第4話 Single round
バーノンとウィリアムはミラー男爵邸の正門の中へと進み、屋敷の扉を叩いた。
出てきたメイド二人に要件を告げて案内を頼むと、すんなりと屋敷の中に入ることができた。
扉から応接間までの廊下は、とても長く、絵画や花瓶、そして宝石が華やかに、清廉に、廊下の扉と向かい合わせになるように並べられていた。
それを見て、宝石管理を仕事としているせいか、どれもかなり値が付く代物であることを一目見るだけでわかるようになったウィリアムは顔を歪ませた。
(なぜ成り上がりの男爵家がこんな高級品を手に入れられるのだろう?
庭の手入れすらまともにできていないというのに。
これだけ浪費していれば男爵家の財政は悪化しているはず……一体どこと裏で繋がっているのか……)
そう思案しながら黙って歩くウィリアムを横目にバーノンは屋敷の隅々まで観察しながら歩いていた。廊下は事前情報よりも長く感じ、恐らく一番奥の部屋が男爵家当主の書斎であろうとバーノンは目星をつけていた。
(おそらく、寝室は別だな……先程、玄関のすぐ横に階段があった……なら、奥にもありそうだな)
ゆっくりと気づかれないように部屋の扉を一つ一つ確認していく。
細かく観察している途中で突然メイドの一人が立ち止まり、口を開いた。
バーノン達も立ち止まり、口を開いたメイドの言葉を待った。
(……どうやら応接間に着いたようだ)
メイドは作り笑いだと分かるほどに口角を上げてこちらを振り返った。
「こちらでお待ちください。紅茶と菓子をご用意しております。どうぞ……ごゆっくりとおくつろぎください。では、失礼いたします。」
二人が促されて応接間に入ると、メイドは素早く扉を閉めて出て行ってしまった。
バーノンはお礼を言えなかったなと思ったのか、「……ありがとうございます」と小声で言っておくことにした。
「ここが応接間のようですね」
バーノンがそう言って、軽くソファに座る。
それに従うようにウィリアムも部屋をじっと見まわしながら、バーノンの隣に浅く座った。
応接間は廊下とは違って質素であり、物がないようである。
正面を向いたまま、ウィリアムはボソッとつぶやくように口を開く。
「……怪しいです、ここは」
「えぇ、廊下だけ異常に煌びやかでしたね……今回来たのが私達でよかったかもしれませんね」
「どうしてですか?」
「もし、ここで何か起きた時は私達しか《処分》できませんから。
ご主人様やエマ様だったならそういうのに慣れていませんし……」
「あぁ……確かにそうですね」
「ウィリアム様にもお伝えしておきますが、ミラー男爵家は成り上がってからそれほど経っていませんので、財政記録は少なかったのですが……変化があったここ数年の記録を確認した際に、二年前からコレクターとして有名なアダムス侯爵家と繋がりができていた事が分かりました。
アダムス侯爵家は前々から怪しい噂が多いのですが……」
「……シッ!!」
ウィリアムが突然、すぐに口を閉じるように人差し指を口に当て、バーノンに合図する。
すると、遠くから人が数人歩いてくる重い足音と床の木がきしむ音がした。
音が大きくなった次の瞬間、応接間の扉が勢いよく開かれた。
「お待たせ致しました! 遅くなり申し訳ございません。
こんな僻地までわざわざご足労いただきありがとうございます!」
バーノンは手を強く握って、登場した男の顔を見つめた。
(なんだ……やけに早かったな、この男)
バーノンは警戒しながらも、笑顔でやってきた能天気な男の方に向き合うようにして立ち上がった。
ウィリアムもそれにつられて立ち上がると、バーノンと同じように挨拶をしようと微笑んだ。
「いえ、こちらこそ約束の時間より少し早くなってしまい申し訳ございません。
改めまして、私はモルガン侯爵家の当主代理として参りましたバーノンと申します。
こちらはモルガン侯爵家の傍系にあたるウィリアム様でございます。どうぞお見知りおきを」
「初めまして、バーノン様、ウィリアム様。
私はミラー男爵家次男のジャック・ミラーです。よろしくどうぞ」
「……初めまして」
三人は握手を交わし、それぞれ向かい合ったソファに座り、腰を落ち着ける。
バーノンだけがソファに座ってから笑みを浮かべていた。
(……話は聞かれていなさそうだ)
バーノンはジャックの表情や言動から自分たちの話を聞かれていないと判断すると、安心してジャックと話を進め始めた。
「さて、今回お手紙にてご連絡頂いた取引内容についてですが…」
「えぇ、現在ジャック様が所有されている『レインボーガーネット』を我らの当主が切望されておりまして、大金と引き換えに是非ともお譲りしていただけないかと…」
「えぇ、それはもう…存じておりますが、大変申し訳ございません…このお取引は快諾できません」
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