夏の夜の思い出──ふたなり娘が東屋で見た打ち上げ花火〔カクヨム版〕

楠本恵士

第1話・夏の夜の思い出──ふたなり娘が東屋で見た打ち上げ花火〔カクヨム版〕

 小雨降る夜の公園の東屋──一人の浴衣姿の女子高校生が、東屋あづまやの中に飛び込んできた。

「参った、花火大会の夜なのに……天気予報では通り雨みたいなコトを言っていたから、すぐに止むとは思うけれど」


 流依るいが、濡れて透けた、金魚の柄が入った浴衣を気にしていると。

 朝顔の浴衣を着た、別の女子高校生が東屋に飛び込んできた。

「あぁ、濡れちゃった……傘持ってくれば良かった、いやだぁ下着少し透けて見えている?」


 流依の存在に気づいた沙羅さらが、軽く頭を下げる。

「東屋、おじゃまします」

「あたしも、今飛び込んだところだから……あっ、ショーツの方までジワッと染みてきた……まっ、いいか。今の気候なら夜風ですぐに乾くから」


 少し離れた位置で、互いを意識しながら雨の降り具合を見る。

「このくらいの雨なら、止めば花火大会やるかな?」

「どうだろうね……大雨でない限りは開催するって、ネットでは書いてあったけれど」


 流依は、濡れた浴衣姿の沙羅をチラチラと見る。

 沙羅の方も、流依の気になる箇所にチラチラ視線を向ける。


 二人の浴衣の股間部分が……なにか奇妙だった。

 二人が同時に聞く。

「「あのぅ……」」


「あ、そちらからどうぞ」

「いや、あなたの方から……隣のクラスですよね」

 二人は互いの名前を名乗った。

 沙羅が思いきって、流依に聞いてみる。

「もしかして、あなたも〝ふたなり娘〟ですか?」

「あなたもってことは、じゃあ沙羅さんも、股間にアレがある〝ふたなり〟?」

「はい、ふたなりです」


 沙羅は、浴衣のすそを少しめくって下着の股間にある、男のモノの膨らみを見せる。

 流依も浴衣の裾をめくって、濡れた下着の中にある、男性シンボルの盛り上がりを見せた。


「まさか、こんな身近に〝ふたなり〟の新人類がいたなんて」

 近年になって、世界中の男性の生殖能力が著しく劣っているコトが判明した。

 人類の繁殖存続危機……そして、世界規模である秘密計画が発動された。

 

 女体の股間に生殖力が特別強い、男性性器をつけた新人類〝ふたなり種〟を遺伝子操作で作り出して、こっそり世界に潜ませる〝ふたなり〟計画。


 沙羅が言った。

「あたしたち、ふたなりは男と女の両方の生殖能力を持つ。ふたなりの、男の睾丸は生殖に有害な食品物質や有害な放射線の影響は一切受けない」


 流依が、いきなり浴衣を脱ごうとする。

「なにをしているの?」

「濡れちゃったから」

「脱ぐ必要ないよ……着ていても、涼しい夜風で乾くから」

「そっか……雨、なんとなく止んできたね」


 雲の隙間から星が覗く、涼しい夜風が東屋の中を吹き抜ける。

 沙羅が少し流依の、体を気にする……流依も沙羅を気にする。

 お互いに胸の奥がキュンとなった。

 

 ふたなり娘は、同種には興奮して発情するように、遺伝子操作で組み込まれていた。

 繁殖して新しい人類の子孫を残すために。


 沙羅が、少し離れた場所に座っている流依に言った。

「こっちに来て座らない? この位置なら打ち上げ花火、綺麗に見えるよ」

 流依が沙羅の横に座る。


 流依が打ち上げ花火が、見えるはずの夜空の方向を眺めながら呟く。

「花火、まだ上がらないかな?」

 横に座った沙羅の手が、ゆっくりと流依の浴衣の上から太腿ふとももを触る。


 流依は特に嫌がっている様子もなく、沙羅に自分の体を触らせながら、流依も沙羅の太腿ふとももを浴衣の上から撫で回し。

 少し開き気味だった沙羅の浴衣のえりから、胸元に手を差し込んで沙羅の体を触った。

 沙羅の唇から吐息が漏れる。

「んんっ……んッ」

 流依と沙羅の行為は、激しくなっていく。

 沙羅は、流依の隙間が見える浴衣のすそに、手を入れると流依の少し汗ばんだ、生の太腿を直接、往復して撫で回した。

 流依も沙羅の太腿を大胆に触る。

 二人は、誰も訪れない夜の公園の東屋で、体を触り合って互いを愛撫する。

 下着の上から互いの男性の部分に触れると、まだ高校生の二人は、少し躊躇ちゅうちょするように、手を引っ込めて内股の方を撫でる。


 子供を残す……子孫を残す。

 ふたなり遺伝子に組み込まれた本能に、次第に呼吸が荒くなる。

「はぁはぁはぁ……流依」

「はぁぁッ……沙羅、キスしよう、今は二人とも学生だからキスまでが限界」


 浴衣姿の流依と沙羅は、抱き合うと唇を重ねた。

「んんッ……んぁ」

「ん、んぅ……はぅ」

 ふたなり同士の、柔らかい唇が密着する甘美なキス。


 その時、打ち上げ花火の響く轟音と共に、夜空に咲いた大輪が二人の頬を照らす。

 唇を離した流依が、次々と夜空を彩る花火を見て言った。

「花火大会はじまったね」

「うん、綺麗だね」


 沙羅も蜂が八方に飛ぶような花火や、球体の中に楕円形が重なるような花火、銀菊の花が咲いたような花火を見ながら、流依の手を握る……流依も軽く沙羅の手を握り返す。


 そして、ふたなり種の繁殖本能に従って、流依と沙羅は再び唇を重ねると横目で、次々と夜空に咲く色鮮やかな打ち上げ花火を観賞した。


 夏の夜の思い出……ふたなり娘の思い出として。


   ~おわり~



*『カクヨム』版は、これで終わりです。元々、長い話では無かったので。

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