第11話
零次と盗賊達との距離がゆっくりと縮まっていく。
(…仕方がないか。あ~あ…結局世界が変わってもこれだけは変わらない)
零次は考える。はたして「それ」は許されるのだろうか?と。
通常、人間は人間を殺さない。それは何故か?答えは簡単だ。「法」が機能しているからだ。人を無暗に殺めれば厳しい罰が待っている。それが法治国家の常識だ。零次もその点は重々理解している。
(殺人はメリットよりもデメリットの方が大きい。だがその常識は地球での話だ)
ここは日本ではない。零次からしてみればまさしく「異世界」だ。国はあるのか?法は?そもそもここはどこなのか?様々な疑問が零次の脳内をグルグルと回る。そんな極限の状況で零次は今、刃物を持った男達に囲まれている。となればやる事など1つしかないだろう。
___守らなければいけない、自分の命を。
「あ~…一応警告しておくぞ」
「※※?」
零次が最後の警告を男達に伝える。
「刃物ってのは脅しの道具じゃないんだ。そいつを抜いて人に向けている。つまり覚悟は出来ていると俺は判断したぞ?」
零次がゆっくりと拳を構える。両拳を顎よりもやや上に、左足は前に、右足の踵は軽く浮かせる。
「どうせ言葉は通じてないんだろうが、まあいいさ。俺は自分が納得できる理由があればそれでいい」
「ふぅううう~……」
「※※※※!!」
盗賊が零次の間合いへと踏み込む。そして剣を振り下ろそうと振りかぶる。だがそこまでだった。それよりも早く零次が前に踏み込む。
「しっ…!!」
肉体が弾ける音と共に零次の拳が盗賊の腹部を貫通していた。
「「「……」」」
「おいおい。のんびりしてる場合じゃないだろ?」
「…っ!?」
盗賊の意識が逸れた瞬間を見逃さず零次は2人目の盗賊の元へと間合いを詰めていた。盗賊の目に地面に倒れる仲間の姿と真っ赤な拳を振りかぶる零次の姿が映りこむ。
「構えろ。死ぬぞ」
「※※※※!?」
腰を捻り、コンパクトに伸ばされた殺人的右ストレートが盗賊の左顔へと直撃する。衝撃は盗賊の脳を内部から破壊し一瞬で盗賊の意識を刈り取った。それでも破壊は終わらない。首元はその衝撃に耐えきれず引き千切れ頭部はピンボールのように後ろへと飛んで行く。
「ふむ…まあこんなもんか」
零次は引き戻した拳をグーパーと開き自身のコンディションが悪くない事を再確認していた。零次にはこの殺人に対する罪悪感など1ミリもない。これは正当防衛。少なくとも零次の中ではそれが成立している。
「※※※※※※!!」
「※※※!?」
「…※※※※※※」
盗賊2人が同時に距離を取る。彼らは馬鹿ではない。零次の一連の行動から彼を近接型のインファイターと判断。遠距離からの抹殺に戦法を切り替える。それは現状での最適な行動とも言えるだろう。だがそれは、零次が普通の人間だった場合の話だ。
盗賊が杖を構え零次に向けようとする。だがそこに零次の姿は無かった。
「……?」
いったい何処に?その思考が盗賊の最後の記憶となった。
「ふっ…!!」
背後に回り込んでいた零次が速やかに盗賊の首を刈り取る。根本からスッポリと。鮮やかなハイキックを喰らい盗賊の首が宙を舞う。
「あと1人」
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