魔獣狩り


 嵐を駆ける者たちストーム・ランナーズと出会い、そして術布を置いては持って帰らせ、それを使い俺が高度な魔法の練習に使うようになってから3か月くらい経った。


エンチャント風ソヴェラト――」


 手に持つは真剣。

 相手は――。


「俺に会ったのは不運だったな」


 ケイオス・アニックスのゲーム内でのキメ台詞を、対峙している雷兎ゾリウムに言ってみたりする。

 雷兎ゾリウムとはすばしっこい角の生えたウサギのモンスターで、その角には微量の毒があり、傷つけられると痺れることから雷兎ゾリウムと呼ばれている。

 パンッ! と跳躍でこちらに突っ込んでくる雷兎ゾリウムに対し、剣でひと切りすると、そのままの勢いで真っ二つになる。


雷兎ゾリウム程度であれば、結構、簡単に狩れるようになってきたな」


 初めて森に来た時など、ビビりまくってちょっとした物音にも逃げ帰ったものだ。


「行くぞ――」


 そのままの勢いで、二羽、三羽と切り伏せていく。

 不思議なもんで、初めは雷兎ゾリウムの機動どころか、跳ぶ瞬間すらまともに追えなかったというのに、今では初撃を外してしまった場合でもすぐに次の動きが分かるようになった。

 分かりやすく言えば、レベルが上がったということだろうか?


「ありゃ、もう終わってら」


 林の中から出てきたのは、雷兎ゾリウムではなく嵐を駆ける者たちストーム・ランナーズの大剣を抱えたエメットだった。


「良い追い込みだったぞ」

「本当はもっと居たんですけど、やっぱりすばしっこくて」


 ここ数日、嵐を駆ける者たちストーム・ランナーズのメンツに手伝ってもらって、狩りの真似事をしている。

 いわゆる追い込み猟だ。

 今までは術布でマナを吸収していたけど、今はもう自分がモンスターを倒すことによってマナを得ている。


「いや、あんまり来られても対応できない可能性が出てくるから、このくらいずつの方が――」

「行きまーす!」


 エメットと話していると、遠くからミニエフの声が聞こえた。

 それと同時に、ガシャンガチャンと盾に雷兎ゾリウムの角をぶつける音――これは、ソーラの盾だな――が聞こえてきた。


「エメット、追加が来たぞ」

「倒しても?」

「俺が撃ち漏らしたらな」


 雷兎ゾリウムが何匹来るか分からなかったが、撃ち漏らしたりしない自信があるから言える。


「――ッと」


 ミニエフとソーラが草をかき分ける音と共に、草むらから4匹の雷兎ゾリウムが飛び出してきた。


岩塊カト!」


 詠唱した瞬間、地面から岩が飛び出し、三匹の雷兎ゾリウムの頭を潰した。

 しかし、残りの一匹は外れてしまった。


「まだ多数を撃つには命中率が足りないな――」


 岩が外れた一匹はこちらを敵と認識したのか踵返し、俺に狙いをつけて跳んだ。


疾風ゾヴェ!」


 ドン! と勢いある雷兎ゾリウムの跳躍に対して、こちらも風の塊をぶつける魔法の詠唱をして勢いを相殺する。


「シッ!」


 一瞬だけだが空中固定されたように止まった雷兎ゾリウムは、簡単に切り伏せることができた。


「お見事です!」


 エメットのお世辞に気を良くする前に、他にも居ないか周囲の警戒をしていると、林の中からミニエフとソーラが現れた。


「この辺りに居る雷兎ゾリウム程度であれば、もう大丈夫そうですね」


 林の中をかき分けて来たせいで乱れた服を直しながらミニエフが言う。


「そろそろ、次の獲物に行きたいな」


 嵐を駆ける者たちストーム・ランナーズにお守をしてもらっていると言っても、そろそろ次の段階に進んでも良いかもしれない。

 マーグレイ先生からの師事を仰ぎ、魔法詠唱の素早さもだいぶ上がっている。


「でも、ケイオス様の魔法は第二界までしか唱えれませんよね? もう少し、雷兎ゾリウム狩りでマナを増やす方向の方が良いのでは?」

 しかし、魔法が使えるミニエフはそんな俺の意見とは対照的に、まだウサギ狩りを勧めてきた。


 残念ながら、ミニエフが言う通り俺の器用貧乏が炸裂して、火・水・土・風・光の属性でどれもまんべんなく使えるのだが、その全てが第二界までしか唱えることができない。


 いや、一度だけ第三界よりの特殊風魔法である浮遊ルヴェンを詠唱して喜んでいたのだが、そこからとんと音沙汰がない。

 マナ的には第三界まで行使できても良いはずなのだが、それでも上手く行かない。


「それで、我らがリーダーはどうした?」


 この場に一番――という訳でもないけど、居なければいけない嵐を駆ける者たちストーム・ランナーズリーダーのクワスだけが居なかった。

 サボるような奴ではないので、もしかしたら獲物を引っ張ってくるために遠くに行ってしまっているのかもしれない。


「あっ、居ました!」


 第二界の探査魔法セリヴェ・ノミナでクワスがどこに居るか調べようとしたら、その前にソーラが発見した。


「何やってんだ、あいつ?」


 全力ダッシュしながらこちらに向かい手を振っているクワス。

 ただ笑顔で元気よく走っているように見えたが、次の瞬間、俺を含めて全員が驚愕した。


「あいつ、巨熊カウルスに追われてるぞ!」


 エメットの叫びに似た声と共に、俺と嵐を駆ける者たちストーム・ランナーズは瞬時に戦闘態勢に入った。


「ちょっと待って、何か叫んでる……」


 俺には、巨熊カウルス襲来の危機を察知してか、森から鳥が羽ばたく音しか聞こえないが、ミニエフの耳には何か聞こえたらしい。


――もので……す?」

「「「獲物!?」」」


 ミニエフの言葉に、俺以外が驚き声を上げた。

 ちなみに、俺は声を上げる以上に驚いてしまい声を出す時を逃した。


「ケイオス様、あれはさすがに危険すぎます。我々の後ろに」

「待て、待て。さすがに一撃もお見舞いせずじまいじゃダメだろ」

「しかし――」


 盾を構え俺を守ろうとするソーラにみなまで言わせず、練習に練習を重ねた魔法詠唱に入る。


「全員、ケイオス様を守れ!」


 ソーラの指示に、嵐を駆ける者たちストーム・ランナーズは息の合ったコンビネーションを見せ、俺を囲うように円陣を組んだ。

その間も、巨熊カウルスの攻撃を避けつつこちらに走ってくるクワス。

凄すぎる。


炎弾カラ!」


 ボフッ! と手のひらから炎の弾を巨熊カウルスにお向けて射出する。


「当たった――けど、効いていない!」


 第二界の魔法程度では、巨熊カウルスに効かないのは分かっている。少しくらいは牽制になると考えたけど……。


「仕方ない。これならどうだ――ッ!」


 両手を合わせ、引き伸ばすことで魔法を発生させる。

 こちらも練習を重ね――マーグレイ先生を驚かせた俺独自の魔法になる。

 第二界魔法に属しているようで、今の俺にも発生させられる二つの属性魔法を二重詠唱として唱える。


光風刃ヴェリクト・ゾラン!」


 風と光で形成された複数の刃は、俺の意思により巨熊カウルスに向かい飛んでいく。

 集中力を要するが、周囲を嵐を駆ける者たちストーム・ランナーズが固めているので、安心して詠唱に徹することができる。

 ゾン! と、光風刃ヴェリクト・ゾランが喰い込んだ部位から切断され、巨熊カウルスは勢いをそのままにバラバラになりつつ地面に転がっていった。


「すっご……」


 嵐を駆ける者たちストーム・ランナーズの誰が呟いたか分からないが、そうだろうそうだろう、凄かろう。

 なんたって、まだ実装前だった魔法だしな!


「うっひょ~、さすがケイオス様ですね」


 巨熊カウルスが倒された後も颯爽と走りながら。クワスは飄々とした様子でこちらまでたどり着いた。

 普通の熊よりも速度が落ちるとはいえ、巨熊カウルスもなかなかの速度が出るというのに、軽く肩で息をする程度のクワス……。

 こちらも体力お化けだな。


「クワス! あなた、ケイオス様にもしものことがあったら、どうすんのよ!」

「もしもって、なんだよ? 俺はただ獲物を連れてきただけだぞ?」

「だとしても、巨熊カウルスよ!? もしもがあるとは言い切れないじゃない!」


 ミニエフがクワスに怒るが、当のクワスはなぜ怒られているか分からないようだった。


「ミニエフの言い分も分かる。――が、今回、第二界の魔法を撃てる機会があったことを嬉しく思う」


 俺の言葉に、クワスがドヤ顔でミニエフを見た。

 俺が居る手前、あまり目立った行動をしないと思われたが、人目をはばからずミニエフは持っている杖でクワスの尻を叩いた。

 そして、「んんっ」と小さく咳払いし、俺に向き直る。


「それにしても、あの魔法は何ですか? 同じく魔法を行使する者として気になる点がいくつかあるのですが……」

「さっきのは、二重詠唱で属性を二つ持たせた魔法を放っただけだ。内容は風と光魔法。複数の光と風の属性を持っている刃を放ち、それは自身の意思によってある程度、自在に動かせる」


 説明できるのはこの程度だ。

 ってか、この程度しか俺は知らない。


「そんなことが可能なんですか!? いや、そもそも、ケイオス様は第二界の魔法までしか唱えられませんよね!?」

「これは、さっきも言った通り、第二界魔法相当の魔法として成り立っている」

「あれで第二界……」


 そう言い、ミニエフは巨熊カウルスを見た。


「なぁ、ミニエフ。俺は魔法を使えないからみんなすごく見えるけど、あの魔法ってそんなに凄いものなのか?」

巨熊カウルスの毛皮が固いのは、ソーラもよく知ってるでしょ? 風の第二界魔法は疾風ゾヴェって強い風を放出する魔法で、光の第二界魔法は光撃カセリウムだけど、それだと力が弱すぎて巨熊カウルスの毛皮を貫くことができないの」


 だから、四肢が切断された巨熊カウルスを見て驚いているのだ。


「それって、もしかしなくてもケイオス様ってすごいのでは?」

「凄いとかの範疇を超えてるわよ……」


 「あんな魔法見たことない――」と、ミニエフはぽつりとこぼした。




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