第13話

「真実なんて、メアリーちゃん。言葉にした途端に手をすり抜けて行くものですよ。口にしたら敗けだ」


「敗けって……何を相手に戦いをしているの? あなた」

「それもまた口にしてはいけないものですよ」


「……わからないわ」


「考えずに発言をしていますからね。あなたも考えない方がいい。そうそう、兄とはあの夜に別れたきりですよ。どうなさっておいでなのかな。恋に輝き、あるいは窶れ。あなたの感想をうかがおう。どちらが優勢ですか、メアリーちゃん」


「……それは」


 メアリーアンは言い淀んだ。思わしくない方に傾いているのであろうことは、すでに知られた事実だった。あぁ、と、ジェラルドはここに来て気付く。


 つい先ほどまで、メアリーアンはジェイムズと一緒だったのではないかと。

 事態はほんの少し前と言って良いほどのフレッシュさで動いたところなのではなかろうか。


「私たち……お兄様と私はお話をしました。この、今の……このことについて」


 そしてその討議の結果。メアリーアンは雨に濡れそぼり、街をさ迷っていたとつながる。あの寒さも冷たさももはや遠い過去のことに思えており、ジェラルドはぼんやりとしか思い出せない。

 マイナスのことはさっさと忘れる主義なので。


「それで――」


 言葉を探している。視線がさ迷う。これほど躊躇うメアリーアンの姿を、ジェラルドは未だ知らなかった。いつもの彼女は即断即決。彼への敵意を大元に、攻撃を繰り出してくる。


 知りたいものではなかった、のだと感じている。


「お兄様は、……爵位などは惜しいものではないと言ったの。けれど、あなたのおっしゃる通り、家族のことを思うと迷う、とも」


「ジェイムズらしい。真っ当にして堅い意見だ」


 素直な感想が、口からこぼれた。

 ジェイムズらしい。まったく。義務を背負った、ジェイムズらしい。


「だから、だからね、あなたから背を押されたら、動きやすいのではないかしら。あなたが大丈夫だって、家のことは心配いらないって言ってあげたら。きっと二人は幸せになれるわ。アニーもそれを気にして、いなくなってしまったの。だから、その問題が解決したら、きっと……」


 きっと?


 再び言葉に詰まるメアリーアンを、ジェラルドは見返した。珍しい事態が次々に起きている。メアリーアンは今度は自分にすがっているらしい。今までどれほど些細なことに対しても拒絶を貫いてきたというのに、だ。


 なんという展開。歓迎すべき状況。ここで手を差しのべることができたなら、今日は記念すべき日となるのかもしれない。生涯振り返るべき特別となるのかも、しれない。


 しかし。カーストンの放蕩息子は首を振った。ジェラルドはどうしたって放蕩息子であるのだ。

 横に。否定の方向に。


「残念だ。メアリーちゃん」


 本当に。


「なにを差して、そうおっしゃっているの?」

「それは無理なことですよ」


「なぜ?」

「なぜって?」

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