薬剤師としての出発4
今作った黒い丸薬と他の薬を数種類紙袋に入れて、ステイシーがルビーに渡す。
「前回いらした時と同じお薬ですが、この黒い薬は一日三回毎食後で、この白い薬は一日二回朝夕食後、もう一つの瓶に入っている赤い薬は一日一回朝だけ飲んで下さい」
ステイシーが説明すると、ルビーは少し困った顔をして言った。
「この人はねえ、よく薬を飲み忘れるのよ。気が付いた時にはもう次の服用時間が迫っているの。困ったものだわ」
薬の瓶には、コーディ・アシュトンという名前が記載されたラベルが貼ってある。二人で来局しているが、御主人の薬を取りに来たのだ。
「仕方ないだろう……仕事の事を考えていると、つい忘れてしまうんだ」
夫のコーディが眉根を寄せて言った。
「そうですか……食卓にメモを貼ったり、薬の置き場所を工夫したりしてみて下さい……」
ステイシーは、歯がゆい思いを抱きながらそう言うしかなかった。
アシュトン夫妻が帰った後、ステイシーはポツリと呟いた。
「あの方、以前にも飲み忘れたとおっしゃってたんですよね……一包化できればいいんですが」
「一包化って何だい?」
マージョリーが尋ねてきた。ステイシーには前世の記憶があるから分かるが、マージョリーには未知の言葉だったらしい。
「一包化というのは、服用する時間毎に薬をまとめる事です」
例えば、先程のコーディの薬の例で言うと、朝に飲むのは黒と白と赤の三種類なので朝の分として三個ずつ袋状の物に包む。昼に飲むのは黒だけなので一個ずつ包む。夕方に飲むのは黒と白の二種類なので二個ずつ包むといった形だ。
「成程ねえ……でも、それを手作業でやったら、膨大な時間がかかるねえ……」
マージョリーが、顎に手を当てながら考え込んだ。
「ええ、だから、一包化出来る機械が開発されればいいんですけど、私にはツテが無い上に、あったとしてもその商会が未知の商品を開発してくれるかどうか……」
しばらく店内に沈黙が流れた。
「……僕、医療業界に興味のある商会にアテがあるから、君の話を聞いてくれるよう頼んでみようか」
セオドアが、ステイシーの方を向いて言った。
「え、いいんですか?」
「うん、薬をきちんと飲めるようになる事で民の健康維持・増進に繋がるなら、僕としても喜ばしい事だし」
「ありがとうございます、よろしくお願い致します!」
ステイシーは、勢い良く言って頭を下げた。
一包化の機械が開発されれば、患者さんの薬の飲み忘れは格段に減るだろう。ステイシーは、期待に胸を膨らませた。
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