくて誰もいないところで人の屋台を稼働するのでしょうか?」

「(清子:)...そうじゃありません。屋台はスタッフが片付けてくれます。他に目的があってのことです。」

「(ミュゼット:)ますます気になるじゃん!!もったいぶらないで説明しろよ。」

「(清子:)怪しい人影はスタッフの目をかいくぐり、楽屋に向かっているはずです。目的は窃盗ではなく、誰かと会いに行ってるに違いありません。スタッフに気づかず屋台の陰に隠れながら進みましょう。」

「(雅史:)事件じゃないのね。人影の目的が何なのか気になるし...よし、出撃しよう!!」


 「ハンナ」と「仁雄」を置いて一同は楽屋に向かっていった。


 その頃「Dr.デカボット」は...。


「(ドクター:)なぬやっとるんじゃ馬鹿者バカモノども...。花火大会はとうに終わっとるはずじゃが。」

「(レガート:)坊っ様、代わりにそこの一同はいかがでしょう?」

「(ドクター:)...そうじゃな。」

 「Dr.デカボット」と「側近」は「レベッカ」と愉快な仲間達に接近。「レベッカ」一同はあきれていた。


「(レベッカ:)またドクターかよ。何のようで?」

「(ドクター:)何の用にもなにも。お主らのдомドゥムまで送ったるけぇ。」

「(レベッカ:)わざわざ家まで送ってくれるの?それはどうも。このリムジンはそこのじいさんが運転するの?」

「(レガート:)さようです。」


 じいさんこと側近が運転するらしいようで、「レベッカ」一同はお言葉に甘えてリムジンに乗る。


「(モグ:)なぁレベッカ。2人が遊んでいる間に、俺たち4人は盆踊りやったんだぜ。結構楽しかった。」

「(ロドゆい:)それにしても、太鼓打ってる人って音信不通のはずのシチメンに似てない?いや、他人の空似かな...。誰かシチメンを知る人いる?」

「(レベッカ:)誰のことかな...。いや、そうでもないか。中学の頃よりジェシカと双璧といわれた私たちの友達なんでね。6人とも仲良しだった。」

「(ドクター:)お主、そのシチメンとやらをわしも顔合わせたいのう。」

「(レベッカ:)あいにくだが、今はどこにいるのかは知らない。」

「(ロドゆい:)そうそう、ジェシカを見かけたよ。太鼓女を見つめてね。」

「(レベッカ:)見知らぬ親子の他にドクターといい、ジェシカといい、私のまわりに意外な人が集まってくるね。照れるな。」


 こうしてレベッカ達はリムジン内で雑談して楽しみ、自宅前に到着後、次第に降車していった。


【Phase-3】

 片付けしているスタッフに気づかれぬよう屋台の陰に隠れつつ、人影の足跡を辿る。楽屋を発見次第、突撃を試みる一同であった。


「(清子:)人影はこの中です。皆さん、気を引き締めましょう。」

「(雅史:)ドキドキ...。」


 楽屋の中を覗いてみると、人影一人だけだった。


「(清子:)1人だけ!?1人だけで何やっているのでしょうか。」

「(雅史:)実は目的のない狂人だったり?」

「(清子:)目的がないのじゃあ楽屋に入る理由がありません。」


 楽屋の中の人影は何か言いだした。


「(???:)お姉さま...どうして人知れずどっかいくの...。」

「(清子:)何か嘆いているようですが。」

「(ミュゼット:)どうせ部外者お断りの楽屋に上がった不法侵入した奴の狂言でしょ。」

「(雅史:)まぁ、僕たちには関係ない事でしょ?帰ろう。」

「(清子:)...そうですね。皆さんお騒がせしました。狂った人をほっといて、ここは退きますわ。」

「(???:)...そこで何をしている?私の心情見たな~!!!」

「(雅史:)やばっ、さっさと退こう!!」

「(ミュゼット:)ここは私が食い止める、ドクターのリムジンまで走って!!」

「(清子:)恩に着ますわ!!必ず生きて帰ってください!!」

「(和子:)撤収ー!!」


 「ミュゼット」を置いて一同は「Dr.デカボット」のリムジンまで走っていく。


「(ハンナ:)雅史くん、どうしたの?」

「(雅史:)撤収だって!!さぁ、帰ろう!!」

「(増田:)やっと帰れる...。」


 リムジンまで走っていった一同だがもう遅い。「Dr.デカボット」は既に帰ったらしい。


「(清子:)...歩いて帰らないといけないのですか、もぉ!!ろくでなし伯爵!!!!」

「(雅史:)まぁいいか。そのほうがいい運動になるよ。最後まで遊ぼうよ。」

「(健太:)運動も大事だね。痩せて立派な男になりたい。」

「(ハンナ:)...ヨシオくん?」

「(増田:)...。[睡眠]」

「(和子:)家まで運ばないといけないのですか。まったく不条理な風紀委員長ですね。」


 人影の正体を知らないまま撤収、その挙句「Dr.デカボット」のリムジンがないので仕方なく、自分たちの足で帰宅することになった。取り残されたミュゼットは...。


「(ミュゼット:)師匠...そこで何をしているの?太鼓打ってるアネさんらしきの女はとっくにお隠れになった。」

「(ジェシカ:)...聞いて、お姉さまは今年4月に入ってからどっか消えたのよ。連絡取ろうにも返事も来ないし、音信不通なの。」

「(ミュゼット:)...師匠は私を弟子にしてくれた。私にアネさんの拳ハンバーグーを伝授してくれた。この服装、このリストバンド、この履物はアネさんの意匠がこらされたものであると。寂しいのも同感だ。でも心配しないで、アネさんは絶対会える。必ず会えることを信じて待ちましょう。」

「(ジェシカ:)...そうね。」


 人影の正体は、「アネさん」あるいは「シチメン」こと「七面緋音」の友人、古いつきあいであり、妹的存在の「ジェシカ孔雀(ダイス)」だった。彼女は「シチメン」をお姉さまと呼ぶことから本当の姉妹ではないかと噂されているのだが、現時点では真偽は不明である。「サッカー部」の夏休み行事は完了した。来月からは樋串武学園での本格的なスクールライフが始まることになるであろう。

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