相互作用3

 ポリーは、立ち上がるとデスクの中から今飲んでいる薬の瓶を取り出し、ステイシーに見せた。瓶の中には、赤い錠剤が詰まっている。薬の名前を見て、ステイシーは言った。


「もしかしたら、動悸の原因はウィンベリーフルーツと薬の飲み合わせが悪いせいかもしれません」


「飲み合わせが?確かに、食後ウィンベリーフルーツを乗せたお茶で薬を飲む事があるけど……飲み合わせが悪いんですか?」


「ええ、薬は、体内で色々な酵素により代謝されるのですが、ウィンベリーフルーツにはその酵素の働きを抑えてしまう成分が含まれているんです。なので、いつまで経っても薬の成分が体内に留まり、副作用が現れやすくなるんです」


「そうだったの……知らなかったわ」


 ポリーは、驚いた顔でテーブルの上にあるティーカップを見つめていた。


「まだ原因が決まったわけでは無いですが、しばらくはウィンベリーフルーツを食べたりジュースにして飲むのを控えて様子を見てはどうでしょう?」


「ええ、そうしてみるわ」


 ポリーは、微笑んで応えた。




 それから数日後の昼、またアーロンが薬局を訪ねてきた。


「お嬢様、ポリー先生ですが、薬を飲んでも動悸がしなくなったそうです。ありがとうございました!」


「そう、お元気そうで良かったわ」


 ステイシーは、笑顔で言った。そんなステイシーを黙って見つめていたアーロンが、少し言いにくそうにしながら口を開く。


「あの……お嬢様、カヴァナー先生、お願いがあるのですが……」


「何?」


 アーロンは少し間を置いた後、意を決したようにして切り出した。


「俺を……この薬局で働かせて下さい!!」


「え……えええええ!?」


 ステイシーは思わず大きな声を上げた。店内にいる患者さん、お客様が彼女の声に驚いている。


「アーロン……あなた、本気なの?オールストン家の仕事はどうするの?」


「辞めます。オールストン家の皆さんには良くして頂きましたが、先日のポリー先生の件で思ったんです。自分の知識で大切な人の健康を守れるって素敵だなって……」


 アーロンは、真剣な眼差しで訴えた。ステイシーは、しばらくアーロンを見つめた後、マージョリーの方に向き直った。


「先生……」


「ああ、わかってるよ」


 マージョリーは、アーロンの方を向いて、問い掛けた。


「アーロン、薬剤師になるのなら、沢山勉強しなければいけないが、覚悟はあるかい?」


「はい!」


「……なら、明日から雑用係としてここに来な。働きながら薬剤師になる為の勉強をすればいい」


 アーロンは、パアッと顔を輝かせた。


「ありがとうございます!一生懸命頑張ります!!」


 ステイシーは、アーロンを見ながら懐かしい気持ちになった。自分も、最初マージョリーに弟子入り志願した時はあんな感じだった。断られるかもしれない。うまくいかないかもしれないと不安になりながらも、勇気を振り絞ってお願いしたのだ。


 アーロンには、仕事を楽しみながら成長してもらいたい。そう願いながら、ステイシーは微笑んだ。


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