第7話 恋の自覚


私は優秀になりたかった。

だけど人を殺した。

殺したっていうのは別の不良集団が泳げない後輩を橋桁から突き落としてそれを救えなかった。

だから私が殺したのも同義だ。

私はもう光の道は歩けない。


だがそれでもアイツは。

横瑞は私に手を差し伸べる。

実を言うと最初は横瑞がマジに疎ましかった。

だけど時間が経つにつれて私は。


「...横瑞」

「ああ。何だ?」

「私はアンタを信頼している」

「...ああ」


私は涙を浮かべる。

それから情けなく横瑞に縋った。

そして「私は殺人を犯した暴力的な不良。こんな私でも光の道をまた歩けるのか?」と聞く。

すると横瑞は「お前は歩けるよ」と相変わらず励ます様に言ってくる。

だから忌々しくそして...。


「俺はお前を今は大切なクラスメイトと思っている。だからこそ歩ける。お前は陽の当たる場所をまた歩ける」

「...何でお前はそんなに優しいんだよ。本当によ。全く...」

「垂水。俺は優しいんじゃない」


そう横瑞は言う。

私は顔を上げてから横瑞を見る。

横瑞は「もう二度と失いたくないから。それだけで動いているだけだ」と言う。

私はその言葉に「...横瑞?」と聞く。


「...俺は母親と喧嘩した」

「ああ」

「もう二度と仲直りは出来ない」

「待て。それはどういう意味だ」

「その日、母親は車に轢かれた。そして大切な愛犬も失った」


そんな言葉に私は言葉を失う。

それから「そんな事があったんだな」と言う。

すると横瑞は「...俺はもう失いたくないんだ」とまた説明した。

私は横瑞を見つめる。


「そんな過去がお前にあったなんてな」

「苦しんでいるのはお前だけじゃない」

「...」


私は言葉に詰まってから。

「...そこから始まったんだな。お前の原点は」と話す。

横瑞は「ああ」と言った。

私達は駅前を抜けてから住宅街に来る。


すると横瑞が「なあ」と言ってきた。

私は「?」となり横瑞を見る。

横瑞は「これから暇か」と言ってくる。

その言葉に私は「まあ一応、暇は暇だけど何だよ」と言ってから横瑞を見る。


「なら家に来ないか」

「は、はぁ!?お前の家!?何でだよ!」

「お前を紹介したい。妹とかにな」

「...私の事を紹介するのは有難いけど...でも」

「俺はお前は良い奴だって思う。だからこそお前を紹介したいんだ」


私は困惑する。

それから「私が?」という感じで横瑞を見る。

横瑞は「嫌か?」と言ってくる。

私は「嫌じゃない、が」と言ってから否定しながら横瑞を見る。


「...むしろ行きたいんだけどよ。だけど...本当に良いのかな。私が行っても」

「大丈夫だ。だから来い」


横瑞はそう返答する。

私は「そうか...お前がそう言うなら」と笑顔になった。

それから私は横瑞の家に向かう。

そして家の中に案内してもらうと。

そこに女子が居た。


「おにい...え!?だ、誰!?」

「律。この人は俺のクラスメイトの垂水蛍だ」

「は、初めま?...して」

「マジ!?お兄ちゃんの新しい彼女!?」

「ちげーわ。全く。落ち着け」


横瑞は呆れ顔になる。

私は少しだけ赤面しながら居ると横瑞の妹に顔を覗かれていた。

私は「!?」となる。


「へー!前の彼女よりダントツで良いじゃん。お兄ちゃん」

「ああ。彼女は優しいし生真面目だしな」

「んな訳...私は金髪に無駄にイヤリングも着けているんだぞ」

「だがお前は根っから真面目だ」


私は衝撃を受ける。

それから2人を見た。

なんだってそんな。

私は...そんなん言われたのは。


「ねぇねぇ。蛍さん」

「な、何だよ」

「格好良いね!」

「私は不良だぞ。そんな訳...」


すると律は「不良だから?」と言ってくる。

私は「ただの不良だ」と言う。

律は私の髪の毛に触れた。

「まあそれより金髪より黒髪が似合うけどなぁ」と律は言う。


「ね?お兄ちゃん」

「あ?あ、ああ」


私はそんな事を考えた事が無かった。

横の横瑞に聞く。

「お、お前も黒髪が見たいのか」と。

すると横瑞は「コイツのカンは大体当たる」と言ってから私を見る。


「お前が黒髪になったら似合うと思う」

「...そうかよ」


すると目の前に居た律がピーンと何かを察してからニヤニヤと笑い始めた。

それから私の手を握る。

私は「お、オイ!」と慌てるが律は構わず「お兄ちゃんは来ちゃダメだから」と言いつつ私を自室?に連れ込む。


「さてと。ではでは。女の子の会話をしましょうか」

「オイ。何だよ...!?」

「もしかして蛍さんってお兄ちゃんが好き?」

「はぁ!あ?!んな、訳、あるか!?」


まさかの言葉に赤面が止まらない。

耳まで真っ赤に染まっていく。

感覚で分かる。

私が私で無くなる感覚。


「ん、んな訳あるか!私は...」

「私ね。感覚だけど蛍さんならお兄ちゃんを任せれる」

「...!」

「前の彼女の件でお兄ちゃんは酷く傷付いたから。だから私はお兄ちゃんには幸せになってほしい」


真剣な顔になる律。

それから眉を顰めながら私を見る。

私はその顔に「...」となってから律を見た。

「非道な目に遭っているのは知ってる」と答えながら窓から外を見る。


「正直。私はアイツは昔は死のうが生きるまいがどうだって良かった」

「...」

「だけどさ。今としては守りたいし...泣いてほしくない。ただ笑ってほしい」

「...」

「私は多分、アイツが恋として好きだ」


そう耳まで真っ赤にしながら応える。

すると律は「有難う御座います。お兄ちゃんを好きになってくれて」と笑みを浮かべた。


そうか。

私は...好きなんだなアイツが。

言葉に出すまでそんな感覚ですら無かったけど、だ。

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