第6話 「この人殺しが」


この場所は懐かしい場所だ。

どういう風に懐かしいかというと。

母親がよく連れて来てくれたのである。

だからこそこの図書館に来ているのかもしれないけど。

いつも口癖の様に言っていた母親の言葉を思い出す。


『香。ここは貴方の将来に役に立つから』


その様な言葉を、だ。

俺はその言葉を幼い頃から聞いており。

母親が死んだ時に葬式の後にこの図書館に来てから面影を探した。

それぐらい...母親とこの場所には良く来ていた。

だけど全て壊された。


「横瑞」

「...!...ああ。すまん。どうした」

「どうしたんだお前。ボーッとして」

「...いや。すまない。考え事だ」


言いながら俺は勉強に集中を戻す。

すると垂水が「なあ」と聞いてきた。

俺は「どうした」と聞く。

それから「私に構う事でお前は不利益を被ってないか?」と話す。


「...不利益?」

「私なんかに構う事でお前の立場が悪くなるんじゃないかって言っている」

「...何度も言うけどお前はクラスメイトだ。それは無い」

「...」


垂水は赤面しながら「そうか」と返事をする。

そんな垂水が借りた本。

その中に料理本が挟まっていた。

何だこれ?


「お前...何で料理本?」

「...妹に作るんだよ...い、妹にな」

「成程な。お姉ちゃんの面しているじゃないか。しっかり」

「...」

「...何だよ」

「...お前にも作ってやろうか」

「あ?俺は良いよ。お前自身が忙しいだろ」

「...」


何でそこで悲しげな顔をする。

ますます意味が分からん。

そう思いながら俺は「分かったよ。...ニンジンの和え物でも作ってくれよ」と話す。

すると垂水は目を輝かせた。


「...よ、喜んで」

「全く意味が分からん」


そして俺達はまた勉強をしていると「なあ」とまた聞いてきた。

何だよ集中出来ねぇだろ。

そう思いながら垂水を見る。

滅茶苦茶近くに顔がある。


「...何をしている...公共の場で!」

「あ?...勉強。分からんから教えてもらいたい」

「そ、そうか...」

「...何だお前。キスをお前にするって思ったか私が」

「...」

「...お、思ったの?」

「...うるせぇ」


垂水は真っ赤になる。

言った本人が何でそんなに真っ赤になる。

そう思いながら数式を教えた。

それから「解いてみろ」と言う。


「...なあ」

「もう聞かないぞ。何だよ」

「いや。聞いているじゃねーか。お前さ。...マジにスケベ?」

「...お前な。図書館では静かにな」

「都合の悪い事を消滅させんな。で。どうなんだ。...というか」

「というか、何だ」

「...私は...」

「...?」


「私は、ち、小さいけど。お前...気になるか」と言ってくる。

何がだよ。

そう思いながら見る。

胸元を持ち上げる垂水...うぉ!?何をしている!!!!!


「おっぱいだよ!!!!!」

「な!?大きな声を出すな!!!!?」


それからというもの。

俺達は首元を思いっきり締め上げられた。

誰にかといえば千葉さんだ。

キレて絞められた。

怖い。



2時間ぐらい滞在した後に俺達は外に出る。

千葉さんに挨拶をしてから。

そして俺は横の垂水を見てみる。

垂水は汗を若干かいており。

胸辺りが湿っていた。


「どうする?この後...何処見てんだよお前」

「な、んでもない。...お前が余計な事を言うから」

「私の下着の色は」

「水玉...あ」

「スケベ」


誘導尋問に引っ掛かった。

このクソ野郎。

そう思いながら日差しを見てから「んじゃまあ解散するか」と言う。

それから垂水を見る。

垂水は厳しめの目で目の前を見ていた。


「...その女、誰だ」


背後を見る。

そこに居たのは...佐渡だった。

佐渡が俺を見ている。

そして「...その女...もしかして新しい彼女?」と言ってくる。

悲しげな顔で、だ。



「佐渡。何だ今度は」

「その女...もしかして香の新しい彼女?」

「...横瑞。元カノか」

「...そうだな」


そして俺は困惑しながら佐渡を見る。

佐渡は「私は貴方を愛している。まだ」と話す。

俺は「お前馬鹿か。...で?何が言いたい」と聞いてみる。

すると佐渡は「まさかそんな不良の子を彼女に?私の方が良いでしょ」と訳が分からない事を言い始めた。


「...何が言いたい」

「...私は彼氏は何人も居る。だけどみんな愛している。そうなるとさ。...私が貴方を愛しても良いよね」

「ここは日本だ。...そんな恋愛をしたいならどっか行ったらどうだ。他所の国に」

「いや。日本でもそういうのアリだと思う」


「無しだ馬鹿野郎が」

それを言ったのは俺じゃない。

佐渡に言い放ったのは垂水だった。

激高している様な感じを見せている。

俺は「...」となりながら垂水を見る。


「馬鹿野郎かお前は?カス以下だな。メルヘンも良い加減にしろ。そんな気持ち悪いもんこの日本で通用するって思うか?」

「アンタみたいなカスに言われたくないよ。...貴方の事、知ってるよ?」

「...」

「貴方、元不良リーダーのストロベリー・ナイトの頭でしょ。...ヘッドっていうのかな。そんな貴方が日の当たる場所を歩けるとでも?人殺し」

「...」


垂水は押し黙る。

そして佐渡は「貴方は後輩を見捨てたよね。...川で溺れていた自らの後輩を。見捨てたでしょ?捕まらないの?人殺しが」と言い放つ。

あまりの剣幕に垂水は「...」となって悲しげな顔になっていた。

佐渡は更に言い放つ。


「貴方は不良。こっちには戻って来れない。...日の当たる場所を歩けない。...貴方なんかが偉そうにしないで」

「...」


俺は何時の間にか。

佐渡に平手打ちしていた。

その様子に垂水が驚愕する。

「コイツの過去がマジにどうあれ。お前はこの場では言い過ぎだ」と俺は怒る。

それから「お前の様なゴミ屑とは関係を断つ」と言った。


「...いやいや。ねえ。ちょっと待って。何でそうまでして垂水蛍を救うの?」

「お前は言い過ぎだって言ってんだろ。...お前の様なカス野郎と縁を持った事を恨みたい」

「...横瑞...」


そして歩き出す俺。

垂水の手を握ってから歩き出した。

視線を感じたが俺は無視してそのまま歩く。

すると垂水が「良かったのか」と聞いてきた。


「私は...彼女の言った通り。...人を殺した。...それでも私を...」

「それはお前が殺したんじゃない。お前は川に飛び込んだ。溺れていた彼女を救いきれなかった。ただそれだけ。...お前が自らを責める意味が分からん」

「...」


垂水がすすり泣く声がする。

俺はその彼女の顔を見ないまま歩く。

そして暫くして彼女の腕を解放してから垂水を見る。

垂水は俺を見てから俯いた。

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