第一章 夏の裏(2)

 日が暮れ、真っ黒な空。一度も食事していない「サッカー部」一同は飢えている一方、「ミュゼット」はピンピンしている。今日のサマーキャンプ計画の提案元「ミュゼット」に騙されたのか...?


「(清子:)このサマーキャンプ計画は組織的に仕込まれていた、ということですか...うぅ...。」

「(ミュゼット:)ドクター側の女子でごめんね。さ、登ろう。」

「(雅史:)空腹くらい弱音吐いている場合か...根性で山を登るんだ。立ち上がりよ、みんな!!スタンドアップ、みんな空腹に負けないで!!」

「(杏璃:)雅史くん...そうですね。ここで倒れていては元も子もありません。山登りを頑張りましょう!!」

「(健太:)...僕は、いつか痩せる日が来るし、ダイエット頑張ろっ。」

「(和子:)...。[腹の虫]」

「(ハンナ:)この姿ではちょっとなので、着替えてからにしよっ。」


 身体を洗い流し、お着替え後改め、山の入口に集合。人数が揃ったところで山登りを開始した。


【Phase-2】

 空は暗い。この山はビーチのすぐそばの山であり、「雅史」の知らない山。道に迷うと困るので、「清子」は隠し持っていた食パンをちぎって撒きながら歩いている。


「(健太:)風紀委員の手に持っている物は何だろう...。...!?」

「(杏璃:)どうかしました?」

「(健太:)風紀委員の手に持っている物は、...食パンじゃんか!!しかもちぎって撒いてるし!!」

「(杏璃:)言われてみれば...もったいないことをしてますし...。」

「(清子:)添加物にまみれた菓子パンは食べられたものじゃありませんの。」

「(健太:)添加物いっぱいで腐らないとはいえど、食い物を粗末にするの!?」

「(清子:)むしろそれが問題ですの。腐敗が進むほど美味しいのに、なかなか腐らなくて長持ちな食品がいいとはどうかしていますわ。」

「(雅史:)世の中お店の食べ物に添加物が必要なこともあるのよ。それだけは変えられないってことよ。」

「(清子:)...わたくしのおじいさんとおばあさんは2、3年前に食品偽装のせいでくたばってしまったのです。消費者を欺いたあの社長が許せなくって。」

「(雅史:)だが内部告白で社長さんは逮捕された。一件落着でしょ?」

「(清子:)そうだといいのですが...。」

「(和子:)ミュゼさん待ってください。みんながあなたの早歩きに追いつきません。」

「(ミュゼット:)どこへ行こうというのかね?...ぶwwwww」

「(雅史:)ムスか!?」

「(清子:)そういうくだらないギャグは寒いですの。」

「(ハンナ:)[オカリナを吹く。B_.__.D_.A_.________.B_.__.D_.A_.________.]」


 雑談しながら歩いているうちに出口らしきものが見えた。


「(ミュゼット:)出口が見えた。ここがキャンプ場だよ。」


 一同の目に映るのは、「Dr.デカボット」が用意したキャンプ場。ここにある設備はどれも悪くなく、ちゃんとしたものであった。


「(雅史:)これのどこがキャンプ場だよ。必要なものが揃ってるし、かなり出木杉...出来杉くんの如く"用意周到"って感じ。」

「(ミュゼット:)私達のために用意してくれたドクターに感謝しないと。」

「(清子:)カレー作るんでしょう?必要な材料は...ぇ?なんなのです!?」


 カレーの材料は、「雅史」たちの知っているカレーとはかけ離れたものだった。レシピと思わしき紙が置いてあるのだが...。


「(清子:)わたくし、ロシア語読めませんの。ハンナさん、お読みくださいの。」


 「ハンナ」はポーランド系。ロシア系ではない彼女の読み解きはいかに?


「(ハンナ:)...どうやらこのレシピはインドカレーのものらしい。」

「(雅史:)流石は姐さん、これでドクターとやらの意図がわかった気がするよ。インドカレーね、家庭では全然作らない料理だし、たまにはいいでしょ。」

「(清子:)わたくしらにインドカレーを作れってことですか?...ではとりあえず材料の確認を。カレーの素になる香辛料各種類...ぃ?いかに辛そうで不気味な唐辛子はまさか?」

「(雅史:)ブート・ジョロキアだよ。カレーにもってこいの材料かな。」

「(杏璃:)ジョロキア以外の唐辛子はないのですか?」

「(清子:)唐辛子はブート・ジョロキアだけですの。」

「(杏璃:)...最悪です。あたし、辛さレベル3程度なら平気ですが規格の超えたレベルでは食べられそうにありません...。」

「(健太:)なんの!!ジョロキアごときに音を上げる僕じゃない!![ラファエルのモノマネでカッコつける]」

「(和子:)欲しくな...唐辛子抜きで作ってはいかがでしょうか?」

「(清子:)唐辛子なしではカレーじゃなくなります。それに鍋は一つしかありませんし、他になんか手はないでしょうか...。せめて牛乳さえあれば...。」

「(雅史:)ジョロキアはアトからでいいじゃない?物好きの皿に混ぜまぜってことで。」

「(清子:)...深く考えている場合じゃありませんわ。キャプテンさんの言う通り、ジョロキアは後ほど入れることにして調理しましょう!!」


 一同は約1時間かけてジョロキア抜きインドカレーを調理して、「雅史」「健太」の皿にジョロキアを入れて完成した。果たしてジョロキア有と無の味は...?


「(雅史:)ひゃあぁぁぁ、いつ以来かな?去年あのジョロキアポテトリングを久々口に入れてる気持ちだ。すっぱくない...ぐ!!」

「(健太:)ぅぁぁぁぁあああ!!!」


 あまりのホットに悶える二人。ジョロキア入れてない女子組はいかに?


「(清子:)これはもうカレーじゃありませんの。ただの香辛料スープです。」

「(ミュゼット:)唐辛子なしだろうがカレーはカレー。唐辛子のないカレーはただのスープとはどういう理屈だよ。」

「(杏璃:)唐辛子ないからといって風紀委員の言ってることは偏見しかありません。雅史くんのカレーを味見してみてはいかがです?」

「(清子:)...度胸試しですか。いいでしょう、度胸があると証明して見せますわ!!」


 「清子」にジョロキアカレーを食べさせてみた結果...悶え撃沈した。


「(ミュゼット:)このレシピどうかしてるよ!!ハンナよ、何か心当たりない?」

「(ハンナ:)このインドカレー...????いや、考えすぎかな。何せロシア語で書かれているし、拾い物とは思えない。」

「(清子:)...ぐ...ドクターとやらが、カレー食べると思います???あのいやらしい伯爵はロシア人なので絶対ありえません。いつどこで知ったかはわかりません...。あぁぁあ!!わからずじまいですわ!!」

「(ミュゼット:)迷宮入りってことか、闇に葬られたな。...なーんてな。実際調べもので見つけたレシピだよ。」


 その通りだ。当日の夕飯は山でカレーを食べると聞いた「Dr.デカボット」は、山派の「サッカー部」の皆の為にあらかじめレシピを調べ、用意してくれたのだ。*2009年当時ではどこでもネットの概念はない。日本国内用の携帯電話(N-01A Fine Black)で携帯電話用ブラウザを使うほど幅が狭いらしい。


「(ミュゼット:)ところで、携帯電話ケータイ(P-03A White)貸してくれない?見たい動画あるんだけど。」

「(清子:)...お断りですわ。人の携帯電話ケータイの貸し借りはトラブルにつながりますので。...ここは圏外ですわ。」

「(ミュゼット:)ちぇ...。」


 「雅史」と「健太」は最後まで残さず平らげ、一同揃って完食した。もうこんな時間なのでテントを張って、一夜を過ごす一同であった。

 陰でモニタリングしていた「Dr.デカボット」はすでに帰還している。当分の間、顔合わせすることはないだろう...。


「(清子:)夜ふかしはよくないですの。今後の相談は早朝、山を下りてからにしてくださる?」


 翌朝、街に帰る「サッカー部」一同は荷物をまとめて山を降りることになった。


「(ミュゼット:)調理器具と食器、廃棄物は持ち帰るように。」

「(ハンナ:)ってレシピのはみだしの欄に記されている。」

「(清子:)伯爵が用意したものは持ち帰れってですか。あとからこっそり回収できるのに、人に押し付けるとは...。」

「(ミュゼット:)ドクター帰ったんだからしょうがないでしょ?」

「(雅史:)まあまあ、全部まとめたんだし降りよっか。」


 朝は明るいので、迷うことなくスムーズに山を下りられた。もちろん簡単なことである。


「(健太:)ちぎって撒いたパンくずとはいったい?」


 一同の前に待ち構えていたのは、帰ったはずの「Dr.デカボット」。帰ったんじゃなかったのか。


「(ドクター:)馬鹿者バカモノ、わしのシモベを置いて帰る伯爵がおるか。」

「(清子:)よくノコノコ現れましたね外道伯爵!!わいせつ罪でお縄につけてやりますわ!!」

「(雅史:)ちょ!!言い方!!相手があのヤバい人でしょ!!あ、伯爵様、とんだご無礼を致しました...!!なにぶん真面目な風紀委員さんでございまして...。」

「(ドクター:)...お主、何故なぬぇ笑う?わろうたな!?」

「(雅史:)ふぇ、めっそうもない!!」

「(ドクター:)冗談じゃ、学生相手にそこまじゃるもんか。」

「(雅史:)見逃してくれるとはありがたいござんす。」

「(ハンナ:)ロシア系の貴公子ともあろうものが私たちに何をするつもり?」

「(ドクター:)なぬって、わしのビジネスジェットでお主らのдомドゥムまで送ったるのぉ。」

「(雅史:)昨朝の便ってまさか、伯爵様のビジネスジェットだったのね。」

「(ミュゼット:)ドクターに感謝。」

「(雅史:)提案を勧めてくれたミュゼットに感謝。」

「(清子:)[モゴモゴ。ハンナさんに口を塞がれていてモゴモゴ。]」

「(和子:)この度はお世話になりました。ミュゼさんのことは私におまかせを。」

「(杏璃:)集合住宅まで送っていただけるとは感謝いたします。」

「(雅史:)まあまあ、ここでの立ち話なんかより、ビジネスジェットに乗ってからいっぱい話そうよ。」

「(ドクター:)話があるんじゃったら、直ちにビジネスジェットに乗りんさい。」


 「サッカー部」一同は空港でビジネスジェットに乗り帰路につき、機内で色々おしゃべりした。


「(雅史:)それにしても伯爵様の携帯電話ケータイ、よーく見るとスゴいくらい最先端だね。タッチ操作もできるし、スライドや回転を使った三段変形もできるし、もしかしたら生徒会長が持っているという噂があるらしい。...さて、今後の予定についてだけどなんかない?」

「(ドクター:)[両手を叩く]そうじゃ、お主らにとってより楽しゅう耳寄り情報あるけぇ。3日後の話になるじゃがな。」

「(ミュゼット:)それって、花火大会のことでしょうか?」

「(ドクター:)いかにも。じゃがなぁ、もっと楽しゅうとこあるのぉ。」

「(清子:)つまり、お祭りってことですか。あいにくわたくしは風紀委員の仕事が忙しいので。だらしない風紀委員長はちっとも動きません。」

「(和子:)だったら無理でも引きずりましょうよ。」

「(ドクター:)それと、わしゃあひとがぎょうさんおる場所に近づかん。じゃけぇ、見物させてもらうのぉ。」

「(雅史:)...よし、3日後の祭りに行くとしよう。...楽しみだね。伯爵様、携帯電話ケータイ見せてもいいです?タッチ操作できる携帯電話ケータイは珍しいものなんで。」

「(ドクター:)...いけんじゃろうが馬鹿者バカモノ。」


 空港に到着次第リムジンに乗り換え、それぞれ帰宅していく。2日間にわたるサマーキャンプはひとまず終了。...次の話は3日後に持ち越されるのであった。

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