冒険者ギルドへの道のり(物理)

 道中はいたって普通の砂利道だったが、街は活気に満ちていて店の軒先にぶら下がっている商品の珍しさにあちらこちらと目が行ってしまう。


「気を付けてくださいね。活気に満ちている代わりに、物取りも多くなっていますから」

「はい。分かりました」


 術布を丸裸で持ち運ぶのも怖いので革のカバンに入れてきたのだが、元居た世界の海外ではナイフを使ってカバンを切り、そこから物を盗むという方法を使ってくると聞いたことがある。

 「何か、良い魔法は無かっただろうか」と考えてみると、すぐに思い当たる魔法があった。


周囲探査セリヴェ


 詠唱と同時に、周りに魔力の風が流れていく感覚が分かった。


「お上手ですね、ケイオス様。周囲探索セリヴェ炎弾カラと同じく風の中級魔法になるため、まだ教えるのは先だと考えていましたが、ケイオス様は私が考えるよりもずっと先をお進みしているようです」

「本で読みました。拙い魔法ですが、形になって良かったです」

「初めてで、それですか。それは素晴らしい。して、何か見つかりましたか?」


 マーグレイ先生に問われ、周囲をそれとなく見渡すとこちらに敵意がある赤い光点が2つあった。


「明確な敵意あかいろがあるのは2人ですね。次点きいろは4つほど」

「黄色は無視して構わないでしょう。赤色は厄介ですね。撒きましょう」


 「撒く」という言葉から、てっきり走り出すのかと思ったけど、魔法使いの撒く・・は一味違った。


霧隠れミクヴェリ・ノミラ・カノム


 周囲探査セリヴェよりも濃い魔力に包まれたと思った瞬間、少しだけ人の流れが変わった気がした。


「周囲に溶け込む魔法をかけました。周りからは見づらくなっているので、通行人にぶつからないように注意して歩きましょう」

「はい」


 返事をすると同時に、赤色に発光している怪しい人間が、俺の横を駆け抜け路地へと走っていった。

 霧隠れミクヴェリ・ノミラ・カノムは、ゲーム内だとダンジョン内でモンスターに見つかりにくくする魔法だったはず。

 それがこんな風に使えるとは、なかなかに面白い。


「どうやら、相手はこちらを見失ったようですね」


 裏路地へと走っていったならず者を見送ったマーグレイ先生は、ニッコリとほほ笑み、冒険者ギルドへと歩を進めた。




 冒険者ギルドの中に入ると、印象と違っていて驚いた。

 まず、西部劇のような建物に荒くれ者が多い印象を持っていたけど、明らかに依頼人としてだろうか一般人らしき人も多く居た。


「ケイオス様は、冒険者ギルドに来るのは初めてで?」

「そうですね。一度も、来たことはありません」


 もしかしたら、ケイオス・アニックスとしては物見遊山程度で来たことがあったかもしれないが、俺としては初めてなのでこう答えた。


「ケイオス様はまだ幼いのでまだ冒険者として活躍することはできませんが、学校へ行けば誰かとパーティーを組み冒険者として活躍する日が来るでしょう」


 つまり、それまでは冒険者になって早まった真似はするな、ってことか。

 しかし、アニックス家としては特に禁止されているわけではないので、目途が付いたらなってみたいものだ。

 スター・オブ・ファンタジアはレベル制を採用しているので、そこが人造言アルカナ語と違い、人に優しい仕様となっている。

 またパリィもできるので、可能性の話ではあるがレベルが二桁違っても、パリィで全ての攻撃を防ぎきればフロアボスも低レベルで倒すことができる。

 でも、コンマ何秒の世界のパリィを全て成功させるなんてことは、土台無理な話ではある。


「おっと、私の生徒たちがすでに揃っているようですね」


 マーグレイ先生が言う方を見ると、そこには少し年上の冒険者パーティーが立っていた。



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