子供への薬の飲ませ方2
鉱山にある山小屋の側まで来ると、慌ただしく人々が出入りするのが見えた。鉱夫ではなく、医療従事者のようだ。その中には、見知った顔もある。
「モーガン先生!」
ステイシーが呼びかけた。振り返ったのは、白い口髭、顎髭を生やした高齢男性。眼鏡の奥から、茶色い瞳が覗いている。
「ん?ステイシーにマージョリーじゃないか。君達も来ていたのか」
眼鏡の位置を手で直しながらそう言った男性こそ、『薬屋カヴァナー』の近くで治療院を経営するグレン・モーガンである。
モーガン医師は、アーロンとも顔見知りになっていたので軽く挨拶をし、その後セオドアの方に目を向けた。
「……もしかして、セオドア殿下でいらっしゃいますか?ご挨拶が遅れて申し訳ございません。治療院を経営しております、グレン・モーガンと申します」
「セオドア・ウィンベリーです。よろしくお願い致します」
二人は固く握手をした。モーガン医師は敬語こそ使っているが、特にセオドアに媚び諂う雰囲気も無く、ステイシーはモーガン先生らしいなと思った。
「モーガン先生も感染症の対処にいらしたんですか?」
ステイシーが聞くと、モーガン医師は頷いた。
「ああ、結構な人数が発症しているみたいでな。ボランティアで治療に来たんだよ」
「私達に手伝える事があればおっしゃって下さい」
「じゃあ、患者に抗生物質を配るのを手伝ってくれ」
ステイシーが薬局で働くようになって驚いた事の一つが、この世界では既に抗生物質が開発されていた事だ。医療についての考え方は古いままだが、実際に抗生物質が処方されているのを見て感心したものだ。
「分かりました。手分けして薬を患者さんに渡しましょう」
ステイシーは、そう言って早速準備に取り掛かった。小屋の側には、簡易的ではあるが水道が整備されているので、そこでよく手を洗う。ふと側にいるアーロンを見ると、腕まくりした彼の左腕に大きなほくろがあるのが分かった。アーロンとは三年の付き合いになるが、知らない事も多いなと思いながら、ステイシーは準備を進めた。
医療従事者が感染しては元も子もないので、ハンカチを簡単に結んだようなマスクと使い捨ての手袋を着けて患者の元に向かう。
小屋の中には、具合が悪そうにしている鉱夫が大勢、床に敷いたシーツの上で横になっていた。ステイシーとセオドア、マージョリーとアーロンの二組に分かれて患者に薬を渡して回った。
「抗生物質は、決められた日数を最後まで飲み切って下さいね。他に飲んでいる薬はありませんか?」
ステイシーが、そう言って鉱夫に確認しながら薬を渡し、また別の鉱夫に薬を渡しに行く。
「はい、ステイシー、新しい手袋」
「ありがとうございます、殿下。手伝って頂き、なんだか申し訳ないです」
「いいんだよ。さっきも言っただろう?これも僕の仕事だ」
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