第12話 ぬぁ!


授業になったというのに蛍が戻って来ない。

俺は「?」を浮かべてから先生に「すいません。腹が痛いので」と言ってサボった。

それから俺は直ぐに蛍を探し手に教室を後にした。

そして保健室前を通り過ぎ...教員に見つからない様に彷徨う。

すると女子トイレから「うぐ」とまるで苦しむ様な声が聞こえた。


今の状況に似つかわしくない声だった。

俺は「女子トイレか...」と一瞬ためらったが中に入る。

正直...入るとか不審者だけど。

だけど今の声を見過ごせない...。


「...蛍!?」


そして中に入るとそこにボコボコにされた蛍が歪んだ顔で居り水をぶっ被っていた。

俺は「オイ!どうした!」と跪く。

「オイ馬鹿か。香。ここは...女子トイレだぞ」と言ってくるが。

そんな事を言っている場合では無い。

水被った挙句にボコボコになっているクラスメイトを見過ごせない。


「お前どうしたんだ蛍。何があった」

「...ちょっと絡まれてな。...嫌な奴らに」

「...」

「...へましたよ。...すまない」

「すまないじゃないぞ。...何で俺を連れて行かない」

「...お前を巻き添えにしたくなかったんだよ」


蛍はそう言いながらゆっくり立ち上がる。

何が起こっているのだ。

そう思いながらも蛍が苦痛の様な顔をしているので「オイ。とにかく保健室に行くぞ」と肩を持った。

蛍は「オイ!お前まで濡れてしまう!」と言う。

俺は「馬鹿かお前は」と怒る。


「...お前の様な女子を見過ごせない」

「香。もう止めてくれ。私は良いんだよ。...光の内側にはもう戻れないから」

「だったら俺が戻してやる」

「...え?」


その言葉に蛍は「?!」となる。

俺は「お前がどんな奴であろうとも。...一生懸命な反省している奴に悪い奴は居ない。だから俺はお前を救う」と言いながら濡れた体で冷たく感じながらも蛍を抱得ながら歩く。

それから保健室に向かった。



「...着替えたか」

「ああ。...まあな」


カーテンの向こう側で蛍が着替えてから出て来る。

残念ながら代わりの制服が無いので体操服を着ている。

タオルとかはあったのだが。

先生が居ない。

借りものだが...ぶかぶかしている。


「...何だよ。こっち見るなよ」

「いや。...すまん」

「私を見たってどうしようもねぇだろ」

「...まあそうなのかも知れねぇけどな」

「ったく。スケベが」


そう言いながら蛍は俺を赤くなって見てくる。

俺はその姿に心臓がバクバクした。

それから蛍は椅子に腰掛ける。

そして俺を見た。


「お前は過保護すぎる」

「...過保護じゃないぞ。...当たり前の事をしている」

「いや。過保護だ。...そもそも私みたいな屑に構っている時点で相当凄い過保護だわ」

「...まあそれは良いけど。何があったんだよ」

「...殴られた。...親父の事で散々脅されて殴られてな」

「親父さんの事はお前はどうしようもないだろ。...殴って正解だぞ」


「それ以外にもある」と蛍は言う。

俺は「?」を浮かべながら蛍を見た。

「...お前の事だ」と言ってくる。

その顔を見ながら「!?」となった。


「...お前と一緒なのがおかしいって言って脅されたんだよ。「何でアンタみたいなのが幸せそうなの?」ってな」

「クソ野郎だな。...で?そいつらは今何処だ」

「3年生だ。...香。もう良いんだ。...私はこんな人間だしな。お前まで巻き添えになる」

「...何が良いのか分からん」


俺は怒りながら蛍を見る。

そして俺は立ち上がる。

座っている蛍を見下ろした。

「ったく。お前という奴はな」と言いながら、だ。

蛍は「...私は幸せになったらダメなんだよ。きっと」と言いながら自嘲する。


「...だったら俺がお前を幸せにする」

「だったら俺がお前を幸せにする?そりゃどういう意味だ」

「...そうだな。俺と付き合え」

「...は?...ふぁ?」


蛍は意味が分からず「?」を浮かべていたが。

段々と真っ赤になっていった。

俺は「俺はお前を大切にする」と恥ずかしい感じで告げる。

正直。

これに気が付くのに相当時間がかかった。

コイツと一緒なのが心地良いんだわ。


「な、にを?!」

「俺は...言わせてもらう。...愛なんて知らない。だけどお前と一緒に居て心地良いって思えた。これがきっと愛なんだってな」

「...香...」

「...だけどお前からの返事は今直ぐには要らない。俺を好きなんて思わないしな。...だけど...」


するといきなり蛍が立ち上がった。

タオルが落ちる。

真っ直ぐな瞳に俺は「...な、何だよ。馬鹿にするのか」と言う。

するとすっと俺に手が伸びた。

それから俺の頬に手が伸びてからそのまま唇同士でキスをされた。


「...!!!!?」

「何でお前は先に言うんだ。...私だってお前が大好きなんだよ。世界で一番な」

「...え?」

「私はお前が好きだって言ってんだよ!!!!!」

「...えぇ!!!!?」


俺は唖然としながら蛍を見る。

まさか両思いなのか!?

そう思いつつ蛍を見てみる。

すると蛍は「わ、私は...お前の事、以前から好きだった」と言う。


「...だけど私は言っただろ。光の道に戻れないって。...お前な。いい加減にしろ」

「...蛍?」

「我慢が出来なくなる」

「...!」


蛍は胸に手を添えて涙を流す。

それから泣き始めた。

私はお前が好きだから我慢していたのに。

そう言いながら。

俺はその顔にを持ち上げる。


「...!」


そしてキスを交わした。

俺達はそのまま暫くジッとしてから。

そのまま離れた。

蛍は「...すまねぇけど今は付き合えない」と話す。


「...今の私にケリつけるまではな」

「...ああ。そうだな」

「すまないけど。...本当にすまないけど。...香。私を...助けてくれ」

「...」


「ああ」と返事をしながら俺は蛍を見る。

そして蛍を抱き締めた。

それから頭を優しく撫でてやった。

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