新魔法

 目の前には、ぷくぅ・・・と頬を膨らませたリリアが居る。


「いい加減、機嫌直してくれって」

「ふーんだ」


 こう言った状況に慣れていない俺は、リリアがなぜ怒っているのか分かっても、その機嫌の直し方が分からなかった。

 機嫌が悪いのは簡単で、ただ俺がリリアを放って先に冒険者の資格を取ってしまったかららしい。

 光魔法はまだバレていないので、そこは良かった。


「ほっ、ほら、あんまりふくれっ面ばかりしていると、せっかくの可愛い顔が台無しだぞ」


 「可愛い」という言葉が効いたのか、リリアの顔が少しだけニヨッと動いた。

 ここだ、ここを攻め込めば、と光明が見えた。


「俺が冒険者登録したのもなー、リリアにカッコいいとこ見せたくて取ったけど、こうも怒るんじゃ返納するしかないなぁ~」


 チラッチラッ、とリリアを見ると、俺が冒険者カードを返納すると言い出したことに焦りだしたのか、顔が変になっている。


「残念だ」

「わぁもう、返しに行かなくてもいいです! 私が大人げなかったですぅ!」


 どうやらリリアが根負けしてくれたようだ。

 よわい12歳のリリアと元の年齢38歳の俺とでは、駆け引きの力というものが違うのだよ。

 ちなみに、心はとても痛いがな!


「確かに黙って冒険者登録したのは悪いと思っているけど、そこまで怒ることじゃないんじゃ……?」

「冒険者登録は一緒に行こうって言ったじゃないですかぁ!」

「すみませんでしたッ!!」


 「全く、束縛系彼女か?」と思ってしまったが、全面的に俺が悪かった。

 ジャンピング土下座しか許される――いや、ジャンピング焼土下座しないとダメなくらいダメダメ野郎じゃねぇか!

 まさか、ケイオスがそんな小洒落た約束をするとは思っていなかったんだよ。


「全くもう……。こんなに謝られては。まるで私の方が悪いみたいじゃないですか」

「いやそりゃ全く、悪くないです。俺の方が鞭打ち百回刑でも良いくらい悪いです」


 でも痛いのは止めてくれ。


「そっ、そうだ。これから冒険者の資格を取りに行くっていうのはどうだ?」

「私、お父様から学校に入学するまでは取ってはいけないと言われているんです。だから一緒に取りに行こうって約束していたんです」

「重ね重ね、申し訳なく……」

「でも、ケイオスくんから冒険のお誘いがあったら断れないですねぇ」


 チラッチラッ、と何かを期待するような目でこちらを見てくる。


 「無理に冒険者資格を取りに誘えばいいのか?」と一瞬思ったが、そうではない。


 リリアは、俺が嵐を駆ける者たちストーム・ランナーズにお願いしていたことを頼むと言っているんだ。

 一緒に冒険に連れて行けと――。


「もしよかったらだけど、雷兎ゾリウム狩りに行くか?」

「お待ちください」


 俺が提案した瞬間、リリアの顔が満面の笑みとなると同時に、リリア付きのメイドから待ったがかかった。


「えぇー!? 行ってはダメなんですか!?」


 リリアが驚きの声を放つ。


「いいえ、狩りに行くのはリリア様の教育上良いと考えますが、相手が雷兎ゾリウムとなると話は変わります。この場合、狩るモンスターはスライムであれば問題ありません」


 スライムか。

 俺の場合、嵐を駆ける者たちストーム・ランナーズが術布を設置回収してくれて、冒険者初心者が最初に会敵するスライムを一つ飛ばしで来たからその存在をすっかり忘れていた。


「スライム程度であれば、私もリリア様を守ることができますので」

「では、決定ですね!」




 ――という訳で、スライム狩りが決行されることとなった。

 「さてスライムはどこに居るのやら」と思い、家の者に聞いてみたら、意外や意外、近所にも生息しているポピュラーな存在で害虫と同じ扱いらしい。

 ただ、小さい時は倒しやすいのだが、大きくなるにつれてコアが外皮から遠くなり、倒すのが困難になるため、小さい時の駆除が大切になってくるらしい。


「あっ、居ました! スライム、居ましたよ!」


 「きゃ~」なんて、冒険者にあるまじき黄色い声を上げながら、こちらを睨みつけてくる(?)スライムをリリアが指さしている。


「見ててくださいね、ケイオスくん」


 ニッコニコと笑いながら、詠唱の準備に入る。


照明魔法セリウム

「????」


 なんで、攻撃する前に照明魔法を詠唱したのだろう?


光槍リスピア・フォルミス!」


 照明魔法として呼び出した光が収束し、光の槍へと変化した。

 第二界か第三界魔法だろうか。

 ゲームには無かった、段階を踏んでの詠唱に驚くと同時に、動きがぎこちないが現れた光の槍のインパクトに震えた。


「そっ、それは?」

「これは、光槍リスピア・フォルミスという光魔法ですよ。私の得意技の一つです」


 カッコイイ……めちゃくちゃカッコいいじゃんかよ。


「そっ、それって、俺にもできる?」

照明魔法セリウムで発した光を収束させて槍化させるだけなので、意外と簡単ですよ?」

「よっ、よし、やってみよう」


 まずは、第一界の光魔法セリウムを詠唱するんだな・


照明魔法セリウム――」


 そして、槍化するための魔法を。


光槍リスピア・フォルミス!」


 力強く唱えた。

 しかし、光は収束することなく、力弱く消えていった。


「くそぉ……。やっぱり、難しいな」

「簡単ではありますけど、そう簡単にやられては私の面目が立たない訳で」

「そりゃそうだ」


 何事も、練習あるのみ。

 できる人間の「簡単ですよ」は、当てにならないからな。


「魔法の基本は、想像です。成功した自分を想像し、魔法を創造し、行使する。私の先生の教えです」

「想像――か」


 言われた通り、想像する。

 自分が、光槍リスピア・フォルミスを詠唱し、顕現させて見せたその姿を……。


照明魔法セリウム……」


 ホワッと、ここまでは問題なく魔法を出すことができる。


光槍リスピア・フォルミス


 唱えると同時に、先ほどと同じく発光が弱くなり、消えてしまいそうになるが、少しだけ、そう少しだけ形状に変化が現れた。


「ケイオスくん、あっと少しっ!」


 リリアはそう言い、光槍リスピア・フォルミスが顕現し始めている手にそっと触れ、魔力を流し始めた。


「こっ、これは!?」

「集中してください」

「あっ、あぁっ!」


 触れられたところから流れてくる魔力を元に、俺の消えかかっていた光槍リスピア・フォルミスは再び輝きが戻り始め、そして最終形態である槍の姿になった。


「やっ、やっ――」


 くにゃん


「なっ!?」


 照明魔法セリウム光槍リスピア・フォルミス化に喜んだ瞬間、光槍リスピア・フォルミスが曲がり、力なく垂れ下がった。


「…………」

「…………」


「これは初めて見る魔法ですね……」

「スライムッ!!!!」


 スパァン、と近くに這い寄っていたスライムに、鞭になってしまった光槍リスピア・フォルミスを打ち付けた。

コアを叩き潰されたスライムは、一瞬の間に液状化し魔石が後に残るだけとなった。


「鞭のようにしなやかな光槍リスピア・フォルミス……。光鞭リフレクサとでも名付けましょうか」

「好きにしてください」


 曲がるはずのない光槍リスピア・フォルミスを曲げたという偉業は、リリアが知る分にないらしい。知るかっての。




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モブの悪役に転生してしまったけど、追放されたくなかったので主人公の親友ポジを狙いに行ったら魔法を極めてしまいました いぬぶくろ @inubukuro

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