第10話

 零次が大慌てで池からスマホを拾い上げる。


「頼むから起動してくれよ……」

 

 電源ボタンを押し込みスマートフォンの起動を試みる零次。彼からすればこのスマートフォンは現状唯一の命綱のようなものだ。これが壊れたとなると非常にマズイ事になる。


「よかった…普通に使えるな」


 零次の心配をよそに、普通にスマートフォンは使用する事ができた。液晶画面に傷は無く。本体部分にもダメージはない。


「いや、おかしくねえかそれ?」


 だがこの事実が零次に不信感を抱かせる。


(俺と同じ場所から「落下」したんだぞ。いくら重量に違いがあるとはいっても、無傷なんてありえるのか?)


「うむむ……」


(まあ考えるだけ無駄な事か。なんせここは別の世界だ。違う世界では違う法則が働くとかそんな感じの可能性もある)


 考えても分からない事を考えるのは時間の無駄。それこそ無為である事を零次は理解していた。


「使えるならなんでもいいや。…て、なんだこりゃ?」


 スマートフォンの画面を見た零次が固まる。


「画面のUIが完全に変わってやがる。それになんだこのファンシーな壁紙は?」


 零次のホーム画面の壁紙は大量の苺ケーキをモチーフにしたものへと変化。そしてインストールしておいたはずのアプリはプリインストールされたものを除いて全て削除されていたのだ。


(時計とかカメラ機能は残ってるな。嫌がらせか何かかよ…)


「確かヤツが言っていたアプリ…「孤独の探究人」だったか?あれのテストもしておかないとな」


「…場所を変えるか」


 ここは未知の森の中。何が起こるか分かったものではない。零次は少しでも安全と思える場所を探し歩き続けた。


「……ん?」

 

 そして四方を木々で囲われたやや薄暗い場所、そこで零次は複数人の生物の気配を察知する。


(……)


 巧妙に偽装された人間の気配。零次の思考が戦闘モードへと切り替わる。


「俺に何か用か?」


 零次はそれを理解した上でその場所に踏み込む。零次からしてみればこの場所は外国だ。文化も違えば法律も違う。故にとりあえず対話という手法を彼は選択した。


(こちらからは仕掛けない。最悪でも向こうから仕掛けたという「事実」が欲しい。後々のトラブルとかも今は御免だしな)


「※※※※※※※※※※※※」


 零次の行動を見て陰に潜んでいた者たちが姿を現す。その数は4人。手には凶器を携えてだ。


「何言ってんのか全然分からねえ…」


(日本語じゃねえな。英語でもない。だが何とな~く言葉のニュアンスは理解できる)


 言語は分からない。だがそこに込められた悪意と殺意だけは零次にも理解できていた。


「参ったね…あんたら殺る気100%かよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る