第2話 Cutting
エラがいなくなった応接間の中では、少し落ち着いた二人が立ったまま話し合いを始めていた。
「さて、本題だな。
バーノン、今すぐガーネットを手に入れてこい。
もちろん普通のモノではなく、『レインボーガーネット』だ!」
「『レインボーガーネット』ですか?
聞いたことがありませんが……」
「その通り、かなり貴重だからな。
聞き覚えがないのも無理はない。
ガーネット自体は多くの原産地があるし、多様な色を有している宝石だ。
その魅惑的な輝きには加工時に皆が目を奪われることで有名だし。
(まぁ、
そして、ガーネットの中でも何種類か特に手に入りづらいものがある。
例えば……まばゆい赤の輝きを放つ「マライア・ガーネット」の変種「カラーチェンジガーネット」とかな。
今回のモノはそれよりも手に入りづらいと思う。とにかく頑張ってくれ」
「待ってください。
狙いのモノの特徴が分かりません!」
「はぁ……しょうがないな。
まず、その宝石はメキシコなどが主な産地だ。
見た目は名前の通り七色に輝いているらしいが……ん~どれほどの美しさなのだろうかっ!!!!!!!
早く見てみたい!
その美しさはきっと我らが
いやもちろん、
それでも言葉にできないほど素晴らしいに違いないさ!」
侯爵様は興奮しながら辺りを動き回っている。
バーノンはそれを見ながら「また始まった……」という顔をした。
「……流石はご主人様でございます。
宝石に関しては「気持ち悪い」と私が思ってしまうほど熱烈に語られますね!
後半の部分は要らなかったのでは?」
「何か文句でもあるのかな?」
そう侯爵様が微笑みながら言い放つと、背後からどす黒いオーラが漂い始めた。
しかし、バーノンはその圧には慣れている為、あまり効かないらしい。笑みを絶やさずにバーノンもそれに対抗した。
「いいえ、ございません。
しかし、私にメキシコまで行って取引しろと申されるのですか!?
鬼畜!!!!!!!!!!」
「最初はそう考えたよ」
「え」
「だがやめた。あまりにも時間がかかりすぎる」
「では……」
「あぁ、国内で既に所有している者を探して交渉するか、宝石を扱っているオークションに行くか……もしくは国内にいる宝石所有者を……」
(《処分》するか……だ)
・ ・ ・
《処分》。
ここで簡単に説明しておこう。
モルガン侯爵家ではよくこの言葉が使われる。
主に裏仕事を示す際によく使われ、殺人、窃盗、暗殺、情報操作、国外追放する事である。
・ ・ ・
「私は最後の案が一番手っ取り早いと思いますね。
私かミランダ様、そして一通りの技術を覚えたウィリアム様がいますから」
「そうだな……現在国内で『レインボーガーネット』を所有している貴族はもう調査済みだ。
確か、ミラー男爵家の次男「ジャック・ミラー」だそうだ。
噂では彼も僕と同じく宝石に目がない男らしい。
(まぁ……僕ほどではないだろうけど)
……バーノン、今回も頼めるか?」
「仰せのままに」
侯爵様はゆっくりと頭を下げるバーノンに対し、一瞥すると、少し考え込む顔をした。
「一応ウィリアムも連れて行きなさい。
おまえだけでは心配だからな」
さも当たり前といったように腕を組みながらノアがそう言ったものだから、バーノンは「心外だ」という顔をして、主人に詰め寄った。
「え、なぜですか!?
どうして私だけでは心配なのでしょうか!!
おかしい……私いたるところから声がかかるイケメン有能執事として有名なのにっ!」
「そういうところだぞ、本当に……」
(普通にしていれば安心できるんだが……常にこれだから……)
「あれ、呆れていますね、ご主人様」
「そうだ、よくわかったな?」
「あーん、冷たい!
こんなに愛しているのに!
幼い頃から尽くしているのに!
なんで!
あ……どこに行かれるんですかっ!?
私を置いて行かれるなんて!!
待ってくださーい!」
侯爵様が呆れ顔でバーノンの言葉を無視し、部屋を出ていく。
それを追いかけるように小走りで部屋を出ていくバーノンは少し微笑んでいるように見えた。
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