第7話 Step cut
「ウィリアム様もどうぞ、お飲み下さい! 遠慮なさらず!」
「……うん」
ノアが紅茶に夢中になっているのをよそに、ウィリアムは静かに一口飲んだ。
「……おいしい……」
ウィリアムはかわいらしい微笑みを浮かべた。
珍しく太陽光がピンク色の目に入って、ホワイトブロンドの髪が輝いている。まるで天使のようである。
しかし、一瞬ですぐに真顔に戻ってしまうので、「ほんと勿体ないな」とバーノンは鼻血を出しながら微笑んでいた。
(おっと……鼻血が……)
たまたま今日は外が乾燥していて鼻がやられて血が出ただけなのだが、とても外面がよくなかった。
ちょうどそのタイミングでノアが自分の世界から帰ってきて、横目に見えたバーノンの顔を見つめる。
(……え……鼻血?)
ティーカップを静かにソーサーに置くと静寂が訪れ、数分黙ったのちにノアは「…………き……気持ち悪い……」と心底ドン引きといった様子で額に汗を滲ませながら顔を歪ませた。
(なんだコイツ)
(なんで急にウィリアムを見つめながら鼻血なんて出しているんだ?)
などと色々考え込んだノアが最終的に出した答えが「バーノンはウィリアムを見つめるだけで鼻血を出すほど好きである」だった。
まったくの勘違いである。
「……ご主人様……何か勘違いをなされていませんか? これは空気が乾燥していたので……」
「いい。いいんだ! 無理に言い訳なんてしなくても……分かっている。
僕は応援するよ……身分差や性別の壁はあるだろうけど頑張れ……ただ相手の年齢を考えてほし……」
「やっぱり勘違いされていますよね????????」
「あの……」
ウィリアムが二人の盛大な勘違いを心底どうでもいいといった顔で、そろそろ本題に入らないかと会話を止めた。
「そうだね、また逸れてしまったよ……ウィリアム、君はだんだんエラに似てきたね?」
(え!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
その言葉を聞いてウィリアムは嬉しそうにノアを見つめた。ほんのり頬が赤い。
「本当に?……へへ」
「え……お二人の世界ですか?? まだ誤解も解けていないのですが??
大事なことですので言っておきますが、私はご主人様一筋ですよ??」
ノアは自身のハンカチで血を拭いているバーノンの疑問形がうるさい愛の文句をガン無視しながら、ウィリアムへ言葉を投げかける。
「あぁ、似てきたよ……さて、では……本題だな」
この言葉が発せられた瞬間、和やかなお茶会に殺伐としたオーラが混ざり始め、ついに三人は黙ってしまった。周りに誰もいないことを音で確認した三人は再び口を開く。
(さて……)
ノアが深呼吸をする。
「明日の夜……予定通り二十二時頃に当家主催のパーティーに招待しているミラー男爵家が来る。招待状には先の取引での対応への感謝と、この縁に感謝して我が宝石コレクションを是非お見せしたいと書いた。これで確実に来るだろう。
その間に君たちは男爵家に侵入し、『レインボーガーネット』を手に入れてくれ。そして…分かっているだろうが、目撃者がいれば全員……」
「心得ております」
「……《処分》します」
「よろしい。後は書類の入れ替えだが、それはすでにミランダ叔母様のスパイが男爵家の使用人として潜り込んでいて、仕事は終えているとの報告を受けたよ」
「「分かりました」」
「パーティーでミラー男爵家の皆様を僕がしっかりとも・て・な・し・ておくから安心しておくれよ」
「はい、もちろんそちらはご主人様にすべてお任せします!」
「ふふっ……明日が楽しみだ……」
(もうすぐ手に入るな……)
そうつぶやきながら伏し目になったノアの目には暗い影がかかり、うすく口元には笑みが浮かんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます