呪物改善


「うーむ……やっぱり、上手くは行かないか」


 買ってきた魔法書物に軽く目を通してみるも、特にコレと言って目を引くものは無かった。

 しかし、その中でも使えそうな物はいくつかあり、その一つがマナドレイン式の罠だった。


「術式を書き込んだ布の上を獲物が通るたびに、その対象から少量のマナを吸い取り、一定数溜まった時に、術布からマナを取り出すことができる」


 これって、大量のマナを吸い取ることはできないのだろうか?

 術式を変えるだけで行けそうな気がするのは、自分が魔法に詳しくないからだろうか?」

 机に向かい「うんうん」と唸っていると、部屋の扉がノックされる音が聞こえた。


「ケイオス様、マーグレイ先生がいらっしゃいました」

「分かった。すぐ行く」


 執事に言われ、椅子から立ち上がると急いで身だしなみを整えて、先ほどまで読んでいた魔法書物を手に庭に向かう。


「おはようございます、マーグレイ先生」

「おはようございます、ケイオス様」


 挨拶を交わしてすぐ、マーグレイ先生が俺の持っている書物に気づいた。


「ケイオス様、それは何の書物でしょうか?」

「魔法罠の書物で先生に聞きたいことがあり、持ってきました」


 すると、マーグレイ先生はアゴに手を当て、少し困った顔をした。


「私は魔法専門で、罠のようなマジックアイテムは得意ではありませんが、答えられる範囲で良ければ――」


 問題の罠のページを開いて見せ、「この罠では、少量のマナしか吸い取れないとあり、これを大量のマナを吸い取る術式に変えたいのですが」と聞くと、マーグレイ先生は「なるほど」と頷いた。


「あまりにも大量にマナを吸い取ると、獲物が警戒してしまうためこのようになっているようですね。しかし、それとは関係なく吸い取ろうという考えであれば、この部分を変えるだけで済みますよ。多分――」


 そう言い、マーグレイ先生が魔法書物の別のページをめくり始める。


「あった、あった。この部分を複写するだけで問題なく稼働するはずです」

「なるほど、そうだったんですね!」


 初めは、マナを大量に吸い取ることに対して断られるかと思っていたけど、その点に関しては忌避感が無かったようで簡単に教えてもらえた。


「しかし、複写するだけで簡単ですが、こういった罠は素材や文字の形まで綺麗に写さないと威力を発揮しません。そして、試すときの設置は、冒険者を雇う方が良いでしょう」

「冒険者!」


 冒険者は、スター・オブ・ファンタジアの主人公が最初になる職業ジョブだ。

 国の兵士では対処できない細かな事件――例えば、森にモンスターが出たなど急遽・・が付く仕事をしたり、ダンジョンで宝物を探したりする。


「ちょうどいい機会です。今日の授業は、マジックアイテムの作り方にしましょう」

「良いんですか!?」

「もちろんです」


 願ってもみない話だった。

 複写するだけとは言え、聞いたことが無かった『素材や文字の形まで綺麗に写さないと威力を発揮しない』という話に戸惑ったけど、先生が付いてくれるなら百人力だ。

 一人でやるもんだと思っていたから、余計にありがたい。


「それと、冒険者に関しても私の伝手で良ければ紹介できますが」

「そちらも、良いんですか!?」

「この場合は、私の生徒になるので伝手を使ってくだされば、私の方としてもとてもありがたいのです」

「重ね重ね、ありがとうございます」


 執事に布とインクを用意させ、術布作りを始めた。

 ゲームとして外から作っていた時には、こんな細かい設定は無かった。


 「ゲーム内ではこうなっていたのか」と、魔法言語をマーグレイ先生からレクチャーしてもらいながら術布に落とし込んで行くのだが、その魔法体系――アルカナ語がなかなか難しい。


 人造言語を基礎言語としているのだが、なんでこんな物を作っちまったんだい。

 おかげで、理解するのに時間がかかりそうだ。

 でも、マーグレイ先生が居たおかげで――。


「できた!」


 書き損じなく一発で完成したのである。


「さすがですね、ケイオス様」

「マーグレイ先生のおかげです。あとは、これを設置するだけですが――」


 「そちらも紹介していただけるのですよね?」と視線で問うと、マーグレイ先生は頷き返した。


「まだ時間もあることですから、今から冒険者ギルドへ向かいましょう」


 「それと」と言い、マーグレイ先生が魔法を唱えると、手のひらから光る鳩が飛び出していった。


「忙しいという話は聞きませんが、一応、呼び出しておきました」


 「なるほど、あれは伝書鳩かの魔法か」と、マーグレイ先生の魔法を見てひとり納得した。



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