エピソード 3ー13
目覚めると、慣れ親しんだベッドの天蓋が目に入った。どうして寝ていたんだろうと身を起こせば「お嬢様!?」とクラウディアの声が響いた。
「クラウディア、私、どうしたんだっけ?」
「覚えていらっしゃらないのですか? お嬢様は魔力切れで寝込んでいらしたんです」
「魔力? ……あぁ、そうだったわね」
瘴気溜まりを浄化するときに魔力を枯渇させた反動で寝込んでいた。それで、森から屋敷に帰るまでのあいだほとんど眠っていたのだ。
「お嬢様、もう大丈夫なのですか?」
「ええ。魔力は大丈夫そう。ただ……お腹が空いたわ」
そう言って苦笑すると、クラウディアはすごく安堵した顔をして、「すぐにおかゆを用意します」と言って部屋から出て行った。
それからほどなく扉がノックされる。
「……誰?」
「俺だ、入ってもいいか?」
お兄様の声だ。私がちょっと驚きながら許可をすると、一呼吸置いてお兄様が部屋に入ってきた。私はお兄様の整った顔を見上げながら首を傾げた。
「お兄様がノックをするなんて珍しいですね」
「憎まれ口を叩けるなら大丈夫そうだな」
お兄様は苦笑しながらベッドの縁に座ると、私の肩を掴んでおでこを押し当ててきた。そのおでこを通してぬくもりが伝わってくる。お兄様の整った顔が私の視界いっぱいに映った。
「お兄様?」
「熱はないようだな」
お兄様はそう言って顔を離した。
「魔力切れで寝込んでいただけですよ」
「嘘を吐くな。疲労でボロボロだったし、風邪を引いたのか熱もあったそうだぞ」
「……そう、だったんですか?」
初耳だと瞬く。
「なんだ、自覚はなかったのか? お父様やお母様が、おまえが死んでしまうかもしれないと大慌てだったんだぞ。まったく。ケガ一つせずに帰ってこいと言っただろうに」
「……ごめんなさい」
心配を掛けて申し訳ないと思いつつ、家族に心配されて嬉しいという気持ちで頬が緩んでしまう。私が両手で頬を押さえると、お兄様に頭を撫でられた。
「ずいぶんと活躍したそうだな?」
「それは……仕方なかったんです」
たぶん、私が動いたせいで色々と誤解を招いてまずいことになっている。でも、あのままなにもしなければ、絶対にもっとまずいことになっていた。だから、私に後悔はない。
後悔はないのだけど……
「そうか。ちなみに、その件でアラン陛下やシリル様より手紙が届いているぞ。体調が回復次第、連絡をして欲しい、と言うことのようだ」
やっぱり、すごく大変そうだなぁと、私は苦笑いを浮かべた。
「ちなみに、お兄様はなにも言わないのですか?」
「俺か? そうだな……」
彼は少し考える素振りを見せた後、私の頭を軽く引き寄せ、「おまえが無事ならそれでいい」と私の耳元に唇を触れさせた。
「お兄様、妹を泣かせるつもりですか?」
「そういうおまえは何人泣かせたんだ?」
言い返せない。私が視線を泳がせると、お兄様は笑って「なにか困ったことがあればいつでも俺を頼れ」と笑った。
そこに、クラウディアが戻ってくる。トレイにはおかゆが乗っているようで、すごくいい匂いががした。思わずお腹が鳴りそうになって手で押さえる。
「お嬢様、起き上がりますか? それとも、ベッドで食べますか?」
「そうね……」
「そのまま食べるといい」
起き上がろうとすると、お兄様に止められた。そしてお兄様はクラウディアからおかゆの装った器を受け取り、スプーンでおかゆを掬って差し出してきた。
「熱いから気を付けろ」
「まさか、お兄様が食べさせてくれるんですか? さすがに恥ずかしいのですが?」
「俺は恥ずかしくない。だから、気にするな」
私は助けを求めてクラウディアを見る。彼女は微笑んで「仲良しですね」と言った。違うの、そういう問題じゃないのと思うけど、すごくいい匂いが私を誘惑してくる。
と言うか、お腹が空いた。私は色々と諦めて、そのスプーンに食らいついた。
「……美味しい」
「ならよかった。いつ起きてもいいようにと、料理人が待機してくれていたんだ」
「あら、では、後でお礼を言わなければなりませんね」
「ああ、そうするといい。それと、クラウディアにはもうお礼を言ったのか? ずっと寝ずに付き添ってくれていたんだぞ?」
「……そうだったのね。クラウディア、いつもありがとう」
視線を向けると、クラウディアは「お嬢様が無事でよかったです」と言ってくれた。私、本当に愛されてるなぁ。嬉しすぎて涙が零れそうだ。
「……ソフィア?」
「いいえ、なんでもありません」
私は精一杯の笑みを浮かべ、これからも愛してもらえるようがんばろうと誓った。
その日の夜、出先から帰ってきた両親に思いっきり抱きしめられた。それから「一体なにがあったの? 貴女が聖女だと噂されているけど本当なの?」と聞かれる。
さすがに、お兄様のように見逃してはくれないようだ。
「実は――」
私が瘴気溜まりを浄化したこと。ただし、それは理由があって出来たことで、私は聖女ではないと打ち明けた。
「詳細については、アラン陛下にお伝えするまで待ってください。私の一存でこの情報を公開してもいいか分かりませんから」
そういうと、お父様とお母様は目を白黒させながらも一応の理解を示してくれた。
これで、後は陛下達の誤解を解くだけだ。誤解を解けなければ乙女ゲームのバッドエンド、人類の衰退までまっしぐらだけど……まあなんとかなるだろう。
という訳で、数日が過ぎたある日、私は王城へと足を運んだ。
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