飲めない理由2
「……そんな事があったんですね……」
話を聞いたステイシーはそう言うと、顎に右手の指を添えて考え込んだ。何かアドバイスをしてあげたいが、飲み忘れの原因がなんなのか分からないと何も出来ない。
「それで、ステイシーに頼みがあるんだ。今度またお茶会をする予定があるんだけど、それに参加してくれないかな?」
「え……お茶会ですか?」
平民落ちした自分が参加していいのだろうか。もし参加して良くても、ブレットやアニタが参加するのなら気が進まない。
「メンバーは、僕と君と母上とオリバー夫人。僕の友人として参加して、さりげなく飲み忘れの原因を探って欲しい」
「ああ……それなら参加させて頂きます」
「あの、俺も参加出来ないでしょうか。いくらお嬢様が元公爵令嬢でも、今は平民です。貴族のお茶会の中に平民一人が乗り込むのは心配です」
「乗り込むって……まあ、でも、アーロンの席も用意しておくよ。当日はよろしく」
そして、お茶会の詳しい日程を話した後、セオドアは薬局を後にした。
そしてお茶会当日の朝。会場に行く前に、ステイシーはアーロンと共にオールストン家の屋敷にいた。玄関から中に入ると、バタバタと足音がして、二人の人物が姿を現した。ステイシーの両親である。
「ああ、ステイシー、元気そうで良かった!」
母親のミシェルがステイシーをギュッと抱き締めた。
「仕事を頑張っているようでなによりだが、無理はするなよ」
父親のクレイグもステイシーの頭を撫でた。
「ありがとう、お母様、お父様……!!」
ステイシーは、満面の笑みでミシェルの背中に腕を回した。その様子を、アーロンは穏やかな笑顔で見つめていた。
その後ステイシーは以前の自分の部屋に入り、クローゼットを開けた。今日この屋敷に帰って来たのは、お茶会に着ていくドレスを見繕う為である。平民落ちしたものの、既に持っている私物を没収されなかったのは僥倖だ。
クローゼットにしまってあるドレスを見ながら、ステイシーは考えた。……セオドアは、どんなタイプのドレスが好みだろう。
ハッとして、頭を横に振る。浮かれてはいけない。今日はお茶会で薬の飲み忘れの原因を探るのだ。そもそも、どんなドレスを着たって、セオドアが自分に振り向いてくれるわけがない。
そして、ステイシーは一着のドレスを選んだ。
しばらくすると、セオドアがステイシーを迎えにオールストン家にやって来た。元からセオドアが迎えに来る予定だったが、使用人から来訪を告げられたステイシーは慌てて玄関に向かった。
「お待たせしました、セオドア殿下!」
玄関に現れたステイシーを見て、セオドアは優しく微笑んだ。
「待ってないよ。……平民の姿も可愛いけど、ドレス姿も美しいね」
「あ……ありがとうございます」
ステイシーは、顔を赤くして応える。お世辞でも嬉しい。
「お二人共、そろそろ馬車に乗り込みましょう」
二人を不機嫌そうな顔で見ていたアーロンが声を掛けると、ステイシーは「そうね」と言って手で顔を仰いだ。
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