術布を使った魔法強化


「ケイオス様、嵐を駆ける者たちストーム・ランナーズの皆様がお見えになられています」

「早かったな」


 術布は設置してから一週間ほどで回収するようにマーグレイ先生との協議で決定したのだが、日付を確認してみるとちょうど一週間たったところだった。

 仕事に正確なのは良いことだ。

 執事に連れられて部屋から、嵐を駆ける者たちストーム・ランナーズが待つ応接室へと案内される。


「待たせたな」


 「なるべく貴族らしく振舞うように」と最近の俺の性格の変化に気づいてか、マーグレイ先生や家中の人間にも注意されてしまったので、その通りの演技をしてみたりする。


嵐を駆ける者たちストーム・ランナーズ、ケイオス様の依頼を完遂してまいりました」


 「こちらが、術布です」と渡されたのは、封印が施された布に包まれた術布だった。


「一応、物が物なので街中で持ち歩くのは危険と判断し、ミニエフに封印をさせました」

「そうか。わかった、ありがとう」


 封印を解く――といっても、ただ布を巻き紐で縛っているだけのを取り払い、中身を取り出すと屋外に放置され薄汚れた術布が出てきた。


『見た感じ、禍々しさはないな。たしかゲームだとマナを補充するためのアイテム程度だが――』


 考えていても始まらないので、実行に移すことにした。


「ちょっと試したいことがある。付き合ってくれ」

「分かりました」


 嵐を駆ける者たちストーム・ランナーズのメンバーを連れて、裏庭へとやってきた。


「ケイオス様。今さらですが、一体、何をやられるのですか?」

「その前に確認したいのだが、みんなにはこの術布は何に見え、どう使えると思う?」


 リーダーのクワスが困った顔をして、魔法使いのミニエフに視線を送った。

 しかし、ミニエフも困った顔をした。


「……あの、誤解を恐れずに言えば、それは呪いの品で、生命力を吸い取るただの罠にしか見えません」

「なるほど」


 これは試してみないといけないな!

 俺が知っている使い方が正しいのか、それとも、嵐を駆ける者たちストーム・ランナーズの面々が考えているのが正しいのか……。

 裸になった術布を握り締め念じる。


『マナ解呪――』


 すると、体全体にマナが流れてくるのが感じられた。


『よし。これはイケる!』


 万が一のことがあれば、火属性は被害が大きくなりすぎるので、風魔法が適当だろう。と考え魔法を唱える。

 裏庭にたくさん生えている木の方を向いて、意識を集中させる。


疾風ゾヴェ!!」


 詠唱すると共に、目の前に空気の塊が発生し、それは瞬時に飛び目の前の大木を揺らし、そして根こそぎ倒した。


「強いッ!」


 ミニエフが驚きの声を上げた。

 どうだ、凄かろう。

 本来のレベル相当のマナであれば、発生させられるがそれほど強力ではない疾風ゾヴェであっても、術布で集めたマナを吸ったブーストをかければこれくらいたやすいこと。


「なぁ、ミニエフ。あの疾風ゾヴェってなんか強くないか?」


 「俺のレベルに対して」ということだろう。

 クワスがミニエフに聞いた。


疾風ゾヴェは第二界魔法よ。もちろん、行使者の力量レベルによってただの強風になるか、攻撃になるか変わるけど、今のケイオス様の疾風ゾヴェはレベル以上の能力だったわ……」


 もちろん、唱えるだけではなく俺が疾風ゾヴェを行使し、大木をひっくり返すところまで思い描いて正確な魔法が撃てているということが前提である。


「しかし、これほどうまく行くとは思わなかったな」


 今度は、微風ミヴェと唱え、手のひらに小さな風の渦巻きを作る。

 そしてそれは次第に強くなり台風の目のようになった。


「ケイオス様、あまり無理をなされないでください。でなければ――」

「あぁ、まだ無理はしてな――」


 と言いかけたところで、ドタッと地面にひっくり返った。


「ケイオス様!?」


 調子に乗って魔法を使っていたせいで魔力切れを起こしてしまったようだ。


「ケイオス様、お怪我は!?」

「ないよ。ないけど、めっちゃ疲れた」


 なんというか、肉体的な疲労ではなく精神的な疲労。

 魔力切れは初めてなったけど、こんな感じなのか。


「まぁ、しかし、この術布は良い物だ。それに、置いていたところをもっと工夫すれば、マナをもっと効率よく取れるだろう」


 ここに関しては、嵐を駆ける者たちストーム・ランナーズ任せになってしまうが、彼らなら適切な場所に設置してくれるだろう。


「追加で術布を置いて欲しい。今から、ギルドへ行けるか?」


 嵐を駆ける者たちストーム・ランナーズのメンバーは顔を見合わせ頷いた。


「もちろんです!」




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