虞翻になりたい

虞翻と聞いて、誰だよ、となる人が多いと思う。光栄の三國志ゲームをやっている人は揚州にいる知力高い人という印象だろうか。三国志を読むのが好きな人はレスバクソジジイという印象だろう。

呉書十二によると虞翻字仲翔は會稽郡餘姚の人である。太守王朗によって功曹となる。王朗が孫策に攻められた時に、父の喪中であっても外に出て王朗にあって戦わずして逃げるように助言する。王朗は戦って負けるのだが、これに随伴して護衛し東部候官へと逃がした。後に母の為に會稽に帰り、孫策に招聘されて彼に仕えるようになる。この頃は義理堅い人だという感じだ、まぁ年を経てもその辺りは変わらず真っ直ぐさに磨きがかかるんやがなブヘヘヘ。

裴松之が引く呉書によると、その後孫策に従って三郡を平定したとのこと。またこのとき江表傳によると華歆を説得し降伏させたとのこと。経歴の初めから降伏の説得が上手かったようだ。その後、暫く孫策の許を離れて富春県の長官をしていた。茂才に推挙されて魏武おじさんに招聘されたが断り、孫策の死後、継いだ孫権に従った。彼は易に通じ、孔融に注釈書を送り、これが高く評価された。

そしてここから面白エピソードが始まる。孫権とはあまり折り合いがよくなかった、彼の直言連発して他人と慣れ合わないところが嫌だったらしく、孫権が騎都尉になったころに虞翻は丹楊涇県に左遷される。翻數犯顏諫爭、權不能恱、又性不協俗、多見謗毀の文字列を見ると笑いそうになる。

呂蒙は医術に通じた虞翻を関羽攻めに連れて行きたいと思い、孫権にとりなして随伴させた。ここでも彼は士仁と糜芳を説得して立て続けに降伏させて関羽を敗死に追い込んだ。その後は降伏者いびりに勤しむようになる。

関羽の捕虜であった于禁が孫権と馬を並べていたことに対して「降虜のくせに我が君と馬を並べるな(爾降虜何敢與吾君齊馬首乎!)」と詰り鞭で打とうとして止められ、また宴席で音楽を聴いて涙する于禁を「自身の情けなさを恥じるように泣いている振りをしてなに許されようとしとんねん(汝欲以偽求免邪?)」と貶し、孫権の不興を買った。

糜芳もいびった。糜芳の船を避けようとしなかった虞翻に対して付き人が「将軍の船を避けろ」と言ったところ、虞翻は「忠と信を失い、人と二城を傾けておいて何が将軍やねん(失忠與信何以事君?傾人二城而稱將軍、可乎?)」と罵る、君が降伏の説得したんだよね?また、虞翻が車に乗って移動しているときに糜芳は自分の陣の門を閉めた、これに対して「開けるべきときに反って閉め、閉めるべきときに反って開ける。事の正邪が分からんようだな。(當閉反開、當開反閉、豈得事宜邪?)」と煽った、虞翻は呉にとって開けるべき時に門を開けるように唆した側なんだよなぁ。

考えてみると彼は、王朗の件で最後まで義理を果たしているわけで(功曹に取り立ててもらった恩義を返すために喪を破ってまで王朗に忠告し、それに従わず敗戦した王朗に彼が逃げ延びるまで随伴した)、于禁と糜芳の二人は気に食わなかったのだろう。

そのほかにも孫権のアルハラを酔った振りしてスルーしたあとに他の人とは仲良く話し出すみたいなことをして孫権に殺されそうになるなどしていたが、あるとき孫権と張昭が神仙の話をしているとこに出くわし「死すべき者が神仙の事を語っている、仙人なんているわけないだろ(彼皆死人而語神仙、世豈有仙人也!)」とレスバを吹っかけたところ無事交州(今のベトナム北部)に流されることとなる。

罪人として放逐されたわけだが、彼のもとに学生が多く集ったという(雖處罪放而講學不倦門徒常數百人)。また易だけでなく老子、論語、国語に註釈を記しどれも広く世に広まったという。南にいること十幾年、彼は死ぬ、七十だったという。私も世に阿らず好きなことを言い、田舎に左遷され、そこで学問に励んで過ごしたいものである。


ちなみに裴松之のひく呉書にある「僕聞虎魄不取腐芥」という彼の言葉がとても好きである、いつも心に刻んでいたい。日本語の辞書を見ると、清廉な人間は不正に手を付けない、ことを意味するとしているが違う。

虞翻は少年の時から学問を好み高気が有ったという。十二の時、虞翻の兄に会いに来た客がいた。しかし、少年の虞翻には面会しなかった。そのことに対して「琥珀は腐芥を取らず、磁石は曲がった針を引き寄せない(僕聞虎魄不取腐芥磁石不受曲鍼)」と厭味を言った。大人は小人を引き付けない、という意味にとるのが正しいだろう。清廉な人間は不正をするような人間を寄せ付けないというような俗っぽい意味ではないだろう。自身のパートナーに愚痴を言う人をみるとこの言葉を思い出す。ちなみに漢検の過去問に「コハクは腐芥を取らず」というのがあるらしい。作成者によると琥珀が正解らしいが、原典を思うと虎魄が正しいだろう。

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