アルカナ言語

 リリア・アントフォーゼというキャラクターが目の前に居る。

 スター・オブ・ファンタジアではケイオスを庇って死ぬだけのキャラクターだったのだが、俺の目の前に居る人物は、アントフォーゼ家の次女でやや自由奔放感はあるものの責任感も兼ね備え光魔法と回復魔法、そして錬金術の才能に富んでいる人間・・ということが分かった。


「どうかしたんですか?」

「いやぁ、なんでもないよ」

「そうですか」


 ニコニコと笑顔でお茶を飲む少女。

 このまま行けば、俺の闇落ちと共に死ぬ運命のキャラクター。

 そうだよな。

 もうキャラクターではなく、一人の人間なんだよな。


「リリア。光魔法って、実際、どんな魔法なんだ?」

「もう、いきなりどうしたんですか? 私の魔法が見たいんですか?」


 フフンと鼻息を荒くしながら、リリアは手のひらを空に向けた。


光よゾセリウム!」

「ぐあぁぁぁぁぁ! 目がっ! 目がぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 突然、目の前に閃光が表れて俺の目を焼いた。

 確かこれは、周囲が暗い時に点ける魔法で、「光よゾセリウム」と唱えれば周囲一帯が明るくなる。

 しかし、この明るさは想定外だった。

 ってか、これを馬車内でやっていたとかメイドさんの目は大丈夫なのだろうか?


「でも、どうして私の魔法に興味を持ってくれたんですか?」

「俺の魔法は今のところ炎系しかないからな。いつかは、全系統の魔法を使いたいと思っている」

「まぁ、それは夢のある話ですね!」


 「夢……?」と、リリアが言った言葉が引っかかり、お茶を飲む手が止まった。


「全系統は難しいか?」

「そうですねぇ。全系統使えたとしても、それぞれが中途半端になって、強い魔法――四界魔法まで使えなくなる可能性が高いですね」


 四界魔法とは、俺がマーグレイ先生から教えてもらったミラ炎弾カラ炎矢ゾラ火柱セラスのことだ。

 第二界までは俺でも問題なく使えるが、多分、器用貧乏というのが響いて第三界以降が使えなくなるはずだ。


 その代わり、威力は弱まるが水・土・風・光・闇属性の魔法がまんべんなく使える――使えるのだが、それだと俺は闇落ち一直線になってしまうので、今から練習をして主人公レオンの隣に立てるようになりたい。

 だから、魔法を一つでも多く覚えたいのだ。


「あぁ、まぁ、全系統は無理でも火属性だけだと相手によっちゃ分が悪い時も出てくるだろうし、その対策として何か――弱くても良いから目くらましに使える程度には魔法を覚えておきたいと思ってね」

「確かに! 一つより、二つですしね。私の場合は、光魔法と回復魔法ですね。2つの属性を使っているように見えますけど、回復魔法は光魔法に属するので、実際は1つと考えた方が良いですね」


 2属性を使えて羨ましいと思っていたけど、実際には1つになるらしい。

 ゲームのプログラムをしているだけで、属性などのシナリオに関しては手を出していないので、なるほど良く分からん。


「回復魔法は光魔法に属するのかぁ。じゃぁ、もしもの時の為に、光魔法を覚えておいた方が良いのかもしんないなぁ」

「あっ、でもでも、希少魔法になりますけど、究極の治癒魔法である生命の水カクヴィタ・ルミナーレは水魔法になりますね」


 あせあせっ、とリリアは変な汗をかきながら話を光魔法から遠ざけようとしている。

 何かおかしいな。


「リリアは、俺が光魔法を覚えたいと思うのは、変だと思うか?」

「いえ、変というか……。もし、ケイオスくんが光魔法を覚えて回復魔法まで覚えてしまったら、私が治癒できなくなってしまうな、って」


 と、顔を真っ赤にしながら答えた。

『かっ、可愛い……』と言いたいけど、元の体ケイオスの性分なのか、簡単に口が開かなくなってしまった。

 じゃっじゃぁ、他の属性を覚えようか、という気になってしまう。

 まぁ、それでもこちらとしては良いんだけど。


「だとすると、水・風・土・闇のどれかになるな……」

「その中でしたら、火属性と相性の良い風魔法なんてどうでしょうか?」


 リリアに勧められて、自分が風魔法を使っているところを想像してみる。

 炎に風魔法がプラスされたら、それはそれは強力な魔法になることだろう。

 そのアクションを思い浮かべてみると、「そういえばあったな」と設定があったことを思い出す。

 なかなかに格好いいじゃないか。


「風魔法は、微風ミヴェ疾風ゾヴェ烈風カヴェ竜巻セヴェンの順に界位が上がっていくんだよ。微風ミヴェくらいでしたらケイオスくんでも普通にできてしまいそうですね」


 リリアに乗せられたわけではないけど、なぜか行けそうな気がする。


微風ミヴェ――」


 手のひらから微風が巻き上がり、テーブルに敷かれたナプキンをたなびかせた。

 これが、微風ミヴェか。

 本当に初級魔法って感じで、攻撃には何の役にも立たず、役に立つのは扇風機の代わりくらいだろうか?


 ミラもそうだけど、こんなものばかり多種多様に扱えたところで、マジック・アカデミアで上に行くことはできず、くすぶるのは分かる気がする。

 だからと言って簡単に闇落ちしてやる気はないが。


微風ミヴェ――ミラ――」


 ふと思い立ち、両手に魔法を発生させてそれを合わせてみることにした。

 しかし、両者とも反発し合うというか、たちどころに混ざり、相殺する形で消えてしまった。


「うふふ。分かります、分かりますよぉ。新しい魔法を作りたいんですよね?」


 その通りだった。

 どうすればいいかリリアに聞いてみると、今のアルカナ語による魔法体系が完成されてから今まで2種の魔法を混ぜ合わせる魔法に成功した例は数えるほどしかないらしい。

 しかし、それを成功できた者は強力な魔法使いになれたらしい。


「2つの魔法を後から合わせるからダメなんだ」

「――と、言いますと?」


 料理と同じで、後から調味料を振りかけては、先にかけた調味料の膜が張っていて、後からかけた方は浮いた感じになってしまう。

 ならば……。


「えーと……カラヴェ・ゾ――」


 プログラムの一種として考えアルカナ語を再構築してみると、それが上手くいき――いや行き過ぎた。

 炎は風により火柱となりそうになり、このままでは危険だと判断した。


「えぇと! キャンセルッ!」


 ボフッ! と、アルカナ語での詠唱を途中で止めたため魔法は発動せず、巻き上がりそうになった炎はたちどころに消えてしまった。


「よっ、よかった……」


 焦った。

 2つの魔法を合わせるだけ・・・・・・と簡単に考えていたが、その後、起こる現象まで考えていなかった。

 あのまま発動していたら、俺は大丈夫でもリリアに害が及んでいたかもしれない。

 しかし、当のリリアはというと――。


「すっ、凄いですケイオスくん! 二つの魔法を同時に発動するなんて!」


 キラキラとした眼差しで俺を見ていた。


「あんなアルカナ語は初めて聞きました! いったい、あれはどういった意味があるんですか?」

「いや、ただアルカナ語を分解してもう一度、組み立てただけだよ」


 言語体系としては、アルカナ語は理解しやすい簡単な部類に入るだろう。

 それを、いったん崩して再構築する。

 さっきの魔法は火に風を合わせる魔法だったのだが、予想を大きく超えた威力になってしまい慌てた。

 「えぇと、確か……」と俺の魔法を見様見真似でトレースしようとしているリリアを横目に、一歩前進したことが嬉しかった。



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