誘拐3
「ハーマン、ステイシーは!?」
薬屋カヴァナーに戻って来たハーマンを見て、セオドアが言う。ハーマンは、苦しげな顔をしてゆるゆると首を振った。
「手掛かりになりそうな事は聞けませんでした……」
「そうか……」
セオドアも聞き込みをしたが成果が得られず、薬局に戻って来たばかりだった。
「……あの子、どこにいるんだろうねえ……」
マージョリーが溜息を吐いて呟いたその時、店のドアのベルが軽やかに鳴った。入って来たのは、銀行員のエイベル氏。彼は、店に入るなり言った。
「こんにちは。……あれ、ステイシーはいないのかい?」
「……それが、あの子、昨日の夕方からいなくなってしまって……」
マージョリーが答えると、エイベル氏は目を丸くする。
「え?昨日ステイシーを見た時は変わりなさそうだったのに……!」
エイベル氏の言葉に、セオドアが即座に反応した。
「昨日のいつステイシーを見たんですか?」
「あ、ああ……昨日の夕方、大通りを歩いている所を見たよ。リンゴを落として狭い路地に入っていったみたいだけど……」
その言葉を聞いて、セオドアとハーマンは目を見合わせた。
「……まあ、それで収入が少なくなってしまったんですね」
ステイシーが言うと、ビリーが頷いた。
「ああ。安価な商品が大量に流入するようになった理由は、最近王家が近隣諸国との貿易を活発に行っているからだ。……それ自体は悪い事じゃないが、それで国内の商品が売れなくなるのは困る。ただでさえ去年の不作が原因で収入が減っているのに」
ビリー達は、新たな顧客を獲得する為にサービスを充実させたり、コスト削減に取り組んだりしたが成果が上がらず、マーティンの薬を買うのにも苦労しているらしい。
「それで城を襲おうと……」
「ああ。何とか王家に、貿易の在り方を考えてもらいたくて、城を襲う事にしたんだ」
ビリーは、目を伏せながら答えた。
「……襲撃をやめろと言う気はありません」
ステイシーの言葉に、ビリーは目を見開いた。ステイシーは、彼の目を見つめながら続けて言った。
「でも、実行に移すのはもう少し待って頂けませんか?私は、王家の方と懇意にさせて頂いています。関税を含めて貿易について考えて頂けるようお願いしてみますので、襲撃は本当に最後の手段にして下さい。お願いします」
そう言って、ステイシーは縛られたまま頭をぴょこんと下げた。ビリーは、じっとステイシーを見つめた後、呟いた。
「……待てるのは、どんなに長くても半年だ」
その言葉を聞き、ステイシーはぱあっと顔を輝かせた。
「ありがとうございます!!」
「……礼を言うなんて、おかしな女だな」
そう言って、ビリーはフッと笑った。
「……ごほっ……!!」
マーティンが、また咳をした。咳は、なかなか治まらない。
「おい、大丈夫か!?」
ロニーがマーティンの背中をさする。
「……苦しっ……」
マーティンが、苦悶の表情を浮かべる。
「あの、ここはどこなんですか?私を攫った場所の近くなら、マーティンさんを治療院に運んで下さい。モーガン先生は腕の良い医師なんです!」
ステイシーが叫ぶと、ビリーが唇を噛み締めて言った。
「……治療院の場所がわからねえ。ここは俺達の商売の拠点じゃねえんだ」
「なら、私が案内します!」
「……お前が憲兵の所に駆け込む可能性もあるが……そんな事言ってる場合じゃないな。おい、ロニー、この子を縛ってるロープを解いてやれ」
「わかった!!」
ロニーがステイシーに近付き、ロープを解く。
「ありがとうございます、では行きましょう!!」
ステイシーはそう言って立ち上がった。ビリーがマーティンの肩を抱えてドアに向かおうとした時、勢い良くドアが開いた。
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