マージョリーの思い出1

「まあまあ、あなたがカヴァナー先生……いつもステイシーがお世話になっております」


 応接室に入ると、ミシェルがニコニコして言った。




 ここはオールストン邸。あれからステイシー達三人はすぐにオールストン家を訪れた。急な訪問だったにも関わらず、ミシェルはステイシー達三人を住まわせる事を快諾した。


「主人も、ステイシーの師匠に会ってみたいと常々申しておりました。夜には主人も帰って来ると思いますので、是非話し相手になってやって下さい」


 ミシェルの言葉を聞いて、マージョリーは恐縮した様子だ。


「こちらこそ、ご息女には助けられてばかりです。……それなのに、今回はこのような事になってしまい、申し訳ございません」




 ステイシー達全員がソファに座り落ち着いた所で、メイドがお茶を運んできた。お茶を飲みながら、ステイシー達は一連の嫌がらせの経緯やマージョリーの過去についてミシェルに話した。


 話し終わると、ミシェルは穏やかな笑顔で言った。


「大変でしたね。……でも、カヴァナー先生は患者さんに真摯に向き合う方とお見受けします。名誉が回復されると良いのですが」


「……ありがとうございます」


 マージョリーも、穏やかな顔で礼を言った。




 その夜、クレイグが帰宅すると、食卓でマージョリーとクレイグは医療業界の話で盛り上がった。実は、クレイグは医療業界に関わっているクロウ商会と懇意にしていて、現在の医療技術について知識があるのだ。


「あの、お父様。もしかしてお父様は、セレスト・リンドバーグ会長とお知り合いだったりします?」


 ステイシーが聞くと、クレイグは頷いた。


「ああ、そうだ。聡明で商才のある方だな。……もしかして、お前もリンドバーグ会長と知り合いなのか?」


「ええ、実は……」


 ステイシーは、クロウ商会に一包化の機械の開発を相談している事を告げた。


「そうなのか。世間は狭いな。今度会長に会ったら、お前が世話になっている礼を言わないと」


「お願いします」


 この偶然に、ステイシーは少し嬉しくなった。




 翌朝、目覚めたステイシーが食堂に入ると、マージョリーが既に起きていて新聞を読んでいた。


「おはようございます、先生。昨日はよく眠れましたか?」


 聞かれたマージョリーは、顔を上げると微笑んだ。


「ああ、よく眠れたよ。ありがとう」


 ステイシーがチラリと新聞を見ると、『薬屋カヴァナー』の醜聞が書かれているのが目に入って顔が曇る。


「……心配しなさんな。少なくともあんたの働く場所は、私が何とかする」


 マージョリーは、微笑んで言った。

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