マージョリーの思い出2
朝食が終わり、ステイシー、アーロン、マージョリーがリビングで話していると、玄関のドアが叩かれる音がして、数分するとメイドがリビングにやって来た。
「あの……ステイシーお嬢様。カヴァナー先生とお話したいとおっしゃる方がいらしているのですが、お通ししてもよろしいでしょうか」
「あら……どなたかしら」
嫌がらせがオールストン家に及ぶのを恐れて、薬局を閉めた今ステイシー達がどこにいるかは、ごく一部の人間にしか知らせていない。しかし、ステイシーは仕事でフルネームを名乗っているので、オールストン家の人間だと気付く者がいても不思議ではない。
「ロードリック・エイミス様とおっしゃっておりましたが……」
エイミス氏が何の用だろう。ステイシーは訝しく思いながらも言った。
「お通しして頂戴」
リビングに入ると、エイミスは笑顔で言った。
「『薬屋カヴァナー』の皆様、お久しぶりです」
「お久しぶりです、エイミスさん。どうぞお掛け下さい」
ステイシーに促されエイミスがソファに腰掛けると、早速マージョリーが口を開いた。
「久しぶりだね、エイミスさん。それで、今日は一体何の用だい?」
お茶を一口飲んだエイミスは、悲しそうに眉尻を下げた。
「カヴァナーさんの噂のせいで、薬局を閉めたそうですね。同業者として、残念でなりません」
「……お気遣いどうも」
「収入が無くなると生活も大変でしょう。……それで、私から一つ提案があるのですが」
「提案?」
マージョリーが首を傾げると、エイミスは口角を上げて言った。
「『薬屋カヴァナー』の経営権を私に譲って頂けませんか?」
「経営権を?」
マージョリーは、目を見開いた。
「はい。経営権をこちらに譲って頂けると、莫大な利益を得られると考えております。その代わり、あなた方を高給でエイミスファーマシーが雇う事をお約束いたします……いかがでしょうか?」
マージョリーは、顎に手を当てて考え込んだ。そして顔を上げると、眉根を寄せながら答えた。
「……少し考えさせてくれないか。あの薬局には愛着があるからね」
「わかりました。でも、そんなに長くは待てませんよ。長くて一週間です」
「……それまでには結論を出しておくよ」
エイミスが帰った後、ステイシーは不安そうに言った。
「先生、まさか薬局をエイミスファーマシーに明け渡すなんて事しないですよね?私、先生の事もあの薬局も大好きなんです!薬局を存続させる道を探しましょう」
「そうですよ。もうあの薬局は俺にとっても大切な居場所なんです。嫌がらせの件を解決できるように頑張りましょう!」
アーロンも力強く言った。二人の顔を見て、マージョリーは穏やかな顔で微笑んだ。
「……二人共、ありがとう」
その日の夜、マージョリーは客室で寝ていたが、ふと目が覚めた。屋敷の中を好きなように使って良いとステイシーが言っていたので、リビングに置いたままの新聞を読み返そうと思いリビングに入ろうとすると、かすかに明かりが見える。
そっとリビングを覗くと、ステイシーが薬局の制服にアイロンをかけていた。
「……そういうのはメイドに任せないのかい?」
マージョリーが声を掛けると、ステイシーは一瞬驚いた顔をした後、笑って言った。
「はい。ついメイドを頼ってしまう事もありますが、私は一応平民なので。……それに、この制服は自分で手入れしたいんです。……初めてこの制服を貰った時、私、本当に嬉しかったので」
マージョリーは、フッと笑った。
「あんたは相変わらずだね……自分で言うのもなんだけど、あんな小さな薬局のどこが良いんだか」
そう言いながらマージョリーは、九年前の事を思い出していた。
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