薬の開発1
「アーロン、似合ってるわよ」
「ありがとうございます、お嬢様」
白いシャツに紺色のベストを着たアーロンが笑顔で言う。ポリー先生の件から二週間後、アーロンは本当にオールストン家の仕事を辞め、『薬屋カヴァナー』で働き始めた。見習い用の制服に身を包み、アーロンは本当に嬉しそうだ。
「今日から、よろしくお願い致します!」
「よろしくね、アーロン」
ステイシーもマージョリーも、優しい笑顔でアーロンを見つめた。
その日の昼、アーロンに薬局の仕事を教えながらステイシーが働いていると、店のドアのベルが鳴った。
「こんにちは、ステイシー」
「こんにちは、アシュトンさん!」
以前から薬局を利用しているアシュトン夫妻が店内に足を踏み入れた。
「カヴァナーさんと……あら、新人もいるのね」
奥さんのルビーが、ニコニコしながら言う。
「見習いのアーロン・ヒューズです。よろしくお願い致します!」
「あらあら、元気ね。よろしく」
ルビーがそう言うと、旦那さんのコーディも小さな声で「よろしく」と言った。
「それで、今回も処方箋をお持ちになったんですか?」
「それが……相談があってね」
ステイシーの言葉に、ルビーは困ったような顔をして答えた。
「ほら、あなた」
ルビーに促され、コーディが紙袋をステイシーに渡した。
「これは……?」
「中身を見てみて」
ステイシーが紙袋の中身をカウンターの上に出してみると、それは数種類の薬の瓶だった。瓶の半分くらいの量の錠剤が入っている。その瓶のラベルに書かれた日付を見て、ステイシーは目を見開いた。
「これ、一ケ月前にこちらで渡した薬じゃないですか。もうそろそろ無くなってもおかしくない頃なのに、どうしてこんなに残ってるんですか!?」
「……済まない。どうしても、飲み忘れてしまうんだ」
コーディが、申し訳なさそうに言う。聞けば、コーディはもうすぐ七十歳になるが、現役で時計職人として働いているらしい。仕事に夢中になると、食事の時間がずれ込む事があり、その結果薬も飲み忘れてしまうのだと言う。
「食後の薬を飲み忘れないように食卓にメモを貼っても、そもそも食卓につく時間がずれるから意味が無いし、道具がごちゃごちゃ置いてある仕事場に薬やメモを持って行っても目に入らないし、困ってるんだ……」
「ああ……」
ステイシーは、飲み忘れる理由に納得しながらも焦りを感じていた。このまま薬の飲み忘れが続けば、健康に影響が出る可能性がある。何とかして薬を飲めるようにしてあげたい。
「何か良い方法が無いか考えてみます……」
「そう……よろしくね」
そして、アシュトン夫妻は薬局を後にした。
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