子供への薬の飲ませ方3
そんな話をしていると、急に大きな泣き声が聞こえた。
「ふえええんっ、ふぎゃああっ……!!」
赤ちゃんの泣き声のようだ。見ると、三十代くらいの女性が赤ちゃんをあやしている。女性の側には、五~六歳くらいの少年もいる。
「ああ、もう、泣き止んで頂戴……」
女性が困ったように言う。そして、彼女は側にあるテーブルに置いてある粉薬らしきものを手に取った。そして、側にあるカップにその粉を入れようとする。
「ちょっと待ったあああ!!」
嫌な予感がしたステイシーは、大声を上げた。女性がビクッと体を震わせる。女性の元に走り寄ったステイシーが問い掛けた。
「あの、もしかして、薬をミルクに溶かしてこの子に飲ませようとしてます?」
「……え、ええ……この子も病に罹ってるみたいだから……」
女性は、戸惑いながらも答えてくれた。
「ミルクに薬を混ぜて飲ませたりしたら、赤ちゃんがミルクを不味いものと認識して、今後ミルクを嫌がってしまうかもしれませんよ」
「え、そうなんですか?……じゃあ、どうすればいいんですか?」
「少量の水と薬を混ぜて練って、それを赤ちゃんの口内の頬の内側か上顎の部分に塗り付けます。その後で水を飲ませて下さい。舌の先には塗らないようにして下さい。苦みを感じやすいので」
他にも、薬をアイスクリームに包み込むようにして飲ませるといった方法もある。前世では、服薬を補助するゼリーも販売されていたが。
「そうなのね……随分お詳しいんですね。お医者さんですか?」
「いえ、薬剤師です」
「そうですか……あ、もう一つ相談してもいいですか?」
「何でしょう?」
女性は、側にいた五~六歳くらいの少年の頭を撫でながら言った。
「この子にも薬を飲ませたいんですけど、ジュースと一緒に飲ませてもいいですか?この薬なんですけど……」
女性は、テーブルにある先程とは違う粉薬を手に取り、ステイシーに見せた。
「あー、この薬も抗生物質ですね。先程の薬と成分は違いますけど。この薬は……酸味のあるジュースと混ぜると、苦みが増して飲みにくくなってしまうと思います。この子が飲むのを嫌がるなら、やっぱり少量の水で練るか、酸味の無いアイスクリームに混ぜるのが良いでしょうね」
「わかりました。ありがとうございます、助かりました」
女性が、優しい笑顔で礼を言った。
女性が少年を連れてその場を去ると、その背中を見送りながらセオドアが言った。
「凄いね、ステイシーは。薬の飲ませ方まで教える事が出来るんだね」
「薬を渡すだけが薬剤師の仕事じゃないですから」
ステイシーが笑った。その笑顔を見て、セオドアは呟いた。
「君は、本当に……」
「え?」
「……何でもない」
そう言って、セオドアは歩き始めた。
数日後、薬局にはまたスタッフ三人とセオドアが集まっていた。
「流行り病も終息しつつあるようで良かったね」
セオドアが、カウンター越しににっこり笑って言う。
「そうですね、健康が一番です。後は一包化の機械の開発が進めばいいのですが……」
ステイシーが、少し目を伏せて呟いた。
その時、店の入り口のドアが開いた。
「ステイシー・オールストンさん?お手紙です」
そう言って、郵便配達員が手紙をステイシーに手渡す。「ありがとうございます」とステイシーが言うと、配達員はすぐにその場を後にした。
「あ、またリンドバーグ会長から手紙……」
そう言いながら封を開けて中身を確認したステイシーは、目を見開いた。
翌日の昼、ステイシーはまたクロウ商会を訪れていた。応接室でセレストと二人きりになったステイシーは、早速口を開いた。
「あの、魔法石の採掘が進んで、しかも採掘している会社がクロウ商会に優先的に魔法石を卸して下さるという話は本当ですか?」
「ああ、これでうちが業務提携している工場で一包化の機械の開発が出来る。採掘している会社が民営で良かったよ」
話を聞くと、先日鉱山に行った時に薬の飲ませ方をアドバイスした女性は、採掘現場のリーダーの奥さんだったらしい。奥さんはステイシーに大変感謝しており、夫にも「薬屋カヴァナーの薬剤師」が薬についてアドバイスしてくれたと話していたようだ。
それでクロウ商会から魔法石を卸して欲しいという話が出た時、使い道が薬屋カヴァナーに依頼された機械の開発だと聞き、優先的に卸してくれる事になったらしい。
「そうだったんですか、あの奥さんが……」
「ああ。それで、機械の開発が進みそうだから、機械の構造や機能についてもっと詳しく君と話し合いたくてね」
「分かりました。まず、どこからお話すればいいですか?」
「この図面を見て欲しいんだが、薬を一錠ずつ落として包むとすると……」
セレストが、図面を取り出して説明を始めた。ステイシーは、心を躍らせながら長い時間セレストと話し合った。
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