冒険者試験


「ダメだ……。らちがあかん」


 お買い物システムを使って、ナハルに魔導書の買い物に何度か行かせてみたのだが、俺にあった魔導書――それこそ第三界以上の魔法が使えるようになるような魔導書は見つからなかった。


 レベルの問題もあるのだと思うが、それでも術布を使いブーストをかければ、第二界魔法でも相応の強さを発揮できるので、これは本当にケイオスモブの面目躍如といったところだろう。

 うるせぇやい。

 こうなったらあれだな、やるしかないな。




 そしてやってきたのは、冒険者ギルドだった。

 今まで、自分の実力が低くてダメだったが、そろそろ冒険者稼業を始めてもいいかもしれない、と思った次第だ。


「こんにちは、アニックス様。本日は、どのようなご用件でしょうか?」

「冒険者登録をしたい」

「冒険者登録ですか?」

「あぁ、そろそろ俺も独り立ちしようかと思って」

「それは、おめでとうございます」


 そう言いながら、ギルドの受付は登録者用紙を出してきた。


「こちらに記名をお願いします。分からないところがあれば、その都度ご説明いたしますので」

「分かりました」


 サラサラッ、と書いて受付に渡すと、問題が無かったのか軽く目を通してすぐに次の作業に移った。


「では、実力試験をやりますが、希望日などはございますか?」

「今すぐやることは?」


 そう問うと、受付嬢は頷いた。


「問題ありません。すぐに始めますか?」

「お願いします」


 申し込みをすると、先にギルド裏にある訓練場へと案内され、そこで少し待つように促された。

 受付嬢は、「試験官を呼びに行く」と言い、再びギルドの中へ入っていった。


ミラ


 手持無沙汰になった俺は、これから戦闘試験を受けるだろうから、魔法の練習を始める。

 系統は、火・風・土・光の四系統。

 第二界までの行使しかできないが、それでも四系統行使できるなら一般通過魔法使いなら凄いと言っても良いだろう。

 あと、光魔法が使えるようになったのは、リリアには秘密だ。


「凄いな。四系統を使えるのか」


 声をした方を見ると、いつの間に居たのか、男が立っていた。

 そこそこくたびれた鎧と服をまとっているが、中身の体はまだまだ現役と精悍さがうかがえる。50代くらいの男だ。


「目標は、全系統制覇です」

「ハッ、こいつは大きく出た。四系統第二界魔法でも凄いというのに、それを全系統と来たか」

「いいえ、全系統第四界魔法までの習得です」


 「及び、二重詠唱の習得だけどね」と心の中で付け加える。

「そいつは、面白い」


 笑いながら歩いてきた男は、手を差し出してきた。


「しがない元冒険者だが、今回の試験官のダン・クロフトだ」

「ケイオス・アニックスです」


 もしかして、と思ったけど試験官だったようだ。

 話を聞いてみると、ダンは元々冒険者で歳をとり前線で活躍が難しくなったところをギルド長に誘われて試験官になったようだ。

 自分では「しがない冒険者」などと評価していたが、その内から放たれている玄人感と言えば良いか、そういったのがビンビンと伝わってきて、その程度ではないということが分かる。


「早速だが、剣は使えるな?」

「もちろん」


 ヒュッ、と木剣を投げ渡された。


「ホッ!」


 それを受け取ると同時に、ダンが踏み込み突きを放ってきた。

 わざとであろう、鋭くはなかった突きを半歩横へ動くことで避け、そのまま腕を切り落とす軌道で剣を振るう。


「甘いよ」


 先ほどまで腕が伸びていた場所を切ったはずが、俺の木剣は空を切り、代わりにダンの木剣が俺に袈裟切りを浴びせてきた。


「なっ!?」


 ゴッ! と鈍い音を出し、何とかダンの木剣を受け止めることに成功した。


「やるぅ」


 代わりに腕が痺れたが、何とか一撃死は免れた。


「動きが似てるな――マーグレイさんに師事を?」

「正解です――エンチャント風ソヴェラド


 今度はこちらが攻める番だ。

 木剣を振るうと、避けたダンの服が勢いよくなびいた。


「良いエンチャント魔法だ。太刀筋が鋭くなった」

「軽くよけられては、鋭さも分かりませんよっ!」


 二撃、三撃と打ち込むが、どういう胆力をしているのか軽く――とも言えないが――いなされてしまう。

 カッ、コッ、ガッ! 静かなギルドの庭に、俺とダンの内合う音が響く。


「魔法は、エンチャント風ソヴェラトだけか? もっと撃って良いんだぞ?」


 今は剣の試験だと思い、エンチャント魔法しか使わなかったが、魔法も使っても良かったらしい。

 ならば、魔法使いらしい魔法を使ってやるか。


火炎嵐カラヴェ・ゾルム!」

「なっ!?」


 炎弾カラ辺りから相手の出方を見ると思っていたようなので、初手未見であろう第二界二重詠唱の火炎嵐カラヴェ・ゾルムを放ってやった。

 俺を中心に炎の風が巻き起こり、ダンを焼こうと暴れまわる。


「熱っち!」


 ぴょんぴょん、と跳ねて間を取るダン。


『やっぱり、光風刃ヴェリクト・ゾランと同じで、集中しないと目くらまし程度の力になっちゃうな……』


 炎が消えると、服に火が燃え移ったのか服をはたくダンが見えた。


「――おぃおぃおぃ! お前、第二界までしか使えないんじゃなかったのかよ!」

「これは、第二界魔法です」

「んなわけないだろ!」


 「んなわけない」と言われても、本当に第二界魔法(二重詠唱)なんだから仕方がない。


「さぁ、続きをやりましょう」

「できるかっ! こちとら、腕っぷしだけで冒険者やってたんだ! 剣筋も問題ない、魔法はもっと問題ない。合格だ、合格!」


 合格してしまった。

 剣に関しては結構、おまけしてもらった感じがするけど、これで俺もいち冒険者になれた。

 これからが楽しみである。




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