子供への薬の飲ませ方1
ある日の朝、ステイシーはクロウ商会の応接室にいた。会長のセレスト・リンドバーグから呼び出されたのだ。
しばらく一人で待っていると、部屋のドアがノックされ、セレストが入って来た。
「待たせて済まないね、オールストンさん」
「いえ、一包化の機械の事でお世話になっているので、気にしないで下さい」
ステイシーがそう言うと、セレストは少し浮かない顔をしてソファに腰掛けた。
「……その一包化の機械の事だが、少し暗礁に乗り上げていてな」
「え、どういう事ですか?」
セレストの話によると、一包化の機械を作動させるのに魔法石を利用するつもりなのだが、その魔法石が手に入りにくいらしい。魔法石を採掘している鉱山のような場所で、感染症が流行していて、労働力が不足しているというのだ。
「そうなんですか……魔法石が手に入れられないのも困りますが、病が流行しているのは心配ですね……」
「そうだな……まあ、そういうわけで一包化の機械を稼働できるのはかなり遅れるかもしれない。申し訳ないね」
「いえ、仕方ない事ですので……むしろ、そんな事になっても一包化の機械の開発に携わって頂いて、感謝しています」
ステイシーは、笑顔でセレストに言った。
「……そうかい、一包化の機械の開発、遅れそうなのかい」
薬局に戻って、ステイシーがクロウ商会で聞いた話を伝えると、マージョリーは少し目を伏せながらそう言った。
「はい……アシュトンさんの場合は、一日一回の薬を開発する事で飲み忘れはほぼ無くなったみたいですが、やはり一包化の機械は必要だと思うので、少し残念です……」
ステイシーもしゅんとしながら応えた。
「しかし、感染症が流行しているというのは気になるね。こちらは医師ではないが、鉱山に行って薬物治療の手伝いくらいはしたいねえ……」
「そうですね……あの、明日は薬局の定休日なので、私、鉱山に行ってみてもいいでしょうか?」
「ああ、それがいいね。私も一緒に行くよ」
「あ、俺も行きます」
側で聞いていたアーロンも口を開いた。
「じゃあ、明日三人で鉱山に行きましょう」
ステイシーは、そう言った後、いつものように仕事を始めた。
「……で、どうしてセオドア殿下がここにいるんです?」
翌朝、アーロンは死んだ魚のような目をして呟いた。今、鉱山にはステイシー達薬局のスタッフの他に、セオドアがいる。
「昨日の午後、君達が鉱山に行くって聞いて、急いでスケジュールの調整をしたんだ」
「公務がお忙しいでしょうに……」
「国の公衆衛生に関わるのも、第一王子の勤めだよ」
セオドアは、にっこりと笑って言った。
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