22 〈魔女狩り〉のカン と 〈スクルド〉との連携

「破壊?」

「狙撃って──」


 思わず口走るユークリッドとティマ。


 クオは気絶しているごろつきから素早く通信機器を取り出す。


『逃亡する者は即時始末する』


 有無を言わさぬ命令の直後、通信は切れた。


「!」


 クオは小さく目を見開く。


(この声は……)


 数日前、着ぐるみ越しでクオはその声を耳にしていた。


 文化祭準備で、初めて着ぐるみを着た日。

 勘違いで下着姿のまま着ぐるみを纏ったクオが、逃亡したとき遭遇した──


 ウルラス学園校務員の男だ。


 あの男が実は〝新興集団〟に、学園の破壊に関わっていた……?


 いったい、今何が始まろうとしているのか──




 クオは耳にした通信内容を素早く反芻する。


 ──軍警察の足止めに集中。

 ──一時間後に標的の学園を破壊。

 ──狙撃までの時間を──


「……学園の破壊……狙撃、と言っていました──」


「ヤバ。ミサイルでも撃ち込む気?」


「テロリストみたく学園に乗り込むんじゃなく、遠距離からの攻撃ってことすか?」


「その可能性が高いです」


 クオは頷く。


 声の主の言葉通りに学園を破壊できる破壊力となればミサイルクラスの火力だ。

 意図も目的も不明だが、拾える情報から推し測れる点もある。


「おそらく──この近辺から学園を狙撃するかと」


「マジ⁉」


「あいつらもそこまでは言ってなかったすよ」


「あ、お二人が助けてくださった直前に、そこの人が言ってたんです」


 クオは二人が倒してくれた四人組の男たちを指し示した。


「『このエリアに足を踏み入れたやつは誰だろうと殺せ──そういう命令だ』と。

 学生相手でも殺そうとしたことを考えると、この辺りは重要な地点のはず、です」


 クオはふと頭上に目を留めると、素早く身をひるがえした。


「うぉわっ⁉」「え、なんすか⁉」


 驚く二人を足元に、クオは路地に隣接する建物の左右の壁を交互に蹴り上げ、あっという間に屋根の上へ。


 開けた視界には、町の屋根と、周囲で高さの異なる建物とが折り重なっている。


 風のなか、クオは周囲を見回した。


「──っと、思ったより高さあるじゃん」

「ここから学園までは距離あるんすね」


 クオを追ってきたユークリッドとティマも、周りに目をやる。


 ──この地点から学園を狙撃するとしたら。


「……あの建物、です」


 クオは迷いなく、前方にそびえる建物を指差した。


 周辺に比べ高さがあり、そこから直線状に学園を狙い定められる。

 まさしく狙撃にうってつけのポイントだ。


 赤煉瓦造りの七階建て一棟建築。


 クオは記憶した地図情報から町の東部にそびえる建物名を思い出す。


 クォーズウェイ・ハウス。


 ……そういえば。


 だいぶ前、通りすがりに男の人からあの建物までの道を尋ねられたことがあった。




 一時間後に学園を破壊──


 耳にした情報は断片的で確証は乏しい。


 だがクオは迷わなかった。


 物騒な声音、躊躇のなさ、具体的な指示──どれも無視できるものではない。


 屋根を蹴り、駆け出す。

 屋根瓦を滑るように疾走し、数メートルある建物間も軽々と跳び越える。


 あっという間に赤煉瓦前に着くと、隣の建物の陰から正面玄関の様子を窺った。


「──っと、クオ先輩はやいってマジで!」

「急に走り出さないでほしいんすけど──」


「あ、すっ、すみませんっ」


 追いついて来たユークリッドとティマに、クオは頭を下げる。


 無言で勝手にひとり行動を開始してしまっていた。


 単独行動が長すぎて、連携というものが難しい。


「あ、わたし今からあの建物を探り、戦力を確認次第制圧します、けど、学園を狙っているとされる兵器や狙撃の実行犯がいるかどうかは確証がないので、自分の行動にお二人を巻き込むわけには──」


「だーっ! もごもご何いってんのもう!」


 言葉がまとめられずにいると、ユークリッドに強い声で遮られた。


「ひえ」とクオは涙目になる。


「こらユークリッド。オレらの先輩すよ」


 どこか気怠けだるさ漂うティマの声が、やんわりと横から差し込まれた。


「巻き込むっていうか……オレらに協力させてくれないすか、クオ先輩」


「きょ、きょうりょく?」


「もともとオレらはリーダーと『学園守るため』って理由でパトロールしてたんすから」


「で……っ、ですが、ほんとにあの、わたしの『なんとなく』なので」


「もう何言ってんのクオ先輩!

〈魔女狩り(ウチら)〉はその『なんとなく』って感覚こそが武器じゃん!」


「…………あ……」


 ユークリッドの断言に、クオは目を瞬かせる。


 戦場を生き抜くための直感を大事にする──〝万能の黒血こっけつ〟を持つ超常の存在たる魔女を相手にしてきたからこそ、独自に磨き上げた「カン」こそ〈魔女狩り〉の武器なのだ。


「そう、でした」


〈魔女狩り〉のユークリッドとティマ。


 二人だからこそ、クオのカンを信じてくれている。


 クオはあらためて二人に向き直った。


「あ、ではその、建物に学園破壊の戦力があると思われます、ので、お二人どうか力を貸してくださいっ」


 ぺこっと頭を下げると、二人は同時に口元をニッとさせた。


「りょーかいっ。あらためてだけどウチのことはユークリッドでいいから」


「ティマす。よろしくすー」


「あ、はい……ゆ、ユークリッドと、ティマ、ですね……どうぞ、なにとぞ……」


 二人の名前をあらためて口に馴染ませつつ。


 クオは〈魔女狩り〉の少女たちとともに赤煉瓦の建物へと向かった。

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