その5 地獄到着

「…おい。」

「う〜ん、あと5分…。」

「何寝ぼけてんだ、お!き!ろ!」

 頬を軽く叩かれた。しかも3回!

「ん〜なに?!」

「ついたぞ。」

 頬を叩いていたのは山田さんのようだ。けど、いつもと髪の色と服が違う…?普段は真っ黒なのに今は、赤い髪にところどころ黒が入っている。メッシュっていうのかな…?服もさっきまで制服だったのに、キラキラした飾りがついた、赤い長袖とズボンになっていて、黒くて大きいマントをつけている。

 段々意識がはっきりしてきた。そうだ、私は入学式のあと、山田さんを探して、実は地獄から来たってことが本当で、ここは…地獄?!

「えっうそ!もうついたの!?」

「ああ。ほら、いつまで寝てるんだ。さっさと起きろ。」

 山田さんが手を差し伸べる。

「おかしいな…寝た覚えはないんだけど。」

 その手をとって、私は立ち上がった。

「というか、山田さんの服、どうしたの?」

「ああ、これな。こっちの俺は一応、『王』だからな。制服ではいられないんだよ。」

「そうなんだ。色々大変なんだね。」

「まあな。ほら、俺の服なんかより、初めてのこの世界を、もっと見ておくべきじゃないか?」

 誘導された私は前へ歩いた。ここは高台の崖にあって、地獄の世界を一望することができた。

「うわぁ…すごい!きれい!」

 広がっていたのは、私の想像と違い、血の池や針の山はない、まるで、おとぎ話に出てきそうな街の姿だった。

 正方形をした壁に囲まれた街の中心には、立派なお城、というより要塞のような大きな四角い建物が建っている。でも、住んでいた世界ではまず見ることのできない景色だった。

 まず空が赤い。血のような赤色だ。要塞や街は、来る人を跳ね返すような冷たい黒色レンガでできている。木の色も違い、私の住む世界よりも青が強い緑色をしていた。

山田さんが自慢げに言った。

「ようこそ、『コキノクロビ』へ。歓迎するぜ。」

「…なんか、全然違うね。元の世界と。それに、コキノクロビ?って何?」

「この世界の名前だ。お前らビレクロビ、つまり元の世界の人間に分かりやすく言うために地獄と言ってきたが、正式名称はこっちだ。

 ちなみにこっちの世界の住人のことをコキノクラトメノ、ビレクロビの住人のことはビレクラトメノと呼ばれている。」

「えっ、えっ?ちょっと長くて難しいよ…。覚えられるかな。」

 私が落ち込むと、山田さんが励ましてくれた。

「焦らなくても大丈夫だ。こういう聞き馴染みのない言葉は、これから嫌でも耳にするからな。」

 山田さんはニコッとした。その顔は、これから難しい言葉がどんどんでてくるぞ、とも言っていた。

「もう既に嫌だな…。」

 聞き馴染みのない言葉ってあとどのくらいあるんだろう。早くも不安になってきた。

「それより、どうだコキノクロビは。お前の想像とは大分違うだろ?」

 ため息をついた私を見かねて、山田さんが話題を変えるように言った。

「うん。もっと、血の池とか針の山とか、悪いことした人たちもいると思ってた。」

「…いや、いるぞ。」

 山田さんは少し考えてから答えた。

「えっ悪い人たちいるの!?なんか急に怖くなってきた…。」

「そんなに怖がらなくても大丈夫さ。そこも含めて、こいつが起きたら話す。」

 山田さんはチラリと少し離れたところを見た。そちらを向いてみると、誰か倒れている。いや、寝ている…?

「桃瀬1号だ。あいつ、ここに来てからもう大分立っているのに全く起きない。」

 山田さんは長いこと格闘したのだろう。顔に疲れが広がっている。

「紗穂ちゃんは1度寝ると中々起きないからね…。っていうか、どうして私たち寝ていたの?」

「それは、お前らがまだ転移に慣れていなくて、人体の防衛本能が機能して眠ったんだ。今後も何回かあると思うぞ。」

「そうなんだ…残念だな。その、転移だっけ?する瞬間見てみたかったな。せっかくの初転移だったのに、眩しかったし、眠っちゃったし、あんまりよく覚えてないんだよね。」

 私が言うと、山田さんはぎこちない笑みを浮かべた。

「ほら、俺じゃ払いのけられるだけだから、桃瀬1号を起こしてやってくれ。」

「わかった。」

 私は紗穂ちゃんのところに向かった。歩いていると、なんだかフワフワする。月みたいに重力が違ったりするのかな?

「お〜い。紗穂ちゃん!起、き、て!」

 さすがに私は頬を叩かなかったが、りょう肩をつかんで少し前後に揺らした。

 …つもりだったが、紗穂ちゃんはありえない力で地面に叩きつけられた!!

「えっ嘘?!紗穂ちゃん!!?ごめん、大丈夫?!」

「痛ててて…あれ?なんであたし、地面にめりこんでるの?」

 なんと、あれだけ強い力で叩きつけたのに、紗穂ちゃんは少し頭に痛みを感じるくらいでケガすらしていないみたいだ。

「おいおい、大丈夫か!?」

 山田さんがあわてて駆けつけてきた。

「うっかりしてた…お前に説明するのを忘れてた。桃瀬1号は大丈夫だ。気にするな。」

「っておい!気にしろよ!!」

 紗穂ちゃんが飛び起きた。地面には人の形をした跡がついている。服についた土を払いながら紗穂ちゃんは立ち上がった。

「大体、誰のせいかは知らないけど、これだけ地面がへっこむくらいの力を受けたんだから、ケガの1つや2つある…はず…  

ない!?えっどうして!?」

 紗穂ちゃんがクルクル回って体にキズがないか確認するが、どこにもそんなものはない。一体どうして?

「丁度いい。お前らに説明するときがきた。よく聞けよ。」

 紗穂ちゃんと2人で固唾をのんで山田さんに注目する。

「実は…今日ここにお前らを呼んだ理由。それは、お前らにこの世界を救うのを手伝ってほしいからだ。」

「「え〜〜!?!?」」

 今日何度目かの大声が出た。

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隣の山田さん!? とくさ @Tokusa88

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