第3話
「え~と、とりあえず規則だし確認するわ。…山田零次。23歳独身。出身地は日本。合ってるわよね?」
「……はぁ?」
零次が壮絶な痛みから目を覚ました瞬間、彼は既にこの場所にいたのだ。異常に広い空間に椅子一つ。気が付けばその場所に座っていたとなれば混乱するのも無理はない。
「…何だここは?」
部屋全体は暗いが完全な暗闇というわけではない。部屋の四方八方から星々のような輝きが眩く光っており、半透明の床下には巨大な地球儀のようなボールがゆっくりと回転していた。
「ちょっと聞いてるの?YesかNoだけでもいいから答えて欲しいんだけど?」
「……」
現代科学では再現不可能な光景、そして目の前のやけに神々しい雰囲気を携えた少女。それを見て零次は確信した。
___あっ…これは対応を間違えるとマジでヤバい状況だと。
「…はい。その名前と情報で間違いないです」
「敬語、使わなくてもいいわよ。…あんたに使われるとめちゃくちゃゾワゾワするから」
「……」
零次が念の為に本当に良いのかと視線で問い合わせる。それを見て少女が1度頷いた。
「では改めて…あんた、俺の事を知っているのか?」
「よ~く知ってるわよ。逆に聞きたいんだけど、あんた何で私の警告を無視したのよ?」
「警告?何だそれは?」
「あんたがパクパク食ってたラーメン越しに警告してたでしょうが!今日は仕事休んで家で寝てろって!!」
「え…?…あ~……」
思い返せばその言葉は確かに零次の記憶に存在していた。
「いや、てっきりいつもの幻聴か何かかと……」
「…まあいいわ。とりあえず自己紹介をしておくわ」
ゆっくりとした動作で少女が指を鳴らす。次の瞬間には少女の前に豪華なイスが存在していた。ゆっくりとイスに腰を掛けながら少女の自己紹介は続く。
「私の名前はNo.100よ。…私がどういう存在かは何となく理解は出来てるわよね?」
「…天使様?」
「ん~…おしい!私はその上の存在よ」
「げっ…」
九朗から思わずそんな声が出てしまう。
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。私はあなたに話があるだけだから」
「…話?」
「ええ。だけどその前に現状を整理しておきましょう」
「___山田零次。あなたは自分が死んだ事は理解してるわよね?」
「ああ…」
零次の脳内にはしっかりと最後の瞬間が刻まれている。吹き飛ぶ体、地獄のような痛み。だがそれでも零次は後悔していなかった。最後の瞬間、彼はしっかりとラーメンを味わう事ができたのだから。それだけで零次は満足なのだ。
「単刀直入に言うわ。あなたをこのまま地球に転生させる事はできないのよ」
「え…!?ま、まさか輪廻の輪から外れるとかそう言う話か!?」
(死後は虫になるのが確定とか言うんじゃないだろうな!?)
零次が焦る。それだけは何としてでも避けたいのだ。
「どうか虫に転生だけは勘弁してください!俺はラーメンが食べたいんです!!」
「ちょ…どうしたのよあんた!?」
慌ててNo.100が零次に近づき地面に擦り付けようとしていた零次の頭をグググと無理やり上げさせる。
「頭を上げなさい!このままだと私がパワハラ女神様だと思われちゃうじゃないの!?」
「虫は嫌だああああああ!?」
零次にとって人間以外への転生など地獄行きと同義だ。何故ならばラーメンを味わう事ができなくなる。それは零次からすれば悪夢のような現実だ。
「…ごめん。ちょっと説明不足だったわね。このままだと地球には転生不可能という事よ」
「…?」
ここぞと言うタイミングでぐぐっとNo.100が零次の耳元へと顔を近づける。それはまるで、悪魔が人に契約を持ち込むときのように、優しく優しく零次にとって有益な情報を囁き始める。
「___あなたに提案があるのよ。別の世界でもう一度人間をやってみない?」
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