お買い物システム活用術


 『スター・オブ・ファンタジア』には、買い物システムというのが存在している。

 要はただの買い物だ。

 ただ自分で買いに行く場合と、目利きができる人間が買い物に行く場合とで差異が生まれる。


 レベルが低い――であろう――今の自分では買い物に行ったところで良い物が手に入るはずはなく、ぼったくり品とまでは行かないまでも、品質の良くない商品を手に取ってしまう可能性がある。

 それに、今欲しいのは店先に並んでいる既製品などではない。


「――ということで、買い物に行って欲しい」

「かしこまりました」


 屋敷の者に色々と聞きまわって、「変な物を見つけてくる能力」に長けていると思われるメイド――ナハルという名前らしい――に買い物をお願いした。


「でも良いのでしょうか? 私には、魔法書物の良し悪しなんて全くわかりませんが……」

「そこに関しては、期待しているのと期待していないとで半々だね。何か面白い物を見つけてきて欲しい、要はただそれだけだ」


 俺からの要望がイマイチだったのか、「はぁ、まぁ、やれと言われればやりますが」と言った雰囲気で出かけて行った。

 対して俺はというと、古い木剣を手に取り庭に出る。

 そして、昨日、積んでおいてもらった薪用の丸太の上に、年輪が自分こちらを向くように置いて準備完了とする。


エンチャント風ソヴェラト


 風魔法を付与すると、木剣の周りに薄い風の膜が出来上がった。

 エンチャント魔法はまだ先に覚えるという話だったのだが、思い上がったりわがままを言わなかった俺に気をよくしたマーグレイ先生が手本として見せてくれたのだ。

 危険なため真剣で行うことを禁止しただけで、木剣であればエンチャント魔法を使うことを許してくれたので、こんな風に試してみることができた。


「すごい。確かに風で覆われている……」


 主人公たちのモーションではあるが、何度も確認したエンチャント風ソヴェラトが自分の手で起こせるなんて感慨深いものがある。


「これを構えて――ハッ!」


 木剣を突き出すとガンッ! と力強い音を出し、狙った丸太は二つに割れた。

 それと同時にエンチャント魔法が無くなり、ただの木剣へと戻ってしまった。


「凄いぞ。先生が見せてくれたエンチャント風ソヴェラトはもっとすごかったけど、自分でも使える!」


ケイオスは元々モブなので詳しい説明はないのだが、総合的な判断をすると器用貧乏なきらいがある。

 主人公も器用貧乏の為、魔法を苦手としてマジック・アカデミアに来るのだが、さすが主人公と言うべきか、最終的には全属性を器用に操るようになって卒業している。


 つまり、自分も何かの属性に特化するより主人公のように、器用貧乏を克服できればモブ死が防げるかもしれない。

 なーんて、それは机上の空論。分かっている。


 モブの器用貧乏が主人公と同じ努力をしたところで、器用貧乏が解消される可能性は皆無だと言っても良い。

 だから、さっき頼んだ買い物へとつながるのだ。


 さらにさらに考えた結果、俺の明るい未来計画の一助として、来年のマジック・アカデミア入学まで器用貧乏に磨きをかけ主人公にお近づきになり、共に成長していく親友へと進化するのだ。

 モブのままでは悪役として死んでしまうけど、親友ポジならどうだ?

 未来は明るくないかい?



 使用人たちに止められても構わず、エンチャント風ソヴェラトを付与した木剣で薪割りをしていたら、午前中に買い物をお願いしていたメイドのナハルが帰ってきた。


「言われた通り買ってきましたが、本当に全く知識無く買ってきたので、あとで怒ったりしないでくださいよ」

「大丈夫、分かってるよ。それより、口の端に食べカスついてるぞ」

「えぇっ!?」


 持たせたお金で残った分は好きに使っていいと言いつけておいたけど、ナハルは食べ歩きに使ったようだ。

 受け取った袋の中身を確認すると、いかにも怪しそうな古本が数冊入っていた。


『ナハルの買い物スキルのお手並み拝見といこうか――』


 心の中でニッコリとほほ笑んだ。




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