医薬分業2
その時、店のドアが勢いよく開いた。
「全く、あの頑固爺……!!」
マージョリーが、不機嫌な顔をしながらドカドカと店に入って来た。
「どうしたんですか?先生」
ステイシーが聞くと、マージョリーは紙袋をカウンターに置きながら言った。
「グレン・モーガンだよ。あの爺、数年前に奥さんを亡くしたのは知ってるだろう?それで食生活が乱れてるだろうから、私は買い物するついでにあいつに食事を持って行ってやったんだよ。それなのにあの爺、礼も言わずに院外処方についてグチグチと……」
グレン・モーガンは、この近くで治療院を経営している医師だ。以前は治療院の中でモーガン医師が薬を調合していたが、半年程前から、患者さんに処方箋を渡して薬局に行ってもらう院外処方に切り替えている。まあ、ステイシーがマージョリーと共にモーガン医師の元を訪れ、院外処方にしてくれるよう頼んだのだが。
「どうしてモーガン先生は院外処方についてグチグチ文句を言っているの?」
事情を聞いたセオドアが首を傾げる。
「それは、今まで診療代には薬の調合の手間賃のようなものが含まれていたんですが、院外処方になった事でその手間賃が取れなくなったんです」
「ああ、治療院の利益が少なくなってしまったのか」
ステイシーの説明を聞いて、セオドアは納得したようだ。
「全く、あの爺だって納得したはずなのに、いつまでもグチグチと……」
マージョリーがまだ文句を言っている。
そんな話をしていると、店のドアのベルが鳴った。中に入って来たのは、少しふくよかな体型をした高齢の男性。きっちりと茶色いスーツを着ている。
「こんにちは、エイベルさん」
ステイシーが声を掛ける。エイベル氏は銀行員として働いていて、定期的にこの薬局に通っているらしい。
「こんにちは、ステイシー。薬をお願いできるかな」
そう言って、エイベル氏は処方箋を差し出した。
「はい、椅子にお掛けになってお待ち下さい」
ステイシーは処方箋を受け取ると、カウンターの奥の棚に並ぶ大量の書類の中から、数枚の書類を取り出した。
「その書類は何?」
セオドアが小声で聞くと、ステイシーも小声で答えた。
「これは、患者さんから聞き取った住所、持病、今飲んでいる薬の情報等を記録した書類です。これを見ながら、本当に処方箋の内容のまま薬を渡して良いか判断するんです。医師にも薬の知識はありますが、全ての薬の特性を覚えているわけではありませんので」
「そういうものなんだね……」
この持病や併用薬の記録を、きちんと作ろうとマージョリーに申し出たのもステイシーだ。
「あ、書類を見ないで下さいね。個人情報……患者さんの住所や病気の情報は他人に見せない方針なんです」
「わかった」
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