第10話 観察

クソ親父を殴り飛ばした。

私は我慢が出来ず...という感じで、だ。

それから私達は一旦、叔母さんの家に引き取られた。

暴力行為だが幸いにも警察沙汰にはならなかった。


だがそうは言っても。

私は人を殴ってしまった。

馬鹿だなぁ、と思う。

やっぱり私は。


光の道に戻れない。


「...」


私は翌日になって学校に来る。

するとクラスメイトの女子達が私の元にやって来た。

私は威嚇する様にその女子を見る。

だが女子達はごくりと唾を飲みこみ見合って聞いてくる。


「...その。...横瑞くんと仲が良いよね。垂水さん」

「仲が?...まあ確かに良いけどさ。何だよ」

「その。私、中原って言うんだけど手紙を渡してほしいの。横瑞くんに」

「...は?」


その言葉に「そんなの自分で...」と言うが女子達はそのまま話を進めてしまった。

「私が渡すの恥ずかしくて」と言いながら、だ。

それから私に対して「宜しく...!」と言ってくる。

呆れてしまった。


「...クソ。何で私が」


そんな事を言っていると香が登校して来た。

「?、何かあったか?」と聞いてくる香。

私は「何もねぇよ」と後頭部に腕を回しながら否定する。

それから私は手渡された手紙を見ながら胸に手を添えてしまう。


取られる。


その気持ちがどうしても拭えなかったが。

真面目にやりたいから私は中原の手紙を香に手渡した。

すると中原の手紙を受け取った香は「これ?中原さんからか?」と聞いてくる。

私は頷いてから返事をした。


「そうだ」

「...そうか。...そうか」

「何だよその態度」

「...俺は誰とも付き合わないからな」

「...ああ。そういう意味でか」


そして中原さんの手紙を読んでから溜息を吐く香。

私はその姿を見ながら「...」となってモジモジしてみる。

今日は実は私は史上初...何だが。

ハンバーグのお弁当を作ったのだ。

コイツに食わせたい思いで、だ。


「...どうした?蛍」

「...うるせぇな。...ちょっと色々あんだよ」

「そうかよ」

「...良かったな。手紙とか」

「中原さんの気持ちは精一杯受け取ったけどな」

「...」


イライラする。

だって私が此処に居るのに。

何だって天使の様な少女から告白されるんだ。


ふざけるな。

中原だって可愛いけど。

此処に居るだろ。


そう思いながら私はイライラしながらガムを噛む。

それから「ったく」と吐き捨てた。

そして私は後ろに倒れる。

クソ忌々しい。

マジに。


「...なあ」

「な、何だ。どうした。香」

「お前さ。...嫉妬しているのか?」

「はぁ!!!!?んな訳あるか!!!!!」

「だって反応がおかしいぞさっきから」

「ねぇよ!誰がお前なんぞ!」


言いながら私は怒る。

だが身体はマジに...香しか見えない。

忌々しい。

全てが忌々しい。


こんな野郎が...こうして。

いや。

それは私の事だけど。

好きになっちゃ駄目だってのにな。

最低だよ私。


「中原には返事をするのか」

「するに決まっているだろ。それが礼儀だ」

「...そうか」

「...だけどお前の想像している通りにはならないから安心しな」

「...そうかよ。どうでも良いよ。お前が付き合おうが付き合わないとか」

「嘘吐くな。...お前何だか気になるんだろ」


「気にならないっての」と言いながら私はガムを噛んでから捨てる。

それからホームルームを迎える。

そして頬を叩いてから授業に集中する。

でその中休み。

何故か香が担任に呼び出されていた。



私は「何の呼び出しだ」と思いソワソワする。

そして香。

アイツの帰りを待つ。

すると中原がやって来た。


「渡してくれて有難う」

「...あ?ああ」

「...私1人じゃ不安だったから」

「なあ。お前は...アイツが好きなのか」

「...うん。好き」

「...っ」


ドクンドクンと心臓が痛む。

私は首を振ってから「そうかよ」と答えた。

すると中原は「?」を浮かべていた。


手紙。

捨てれば良かった、と。

そう思ってしまう私は悪女だなマジに。


「...なあ。お前はどういう所でアイツが好きになったんだ」

「私...そうだね。私は...彼の優しさだよ」

「...ああそう」

「垂水にも無いかなそういうの?」

「...まあ確かに優しいもんな」


そして私は沈黙する。

横瑞は...この子が好きなのかな。

私みたいなのには目もくれないのだろうか。

それは何だか寂しいもんだ。


「...垂水?」

「なんでもねぇ。すまない」

「...そう?」

「ああ。...私の事は気にすんな」


正直...私は光の道は歩けない。

もう二度と。

全てを壊してしまった。

だからこそアイツには幸せに...、とそう思っていると香が戻って来た。

それから私を見てくる。


「蛍」

「...な、何だよ」

「...俺はお前の観察を任された」

「何だ観察って」

「つまりお前の見守りだ」


その言葉に「!?」となってから香を見る私。

すると中原が「...2人...名前で呼び合っているの?」と衝撃を受けた。

その言葉に私は慌てて「い、いや。そういう関係じゃない」と言う。

香は顔を中原に向ける。


「中原さん。...俺は...すまない。今は誰とも付き合う気は無い」

「...うん。だろうね」

「...すまないが」

「...ねえ。横瑞くん」

「...?」


「今ここで言ってほしいけど...垂水が好きなの?」と聞いてくる。

その言葉に私はバッという感じで咄嗟に香を見る。

香は「誰が好きとかはない」と答えた。

「だけど」とも。


「...俺は好きな人は居ないけど。だけど俺は蛍を守る仕事が有るから」

「お前...香...」

「...そっか。分かった。じゃあ何も言わない」


それから中原は「諦めるね」と切り出した。

その大きな勇気はとても...あれなのかもしれないけど。

私はその姿を見ながら去って行く中原の背中を見る。

そして香に向いた。


「ははっ。一世一代のチャンスを無駄にしてしまったな」

「...お前はアホなのか?折角...」

「無駄とは思ってない。...そもそも俺はお前を守るという仕事が出来た」

「...私なんか見守っても意味無いんだが」

「担任も一応は考えているって事だろ」


そう言いながら私に肩をすくめる。

私は「...」となりながら香を見る。

クソッタレだな本当に。


いや。


そのクソッタレは私に向けてだけど。

クソ。

優しすぎるから。

だから。

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