第2話 蛍の怒り


私の名前は垂水蛍。

こんなクソみたいな容姿をしているがかつては天才とか言われていた。

だけど私はこっちの道を選んだ。

だってそうだろ。

逃げたいもんがあったからその代償は払わなきゃならない。

こうなるよな?


「...」


そんな私だけど。

横の横瑞香という男が気になる。

いや別に恋とかじゃない。

だけど気にはなるのだ。

横瑞はずっと私に構ってくるからそういう意味でウザいと思っている。


その気に掛ける気持ちがどれだけ有難いのか知らない男だ。


私は心底ウザく思いながら横瑞を見る。

そして横瑞と視線があった。

私はバッと翻してから授業を受ける。

ったくクソ野郎が。



「オイ。垂水」

「...な、何だよ」

「何か買いに行かないか」

「はぁ?何で私まで誘うんだよ」

「お前が何か飲みたそうな面しているから」


「は、はあ?」と思いながらも横瑞の言葉の指示に従った。

確かに喉は乾いていた。

それから立ち上がる。

すると横瑞は「今日はお前に奢りたいんだ」と話した。

「は?」とますます訳が分からない感じで言う。


「...お前が問題を解けたお祝いだな」

「はぁ!?そ、そんなもん嬉しくねぇし!」

「...まあそう言うな」

「お、お前本当に教師みたいだな!気が狂う」


そして私は横瑞と一緒に教室を出る。

それから横の横瑞を見る。

横瑞は静かに歩く。

その顔に「なあ」と聞いてみる。


「ああ。どうした」

「...私なんかにそんな事で構わなくて良いから。...お前の身が心配だ。さっきの事は私がお前に聞きたかったから...」

「俺がそうしたいからな」

「...?」


横瑞はそう言いながら私を見る。

それから「お前が素直に問題を解いてくれたのが嬉しかったんだ。それに俺はお前を見張る事を教師達に約束されているしな。だったら問題無い」と笑みを浮かべる。

その顔に酷くドキッとした。

それから急速に顔が赤くなる。


「...横瑞。私は...不良だ。だから...」

「俺はどうでも良いと思っているよ。そんなの」

「...」


コイツ確か彼女が居る筈だ。

なのにこんなに女子に構うなんて良いのか。

そう思いながら横瑞に聞いてみる。

「お前。彼女の前で私の事を暴露すんなよ」という感じで茶化す様に。

すると横瑞は「ああ。それな。浮気された」と答え...は?


「...待て。浮気されたってのは」

「...言葉通りの意味だな。彼女に浮気されたっつーか。寝取られた」

「...!!!!!」


私はカァッと身体が熱くなる。

これはさっきの感情では無く...酷い怒りの感情だった。

激高とも言えるかもしれないが。

そう思いながら私は身震いを起こす。

どういう事だ。


「...まあ所詮俺はそれだけの男だったって事だろ」

「...待て。そんなんで終わらせるな。...何だよそれ」

「いや。何でお前が怒っているんだ?」

「...私は許せないぞ。...そんなの」

「いや。許せないって言ってもな。仕方が無いだろ」


苛立ちながら私は横瑞を見る。

横瑞は「...気持ちは分かる。お前の怒りは」とも。

私は「...こんな優しい奴を...」と言ってから壁を思いっきり殴る。

ザリザリしている壁だったので皮膚が剥がれてから出血した。

横瑞は驚きながら私を見る。


「...私はアンタの優しさを知っている」

「...垂水...」

「だから尚の事許せない」

「...俺も復讐は考えたけど。柄でも無いかなって思ったから」

「...だけど私は」


「垂水。本当にお前の怒りの気持ちは分かる。だけど怒りに任せても仕方が無い。屑は屑だから」と横瑞は言う。

そして横瑞は絆創膏をポケットから出してから私の拳に貼った。

私はその様子を見ながら「本当の本当に復讐しないのか」と言う。


「...犯罪だ。復讐っていうのは。それに俺はこの場所に居る仲間達を裏切りたくないしな。...何よりもお前を失いたくない」

「それとこれとは話が別だろ!お前の私怨と私は別だろ!」

「...落ち着け。垂水」


横瑞はいきなり私の手を握ってくる。

それから「有難う。俺なんかの為に怒ってくれて」と言いながら微笑んだ。

私はその様子を見てから「...別に」と小さく言ってそっぽを向く。

そして横瑞は私の手を見てから「こんなに華奢な手だ。...お前の手が折れてしまうから壁なんか殴るな。息を吹きかけたら折れちまうぐらいだぞ」と言葉を発した。


「...分かった」


私は恥じらいながら横瑞を見る。

そして横瑞はゆっくり私から手を離した。

「行くか。時間ねぇし」と言いながら、だ。

その言葉に私は「...ああ」と返事をしてから歩き出した。

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