医薬分業1

 セオドア第一王子に一包化の事を話してから二週間が経った。あれからセオドアは何度か医療業界に興味を持つ商会に連絡を取り、ステイシーの話を聞いてくれるよう頼んでいたらしい。そして今日、ステイシーはある建物の前に立っていた。


 レンガ造りの大きな建物。門と一体になっている塀には、クロウ商会という看板が掲げられている。




 ステイシーが緊張しながら建物に入り受付で用件を伝えると、応接室に通された。しばらく一人で待っていると、ドアをノックする音が聞こえ、一人の女性が入って来た。


 ストレートの黒髪をアップにしている長身の女性。年齢は三十代くらいだろうか。切れ長の目から覗く赤い瞳が威圧感を与えている。


「おはようございます、ステイシー・オールストンと申します。本日は、お時間を頂きありがとうございます!」


 女性に見とれていたステイシーは、慌てて立ち上がり挨拶した。


「座って頂いて結構。私は経営責任者のセレスト・リンドバーグだ。セオドア殿下から話は聞いている。早速だが、一包化をする機械とやらのイメージ図を持って来て頂けたかな?」


「はい、もちろん」


 握手をするとすぐ向かいの椅子に座ったセレストに促され、ステイシーは鞄から二枚の書類を取り出した。一枚目は、機械のイメージ図。細かい部品まで、わかる範囲でなるべく詳細に描いた。といっても、前世で使っていた機械の構造そのものについてきちんとわかっているわけではないのだが。


 二枚目は、機械に求める機能をメモしたもの。できれば、粉薬と錠剤を一緒に一包化したり、用法を印字出来る機能が欲しい。




 セレストは、じっくり書類に目を通した後、言った。


「……ここまで精密な機械となると、今の技術では難しいかもしれないな」


「……そうですか……」


 ステイシーは、がっくりと肩を落とした。


「しかし、この機械の開発に成功すれば、長い目で見れば莫大な利益を得られるかもしれない。動力源を石油ではなく魔法石にすればコストを抑えられるか……」


 セレストが、ぶつぶつと独り言を言い始めた。以前セオドアが、彼女は経営学だけでなく工学にも明るいと話していた事があったが、本当のようだ。




 セレストは、しばらく考え込んだ後ステイシーを見つめて言った。


「……このイメージ図は、君が考えたのか?」


「は、はい、そうです……」


 前世の記憶があるとは言えない。


「ふうん……すごいな。この機械の件、前向きに検討しよう」


「あ……ありがとうございます!!」


 ステイシーは、深々と頭を下げた。




 その日の午後、セオドアが薬局にいるステイシーに会いに来た。


「ふうん……良かったね。リンドバーグ会長は、見込みが無いと思ったら『検討する』なんて言わずにすぐ提案を却下する方だから」


 ステイシーの話を聞いたセオドアが笑顔で言う。


「はい、クロウ商会との仲介、ありがとうございました」


 ステイシーも、笑顔で応える。

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