第2話

「まったく…勘弁してよほんと…」


 地球を管理する超常の存在。そんな「神」とでもいうべき存在がその手にタブレットを持ちながら頭を抱えていた。


 地球担当の女神。個体名「No.100」それが彼女の名だ。


「…色々と確認しておかないと」


 No.100が持っているタブレット端末、そこには人間の生死の情報が表示されていた。どの人間が生きていて、どの人間が死んだのかがすぐに分かるようになっているのだ。


「間違いない…こいつだ」

 

 その画面には車と衝突した男の画像が表示されていた。表示された文字は赤文字で「DEAD」男は確実に死んでいるという事だ。


「あんなヤバいやつ、どうやって説得すればいいのよ…」


 管理者には管理者のルールがある。女神が直接その世界に干渉する事は禁止されているのだ。それでも彼女はリスクを冒してでもあの頭のおかしい男に警告を続けていたのだ。何故No.100がリスクを冒してまで人間に干渉したのか。それはあの男はどういうわけか「邪神」に目を付けられているからだ。


「有象無象の邪神ならどうでもいいんだけど、何でよりにもよってあの「暴食」が……」


 通常、人間が死亡した場合、その魂は新しい存在となって同じ星に生まれ変わる事になっている。そこに神の手は介在しない。自動的な巡廻のようなものだ。


「だけど…ごく稀に表れるのよね。「神」も「邪なる者達」も魅了するような異端の魂が」


 このまま放っておけば、ほぼ間違いなく男の魂は邪神側に取り込まる。もう既に「暴食」がこの男の魂に干渉しようと行動を起こしているという確かな情報もあるのだ。


「だというのに……」

 

 男への警告は全て徒労に終わった。それは何故か?答えは簡単だ。


 ___男は、想像を超えるレベルの阿呆だったのだ。


(とにかく、この男をこのまま地球に転生させるわけにはいかない)


 だがしかし、本人の同意なしで別の世界に魂を送る事は規定で禁止されている。とにもかくにも男を説得し、合法的に地球から出て行ってもらわないといけないのだ。


「よし。行くか…」


 男の魂はNo.100の事務室内に設置された「休憩室」に召喚してある。この行為も本来は規定違反ではあるのだが、今はそんな事を気にしている場合ではない。1秒でも早く男の魂を地球からパージできなければ更に厄介な事態に突入してしまう。あとはどう本人を説得できるかだけなのだ。


「う…胃が痛くなってきたわ」


 No.100はストレスから発生する胃痛を堪えながら、休憩室を目指し歩き出した。何故こんな面倒な事をしなければいけないのか?その答えは実にシンプルだ。


 ___そう、上司命令だからだ。


 いかに女神といえど、彼女は「神界」という会社に所属するただの平社員。上司の命令には逆らえないのだ。

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