第2話 尻子玉の誘惑



 カッパは手ぬぐいで顔についたドロを拭いながらペラペラと饒舌に説明した。


「クワッキュ~(カッパの鳴き声)いやあ、好みの女の子が居たんですよ、目のパッチリしたお下げの似合う色白の。でね? 近づいてチョイと尻子玉を撫でてやろうとしたら、あっという間に子どもたちに囲まれて、このとおり殴る蹴るの暴行を受けましてキュキュ~~ィィッ、参った参った。」


 いや参ったのはコッチのセリフだ。俺はすでにコイツを助けたことを後悔していた。


「じゃ、いい大人が立ち話ってのもなんですので、そろそろ行きますか。キュウ!」

 カッパは踵を返して剣竜川のほとりへと歩き出した。

 歩きながらスマホでなんか言ってる。

「ハイ、ハイ、忙しいとこスミマセン、いや突然恩に着せられちまってね、そうよ! まさかボクがね、一生の不覚ですよキュ~~……。じゃ、これからひとり行きますんで、いやいやいや、好青年じゃないッスよ。デブっすよデブ、ウンコ色のデブ。ウハハ。んじゃひとつよろしくお願いします。キュウ」


「え?」と、声を漏らして怪訝な顔をする俺に向かって、さも察しが悪いやつは嫌だなぁ、と言わんばかりの顔で

「竜宮城ですよ、決まってるでしょ。キュウ」


「いやいやいや、それはカメだろ。おまえはカッパじゃないか。

 それもかなり感じの悪いカッパだ。助けてもらったことをぜんぜん恩に着てないだろうオマエ。なにが竜宮城だ」


 カッパは背中をむけたまま肩をすくめて見せた。「キュゥゥ~」


 ボコボコボコと大きな泡を立て、剣竜川の真ん中あたりに直径1メートルぐらい、でかい碁石っぽいものが水中から浮上するのが見えた。乳白色で若干発光している。

 そいつが川岸に向かってふわりと飛んでくると、みるみるうちに大きくなって最終的には15メートルくらいになった。すっかり頭上を覆っている。

 外板には毛筆書体で【スーパー・タートル号α(アルファ)】と書いてあった。

 ああ、一応カメで竜宮城へ行くという体裁は整えるのね。


「ダンナの服、ドロドロじゃないですか。あっちに着いたらそれも洗いましょう。キュウ」

 カッパにそう言われて思い出した、おれはドロドロだ。このままでは帰れない。

 普段ならこんな怪しげな誘いは華麗にスルーするのだが、今は非常事態だ、背に腹は代えられない。



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